第10話 先輩10 夏休みー2
「ど、どうかな……、似合う?」
恥ずかしそうに試着室のカーテンを開くと、そこには平日毎週見慣れていたはずなのに、それとは全く別物の姿がそこにあった。そのあまりにも綺麗な絵になりそうな光景に、僕は目を見張ったまま凍結してしまった。
「もう、カイ君ってば……、何か反応してよ」
「あ、そ、そうですね……」
なぜこんな状況になっているんだ……?
車を走らせてしばらくすると、前方に大きなショッピングモールが見えた。多分この周辺では一番大きなショッピングモールといえるだろう。駐車場は夏休みのせいもあってかどこも埋まっている。ようやく入り口から少し離れたところに車を止め、僕たちは冷房のよく聞いた屋内に入っていった。
「それじゃぁ私と小春ちゃんは食材とかいろいろ買い物してくるから、2人で店内ぐるぐる回っててねー」
そう言って、エリカさんは小春を連れて、人ごみの中に消えていった。
「さて、今からどうしよっか?」
先ほどの慌てぶりはすっかり消え、いつも通りの余裕ぶりを見せる先輩。
「そうですね、先輩が行きたいところでいいですよ?」
「んー、私が行きたいところかぁ。そうなると洋服店が多くなっちゃうけど、いい?」
「はい、全然いいですよ。どこのお店から行きます?」
「じゃぁ1階から順に回っていこうか!」
そういって、先輩はスタスタと歩き出した。
~1時間経過~
「カイ君、大丈夫?」
「は、はい。全然余裕です」
嘘である。普段からあまりショッピングモールに行かない僕は、たった1時間屋内を歩き続けることがこんなにしんどいとは思いもしなかった。部活動の1日練習とはまた違った疲れが今生じている。先輩にあわせるとは言ったが、まさかホントにここまで全店洋服を見て回るとは予想していなかった。女子って、ホントすごい……。男の僕は、もう飽きちゃったし、立ちっぱで足は限界。
「ははは、カイ君嘘下手すぎ。顔見ればもう限界ってすぐわかるよ」
「マジか。僕そんな顔に出てました?」
「うん、わりとはっきりと。ちょっとそこのカフェで休憩しよっか」
そう言って、2人は向かいのおしゃれなカフェに入った。
「ごめんね、カイ君。洋服なんて見ても面白くなかったよね」
「い、いや、こっちこそごめんなさい。先輩に気を使わせちゃって」
「んー?全然気にしないで。私もカイ君に甘えて好き放題洋服見ちゃってたから。それにこういうの慣れてなかったから」
「?洋服店を誰かと見て回ることがですか?」
「あはははっ。さすがに友達とかお母さんとかとはよく来てるよ。そうじゃなくて……男の子と一緒にお店回ることがね」
少し恥ずかしそうに机の自分の紅茶に目を落とす先輩。
「あ、ご、ごめんなさいっ。僕がいてお店回りにくかったですよねっ」
慌てて、謝る僕。
「違う違う、別に迷惑だなんて思ってないよ。、むしろ1人で回るのはあんまり好きじゃないから一緒に回ってくれて助かった」
「そう、ですか。それならよかっ……」
「あ、でもちょっと困ったことはあったかも」
そう言って、先輩はあからさまに困ったような顔をした。
「え、な、なんですか!?」
僕は思わず声が上がっていた。すると先輩はいつもの悪戯っぽい顔をして言った。
「それはねー、男の子には入りずらい洋服店に入れななかったことかな~?」
「え、それって……?」
「ほら、あそこ」
そう言って、先輩はカフェのガラス越しに見える向かいのとある洋服店を指さした。そこは他の洋服店よりも店内がいやに明るく、置いてある服の種類はたったの1種。だが、形や大きさ、そして色鮮やかに、しかし整頓されて置かれている。そして、お店の前には大きく『新下着30%OFF!!』と看板に書かれているのが見えた。
「カイ君、ガン見し過ぎ……」
「はっ!」
先輩のいつもより少し低めの声で我に返り、とっさに前を向きなおす。
「ふふっ。カイ君も男の子なんだね」
「あ、いや、今のは……」
またあの悪戯っぽい顔だ。先輩が僕を弄るときにする顔。うれしくはないが、同時に怒っているわけではないという事もわかるので、少しホッとする。
「まさか、今からあそこに……?」
僕がおそるおそる聞くと、先輩は悪戯顔を緩めて言った。
「さすがにあのお店にカイ君を連れて行くと、お母さんに怒られそうだし、それに……」
「それに?」
油断しきって、僕が聞き返すと、先輩は今日何度目か知らないさっきの顔をまた作った。
「カイ君に私のサイズ教えるわけにはいかないからね~」
「なっ!?」
途端に僕の顔は真っ赤になる。
「あははは。カイ君顔真っ赤!かわいい~!」
あー、もうほんとこの人は……。
「さて、休憩もしたし、カイ君のかわいい反応も見れたし、そろそろ次行きますかっ!」
そう言って、先輩は嬉しそうにすっと立ち上がった。一方の僕はまったく満足してないし、うしろ余計疲れた気がするけど……。
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