第17話 先輩17 夏休みー花火3

 「カイ君、なぁ、カイ君ってば」

 「……ん?何?」

 「さっきからどうしたんだよ、ぼーっとしちゃって」

 「ぼーっとなんてしてないぞ」

 「うそつけ。俺が何回呼び掛けても全く反応してなかったぞ」


 優斗は疑いの目を向けてきた。

 

 「まぁ、別に大したことじゃないから大丈夫だよ」

 「……カイ君がそう言うなら、別にいいんだけどさ」


 嘘である。全く持って大丈夫ではない。でも、これを誰かに話していいものかと考えてしまう。というか、僕自身、まださっきの出来事をよく理解できていなかった。そのため、話そうにも、なんて言ったらいいのかうまく言葉を並べる自信がなかったのだ。


 「それより、他の女子たちは?」

 「みんな屋台の方に行くってよ。俺は荷物番ってわけ」

 「そっか、それは申し訳なかったな」

 「ほんとだよ。数分で帰ってくると思っていたのに、全く帰ってくる気配がないんだもんなー、カイ君」

 「マジでごめん……」


 まさかトイレに行く途中で先輩に会ったとは言いにくい。僕は申し訳なさそうに謝った。


 「なんて冗談だよ。こんな日だ、トイレは女子も男子も混むわな」


 優斗は綻ぶように笑った。



 「おーい、おまたせー!」

 「お、やっと戻ってきた」


 人ごみの濁流から両手一杯にビニル袋を掲げたクラスの女子たちが飛び出してきた。


 「もう遅いよ、みんな」

 「ごめんごめん、いろんな屋台があっていろいろ買っちゃった」

 「おー、何買ったんだ?」

 「えーっとねぇ、ジュースに綿菓子に焼きそばにたこ焼きに焼き鳥にりんご飴にヨーヨーに……それからチョコバナナ!」

 「なんだよ、その食べ物のオンパレード」


 確かに。っていうか、その中に並ぶ謎のヨーヨー感なに……。


 「まぁ、ほとんど明日香が買ったんだけどね」

 「そうそう、しかも全部2人前」

 「だ、だって、みんなでシェアしたほうがいいでしょっ?」

 「にしても買いすぎだよ」

 「えー、いいじゃん。おいしいんだから」

 「でも、そんなに食べると太……いたぁっ!?」

 

 余計な一言が聞こえたと思ったら、優斗の顔面に缶ジュースがドストライクしていた。


 「なにか言ったかしら、優斗?」

 

 明日香がひきつった笑顔を見せる。

 

 「い、いえ、なんでもありませんっ!」


 「優斗、サイテー」

 「ほんと、デリカシー皆無~」

 

 次々と女子からバッシングを受ける優斗。かわいそう。


 「か、カイ君~、こいつらひどいよ~」

 「今のは優斗が悪い」

 「え~、そんなぁ」


 だからと言って、僕は優斗の見方はしない。確かにこいつが悪いってのもあるけど、なにより、僕も女子が怖い……。女は敵にするなかれ、だ。


 

 「それじゃぁ、みんなで食べよっか!」

 「「「さんせー!」」」

 

 そんなわけで、女子たちが買ってきたものを広げ始めた。


 「ん~、おいしいっ!」

 「うん!このたこ焼き、タコ大きくて最高!」

 「綿菓子もふもふでおいひい~」


 夕食時ってこともあって、みんな花火どころではないらしい。大量に買ってきていたはずの食べ物のオンパレードはどんどん彼女たちの胃袋に飲み込まれていく。


 「あれ、カイ君食べないの?」

 「あ、いや、食べてるよ」

 「そう?遠慮なんてしなくていいからね。ほら、たこ焼きもどうぞっ」


 そう言って、明日香はたこ焼きに爪楊枝を刺し、僕の口に持ってくる。

  

 「じ、自分で食べるからいいよっ」

 「そ、そう……」

 

 しゅんとする明日香。さすがに失礼だったか……?


 「えいっ!」


 そう思った次の瞬間、僕の口の中に熱々のたこ焼きが突っ込まれた。

 

 「あ、あふっ、あふっ!」


 「ふふっ、どう?おいしいでしょ?」


 爪楊枝を持った明日香が軽快に笑った。


 「ごくんっ。おいしいな、これ」

 「でしょっ?」


 明日香はさらに笑みを深めた。


 「あーすーかー、何イチャイチャしてるのかなー?」

 「ほんとほんと、2人だけの世界に溶け込んじゃってさ」

 「なっ?!い、イチャイチャなんて……」

 「私たちに『あーん』を見せつけておいて何言ってるの~?」

 「そ、それは……」


 ガヤガヤと何やら楽しそうに話す女子たち。ほんと女子ってガールズトーク好きだよな。

 

 「いたっ」


 隣から腰をつついてくるクラスメート(男)が1人。


 「な、なんだよ」

 「いやなに、クラス有数の美女に『あーん』してもらえてうらやましいだなんてこれっぽっちも思ってないですから」

 「いや、あれは半ば強引に……」

 「ねぇねぇ、カイ君」

 

 クラスの女子が僕の肩をつんつんと叩いた。

 

 「ん?なに?」

 「あのさ、カイ君って明日香のことどう思ってるの?」


 女子は少し小さめな声でそう聴いてきた。

 

 「え?どういうこと?」

 「またまたぁ、恥ずかしがらなくていいよ~。結構前から2人っていい雰囲気じゃん」

 「んー、明日香とは小学校のころからの付き合いだからな」

 「そうじゃなくてさっ。ぶっちゃけ、明日香の事女の子としてどう見てるの?」

 

 あー、そういうことか。

 鈍感な僕でもさすがにこの質問の意味はわかる。でも……。


 「…………僕は」


 「まぁ、別に今聞かなくてもいいんじゃないか?」

 

 え?

 

 「えー、優斗だって気になるでしょ?」

 「そりゃまぁ気になるけどさ、それは2人が付き合ってからでもいいかなって」

 「私は今気になるけどなー」

 「そういうお前の好きな奴は誰よ?」

 「えっ?!わ、私っ?」

 

 急に方向を自分の方に向けられて慌てる女子。

 優斗、まさか僕がなんて答えたらいいか、悩んでいることを察して……。

 

 「ありがとな」ボソッ

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