第11話 先輩11 夏休みー3

 「あら、あなたたち、カフェにいたの?」

 

 お店を出ると、ちょうどそこで片手でカートを押すエリカさんともう片方の手で手をつなぐ小春に出会った。

 

 「うん、ちょっと休憩。それよりお母さんたちはもう買い物は終わり?」

 「んー、あと少しで終わるかな。ごめんね、2人ともあと少しだけぶらぶらしててもらっていいかしら?」

 「うん、いいよ」

 「じゃぁ、5時半に1階の本屋に集合ね。あ、そうだ。有希亜、あなた今年の水着まだ買ってないわよね?お金あげるから2人で買ってきなさいよ」

 「え、今度でいいよ……」

 

 するとエリカさんはどこかで見たことのある、というか先ほどさんざん見たあの顔とそっくりの顔を、今度は先輩に見せて言った。

 

 「私と決めるより、男の方が的確な意見出してもらえるでしょ?それにカイ君なら……、ね?」


 ?何の話だろう?

 

 「ちょ、ちょっとお母さん!」

 

 先輩は慌てて何かをごまかすようにお金を受け取る。

 

 「じゃ、じゃぁ後でねっ。カイ君、行こっ」

 「あ、はい……」

 「行ってらっしゃーい!」

 

 エリカさんと小春は笑顔でこっちに手を振っていたが、先輩は見向きもせずさっさと歩いて行ってしまった。

 

 

 で、2話ぶりに現在に至るわけで……。

 

 「そ、そうですね……似合ってると思います」

 

 僕は目の前の水着姿の先輩を一瞬だけ見るとすぐに目をそらして無難な感想を言った。

 

 「そ、そう……。じゃぁ、次の水着に着替えるからちょっと待ってて?」

 「は、はい」

 

 マジか……。まだこの半殺しのような天ご……地獄は続くのか。

 同年代女子の水着姿なんて、ただでさえ学校で競泳水着しか見たこともないのに、先輩の、しかも少し大人っぽい水着姿なんてまともに直視できるはずもない。

 周りを見ると、高校生らしき制服を着た女子高生のグループが一つと、大学生らしきカップルが2組ほど店内を回っているのが見える。

 そんな中で、1人試着室前で立ちすくむ僕。いくら女子の先輩の同行とはいえ、この場所に1人残されるのはいささか気まずい。

 早く出てきて、先輩、と願いつつ、僕は店内を不審がられないように見渡していた。

 

 シャアァッ。


 「カイ君」

 

 カーテンが開いた音がしたと思ったら、先輩が首から下はカーテンで隠し、顔だけ出して僕を呼んだ。

 

 「は、はいっ?!」

 「どうしたの、そんなびっくりしたような声出して?」

 「い、いや、なんでも」

 「そう……。それよりこれどうかな?ちょっとさっきよりも派手なものにしてみたんだけど」

 

 そういって、先輩は残りのカーテンも空けた。

 先ほどよりも大胆でなんだか配色も強めの水着に、またしても固まる僕。先ほどは白をベースにして水色を波のように描いた少し布地面積も多い純粋さがあらわれたものだったのに対し、今度は少し赤が多めで布地面積も少なく、体のラインがはっきりと強調されているなんとも大人っぽい水着だった。

 先輩は中学生のわりには平均以上のそれを持っていて(多分)、それが余計同年代の僕からしたら彼女を一回り年上の大人の女性に見せているのかもしれない。

 

 「いいと、思いますよ。ちょっと大人っぽいというか……」

 「やっぱり!?よかった、ちょっと私には早いかなって思ってたんだよねー。じゃぁ、この2つから選ぼうかな」

 「そうですか。それじゃぁ、僕は入り口のところで待ってますか……」

 

 そう言って、僕はそそくさと店を出ようと振り返ったところで、後ろから服の袖をつかまれた。

 

 「待って」

 「な、なんですか?」

 「どっちがいいか、カイ君が決めて……?」

 

 2着目の下着を着たまま、先輩は上目遣いで僕にそう言った。

 

 「ど、どっちでもいいと思いますよ?」

 「どっちでもいいはナシ。ちゃんと決めて?」

 

 そんなこと言ったって、どっちがいいかなんて素人の僕には決められないよ。

 

 「どっちを選んでも、私文句言わないから。カイ君が決めたほうにしたいの」

 「え……?」

 「あ、そ、そういう意味じゃなくてねっ?男の子のカイ君に決めてもらったほうが、参考になるかなって思って」

 

 あー、そういうことなら理解できる気がする。

 

 「え、えっと、それじゃぁ……」

 「うん」

 「最初の白と水色の方……かな」

 「そっか。参考までに一応その決めても聞いていい?」

 「えー」

 「お願い」

 「んーっと、先輩には派手な方よりも明るめの穏やかな水着の方が……キレイだったから……」

 

 そう言って、先輩の方を見ると、先輩の顔は水着の色以上に真っ赤に染まっていた。

 

 「そ、そっか……。分かった、じゃぁレジでお会計してくるからお店の外で待ってて」


  そのまま、先輩はさっとカーテンを閉め着替えを始めた。




 「お待たせっ」

 

 お店の前のベンチに座っていると、先輩が店内からお店の名前がプリントされた紙袋を持って出てきた。


  「はい。水着、替えましたか?」

 「うん!ありがとね、付き合ってくれて」

 「いえ、全然大丈夫ですよ」

 「フフフ、ほんとは緊張してたんでしょ?」

 「え、そんなことは……」

 「もう。嘘ついても無駄だよ。カイ君、緊張したり恥ずかしくなるとすぐ顔赤くなるからね」

 「そういう先輩だって、さっきすごく顔赤かったですよ?」

 「ふぇっ?も、もうそれは忘れてっ!ほらっ、そろそろ5時半だし、本屋行くよ!」

 

 そう言って、先輩はまたも顔を少しだけ赤くしながら1人歩き出した。今日の先輩はなんかこう、すごくかわいいな。

 無意識のうちに、僕はそう考えていた。



 「お、来た来た。有希亜、かわいいやつは買えた?」


  本屋の前に着くと、すでにエリカさんと小春は読書コーナーの席に座っていた。

 

 「うん!カイ君にも決めてもらって選んだよ」

 「ほう?男の子に決めてもらうだなんて、うちの娘ながら優秀じゃないの」

 

 悪戯っぽくエリカさんが言うと、またも先輩は顔を赤くして反論した。

 

 「だ、だって男の子に決めてもらうのがいいって言ったのお母さんじゃんっ!」

 「あはは、そうだっけー?」

 

  この親子は、2人そろって人を弄るのが得意らしい。まぁ、エリカさんの方が先輩より弄るのが上手らしいけど。

 

 「よし、それじゃぁそろそろ帰ろっか」

 

 そういって、エリカさんはカートを押して、読書コーナーを出た。

 

 「と、その前に。今日は有希亜の買い物に付き合ってくれてありがとうね、カイ君」

 「いえ。僕も楽しかったです」

 「そのお礼というわけじゃないけど、ほら、お小遣い上げるから3人であそこのアイスクリーム屋さんで何か買ってなよ」

 「やったぁ!お母さん、ありがとう!」

 

 先輩は子供の用に小春と喜んでいる。


 「すみません、お金まで。ありがとうございます!ほら、小 春、行こうか」

 「うん!」

 「ほら、有希亜も行っておいで」

 「うん!」

 

 こうしてアイスを買った3人は車の中で上機嫌にそれぞれの味を堪能した。

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