第7話 先輩7 テスト勉強
運動会から月日は流れ、気づけば一学期の期末テスト直前になっていた。一週間前は基本部活も委員会活動も休みになる。よって、ある者は塾へ行き、ある者は家で一人黙々と勉強する、はず。
「それではみんな、今日は部活ないから家に帰ってしっかりテスト勉強するように!」
「はーい」
先生の言葉に、みんなはけだるそうに返事をする。
「カイ君はこの後どうする?」
荷物をまとめていると、隣から明日香が唐突に聞いてきた。
「どうするって、帰るけど?」
「そうじゃなくて、家で勉強するの?それとも塾?」
「あー、俺は塾には通ってないから基本いつも家でやってるな」
「ふーん」
明日香は何やらうれしそうな顔であごに手を当てている。
「それがどうかした?」
「カイ君ってさ、前回のテスト、結構点数よかったよね?」
「そんなことないと思うけど。まぁ、明日香よりは高かったかもな」
悪戯っぽく言うと、明日香は頬を顔を手で隠した。
「うっ、くやしい……。でも、それなら助かるわ。私に勉強教えてくれない?」
「え?いつ?」
「今日、帰ってから」
「どこで?」
「んー、図書館とかでいいんじゃない?」
「僕、一人で勉強するはなんだけど……」
「人に教えることで、自分の勉強にもなるって先生いつも言ってるでしょ?それに一人だと、スマホ見ちゃったり、眠くなったりするでしょ」
「いや、それ僕じゃなくて、明日香の話だろ」
「言い訳は聞きません。とにかく、二時に丘の上の図書館前に集合ね」
まだ、了承も何も言ってないんですが?
「じゃぁ、また後でねー」
「あ、ちょっ……」
せっかくの家での有意義な勉強時間は、突如現れた無遠慮女子によって真っ黒に塗り潰された。
僕が住む、ここ浜松市は、東京や大阪に比べるとかなり田舎ではあるが、場所によってはそこまでド田舎ではない。海岸近くの方へ行くとJRも新幹線も通っているし、映画館、大きなショッピングモール、カラオケ、スターラックス、マッグだって学生に必要なものは一通りそろっている。
そんなかんじでなんとか休日も退屈せずに済みそうな浜松市には、当然図書館だってある。先ほど明日香が言っていたのがそれなのだが、「丘の上」というのは決して、森に囲まれた孤高の建物を指しているわけではなく、住宅街自体になぜか標高差があるのだ。そんなわけで自転車で登ろうものなら着くまでに冬でも汗だくになるので、ほとんどの人は徒歩でここに来ることが多い。
そんな話はまぁいいとして、図書館の入り口の上に掲げられている西洋風の時計を見ると、長針は真下、短針は右に垂直に向いている。
「二時集合って言ったの誰だよ。暑いし、もう帰ろうかな」
汗だくの体を図書館から背け、帰路に向かおうと足を踏み出したとき、遠くから日傘をさした少女を目にした。
「ごめ~ん、準備に手間取っちゃって」
「準備なんて、学校のカバンそのまま持ってこればすぐだろ」
僕を待たせておいてなんて軽い謝罪。それに遅れた張本人はしっかりとおしゃれな黒い日傘をさしているおかげか全く汗をかいている様子はない。少しイラっとしつつも、それを表に出さないよう、でも言いたいことは一言にはっきりと告げた。
「男子はそうかもしれないけど、女の子には他にもいろいろあるんだから。っていうか、着替えずに来たの?」
「そりゃ、平日なんだし、洗濯物増やすの気が引けるし」
僕が当然のように答えると、明日香はあきれたような顔でため息をついた。
「はぁ……。それはお母さん思いで優しいことで」
「うん、鈍感な僕でも、今のは褒められてないことは分かる」
「はいはい。じゃぁ、いこっか。暑いし時間もったいないし」
そう言って、明日香はすたすたと図書館の中へ入っていった。
その暑い中30分もの時間待たされていたんですが、という愚痴は話が一向に進まないだろうと考え飲み込んだ。僕、大人。
「わぁ、涼しい!」
こんなことなら先に中で待っ……。いや、ほんとに涼しいな。静かだし、ここなら集中して勉強できそう。
「そういえば、カイ君、知ってた?この図書館、もともと大学の所有物だったこともあって三階は3,4人くらいの自習室があるみたいだよ」
「へぇ、それは知らなかった。じゃぁ今日はそこでテスト勉強しよう。満室じゃないといいけど……」
「その心配はないんじゃないかなー」
ん?どういう事だろう?
明日香のな謎の自身に疑問を抱きつつ、僕らは階段の方へ向かった。
3階に上がると、広い空間にいくつも丸テーブルが並べられていて、おじいさんや学生がちらほらと座っていた。その奥に通路が見え、両サイドにはいくつも扉があるのがここからでも確認できた。
「あれ全部、自習室なのか……?」
驚愕のあまり無意識につぶやくと、明日香はどや顔をしながら言った。
「そうです。ちなみにここだけじゃなくて奥にもまだまだ部屋はあるんだよ!」
いや、なんで明日香が自慢げなんだよ。
「これなら好きな部屋選びたい放題だな。どこでやる?」
「んー、じゃぁ、一番奥の部屋にしよう」
「なんで?」
「へへへ、お手洗いが近いから」
あ、そういう……。女子って大変。
「じゃぁ、私、部屋の貸し出し申請してくる……」
「あれ、カイ君じゃん」
この展開、何度遭遇したことだろう。しかし、何度遭遇しても慣れるものではない。びっくりしてバッと後ろを振り返る。
「こ、こんにちは……先輩」
僕は自分でもなぜかわからないが、急にかしこまって挨拶をした。
それに対して、先輩はいつも通りの、余裕のある声で応えた。
「こんにちは、カイ君」
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