第8話 先輩8 テスト勉強ー後半戦
「それじゃぁ、勉強会始めよっか」
「そ、そうですね」
「……」
どうしてこうなった……!?
話は遡ること、10分前。
「今日はどうしたんですか、先輩?」
「どうって、そりゃテスト勉強だよ。カイ君もそうでしょ?」
「まぁ、そんなところです」
確かに、この時期に学生が図書館に来る理由なんて期末のテスト勉強一択しかないか。でも、1人なのになんで家じゃなくてわざわざこの暑い中……。
「あー、今なんで一人でこんなところにって思ってたでしょ?」
「え、そんなことは……」
ズバリ思っていたことを当てられ動揺を隠せない僕。エスパーかな、この人?
「フフッ、動揺してるのバレバレ。今日はね、ほんとはクラスの子と勉強する約束だったんだけど、ついさっき急用ができたとかでこれなくなっちゃったらしいの。だから、ちょうど今どうしようか悩んでいたところ」
「あー、そういう事なんですね」
すると、先輩は何かを思いついたように顔を上げた。
「あ、そうだ!いいこと考えた。カイ君、今からそこの自習室で勉強するんでしょ?よかったら私も一緒に混ぜてもらえないかな?」
「え!?僕はいいですけど……」
僕が先ほどから黙りこくっている明日香に目をやると、僕の背中の後ろでめちゃくちゃ嫌そうな顔をした同級生がそこにいた。
「お部屋貸してくれたら、お礼に勉強見てあげるから。ってことでいいかな。カイ君?それと……明日香ちゃん、でいいのかな?」
ここでようやく先輩の口から明日香の名前が出たので、思わず明日香の方を見る。ここまで話しておいて、一番許可を取らなきゃいけない人に急に声をかけるとか、どこのメンタリストですか……。
「まぁ、別にいいですけど」
さっきまでの明るめのテンションとは打って変わってあからさまにそっけない反応を見せる明日香。多分二人が話すのは初めてだろうけど、あまり仲いいようには見えないな。
「ほんと?ありがとう!じゃぁ、私部屋取ってくるね」
「あ、僕が行くんで大丈夫ですよ」
「じゃぁ、一緒に行こうか、カイ君」
「えっ……」
先輩がとっさに僕の手を取って受付の方へ歩き出した。先輩の手は僕よりも小さくて温かった。男友達や家族の手とは全然違う女の子の柔らかい手。
なんか恥ずかしいな。一目は少ないといえ……。
「ごほんっ!」
あ、一番見られたらマズい人が真後ろにいたみたい……。首だけ振り向くと、後ろに立っている同級生は先ほどよりも明らかに不機嫌そうな顔でこっちを見ていた。主につながれた手と手を。
「せ、先輩っ、引っ張らなくても大丈夫ですからっ」
焦って手を先輩から離すと、先輩は苦笑いしながら謝ってきた。
「ご、ごめんね。つい勢い余ってさ」
その時ばかりは、その笑顔がただの罪悪感からでるものとは違うことを幼いながら少しだけ気づいていた僕だった。
そんなこんなで今に至るわけだが……。
「ねぇ、カイ君、ここわかんないんだけど……」
「あ、それなら私が教えてあげよっか、明日香ちゃん?」
「い、いえ、カイ君に教えてもらうので大丈夫です」
この空気、ピリピリしすぎてお腹痛くなりそうなんですけど……。誰か助けて……。
「ふぅ、結構勉強進んだね!」
「そうですね」
閉館アナウンスとともに、図書館を出ると、夕焼けの空には、すでにうっすらと三日月が上っているのが見えた。さすがに四時間ぶっ続けで鉛筆を握ると集中力も切れるよな……。
「今日は一緒に勉強してくれてありがとね」
先輩はいつも通りのテンションで言った。
「いえ、こちらこそわからない所教えてくれてありがとうございます」
「ありがとう……ございます」
「どういたしまして、カイ君。それから、明日香ちゃんも」
明日香のふてくされたお礼も気にせず、軽い調子で返す先輩。さすが、先輩だけあって器が大きい。一方の明日香は序盤よりは落ち着いたが、まだ先輩に対して警戒心を保ち続けている。
「また、わからないことがあったら二人とも遠慮なく聞きなよ」
「はーい」
あの後、結局明日香も僕も先輩に分からないところは一通り教えてもらった。最初は先輩に教えてもらうことに抵抗していた明日香だが、先輩の教え方が学校の先生より遥かに上手だったので、終盤には自分から隣に座っていろいろ質問していた。
「じゃぁ、二人ともまたねー、気を付けて帰りなよ~」
「「はい、今日はありがとうございました」」
こうして、ハラハラドキドキの勉強会は無事?幕を閉じた。
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