第12話 先輩12 夏休みー4
「さて、それじゃあお母さん夕食を作るから……そうねぇ、今日は小春ちゃんにお手伝いしてもらおうかしら?」
青と緑のカジュアルなエプロンを身にまといながら、エリカさんは小春の方を見て言った。
「うん!お手伝いする!」
それに対し、上機嫌にうなずく純粋無垢な僕の妹。普段から家でも母さんの家事の手伝いをしているだけあってものすごい乗り気だ。おかげで何も手伝わない僕はよく怒られる……。まぁ、僕が悪いんだけど。
「ありがと~。じゃぁ、あなたたち2人は有希亜の部屋で夏休みの宿題を少しでも進めちゃいなさい。有希亜は夏休みの宿題、全然進んでないでしょうから」
わぁ。エリカさん、目が笑ってない……。
「ちょ、ちょっとは進んでるよっ!それに忙しいのは部活動で忙しいからだし」
あ、それは言い返さないほうが……。
そう言おうかと思ったが、時すでに遅し。エリカさんの後ろに黒い影が見える(ような気がする)。
「ふーん?そういう割に夜はお風呂上りはずっとテレビばっかり見てるわよね?しかも下着のままで」
……ん?!
思わず、先輩の方を見る僕。先輩も、まさか赤の他人、しかも同年代の男子の前でそんな秘密を母親にバラされるとは思わなかったようで、今日一番の真っ赤な顔を必死に隠そうとしていた。
「な、なんでそれを……、じゃなくて、何を言ってるのかよくわかんないっ!そんなことしたことないから!」
と、最後はなぜか僕の方を見る先輩。
「えっと……」
僕が反応に困っていると、先輩は僕の手を引っ張って階段の方へ向かった。
「か、カイ君!上行こっ」
「あ、は、はい」
そう言って、2人は上の階へ登っていった。
ガチャ。
「あんまり片付いてないけど、どうぞ入って」
2階に上がって、突き当りの部屋に入ると、なんとも女の子らしい清潔感のある部屋が目に入った。さすがに妹の部屋みたいに壁も机もベッドもピンクの幼さは感じられない。むしろ、少し大人の女性って感じがする。壁は水色の淡い水玉模様が適度に配色されていて、机は新品のような艶のある木の色をそのまま表している。心なしか、部屋いっぱいにシトラスの優しい香りがする。これのどこが片付いてないと言うのだろうか。
「お邪魔します。って、全然きれいじゃないですか」
「ほ、ほんとっ?」
先輩は嬉しそうに反応する。
「はい。でも……」
確かに先輩の部屋はとてもきれいで清潔感を感じる。……のだが、その驚きをさ
らに上回るものが目の前いっぱいに映っていた。
「あ、その先は言わないで……」
「このベッド……」
「言わないでって言ったのに~……」
先輩は慌てて続く僕の言葉を塞ぐ。そう。壁、机、床、香り、クローゼット。どれもきれいに片づけられていて女の子らしさを感じたのだが、部屋の半分を埋め尽くしている目の前のベッドが、「シングル」ではない「ダブルベッド」が、部屋のほかの要素すべてをどうでもよく思えさせてしまっていたのだ。
「参考までに聞いていいですか……?」
「はい、なんでしょう……」
「どうしてダブルなんですか?」
「べ、別に変な意味があって2人用を買ってもらったわけじゃないのっ。ただ私、昔見たドラマで家族仲良くダブルベッドで絵本読んだり、トランプゲームをしたりするのを見て、憧れてただけで……」
「クスクスクスッ……」
「も、もう!笑わないでよっ」
「ハハハ、ごめんなさい。でもなんか理由が思ったよりかわいくって」
止まらず笑い続ける僕。
「もうっ。カイ君にかわいいとか言われたくないしっ」
「はいはい。それで、このベッドで埋め尽くされた部屋で、どうやって勉強するんですか?」
わざと意地悪っぽく言うと、先輩は拗ねたような顔でこっちを見た。
「……このベッドの上でやればいいでしょ?」
やっぱり…‥。
「わかりました。じゃぁ、早速始めましょ?」
そう言って、僕と先輩はダブルベッドにそれぞれの課題を広げ、勉強を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます