第4話 先輩4 運動会

「続いて校長先生のあいさつです」

 

 アナウンスと共に校長先生が台上に立つ。


 「えー、季節も段々暖かくなり…」

 

 なんでこう校長先生の話は全国一律長いのか……。こんないい天気だと、さすがに暖かいどころか暑いわ…ってみんな思ってるんだろうなー。

 なぜこんな他人事のように言うのかと言うと、放送委員の僕は簡易テントの下で委員会の仕事をしているため、涼しくのんびり突っ立っているのだ。委員会サイコー。

 よし、今日も1日頑張りますか!


「位置について、よーい、ドン!」

「だ、第1走者が走り出しました。あ、紅組早いです。と思ったら白……じゃなくて青組追い抜きました!」

 

 中学よりみんな足が早いせいか、実況がついていかない。サッカーとかスポーツの実況してる人ってこんな難しいことやってんのか……。彼らの凄さを改めて実感する僕だった。


 「以上で100m走は終了です。選手の皆さんは退場してください」

 

 100m走の人達はゾロゾロと自分たちの組のところに戻っていった。


 「はぁ、お疲れぇ、カイ君」

 

 いつもは明るい有希亜先輩が少し気だるそうに、でも笑顔でこっちを見て言った。

 

 「お、お疲れ様ですー。しんどかったですねー」

 「ほんとにねー。話す余裕もなかったね」

 「そりゃ次々走者が出てきたらさすがにそんな余裕もないですよ」

 「アハハ、そうだね」

 「おーい、2人ともおつかれさん」

 

 声のするほうを見ると、副委員長と委員長がテントの中に入ってきた。


 「お疲れ様でーす。というか、ほんとに疲れましたぁ」

 「ははは、初っ端でしかもこの人数の実況を二人でするのはしんどいよな。はいこれ、差し入れ」

 

 そう言って委員長はスポーツドリンクのペットボトルをくれた。


 「わぁ!ありがとうございます!」

 「どういたしまして。じゃぁ、こっからは俺たちに任せとけ」

 「はい、よろしくね、委員長、副委員長!」

 

 おぉ、委員長にまでタメ口……。ノリとはいえ、さすが先輩。二人も全然気にしてないし。

 

 「じゃぁ、いこっか、カイ君」

 「あ、はい」


 「カイ君は赤組なんだっけ?」

 「はい、先輩は白ですか?」

 「いや、私は青」

 「じゃぁ、先輩の組のブルーシートはあっちですよね。僕はこっちなんで。じゃぁまた後で……」

 「お、お昼さっ!」

 

 ちょっと大きな声で先輩は言った。

 

 「お昼さ、もしよければ一緒に食べない?」

 「あー、お昼は家族と食べようと思ってたんですが……」

 「あ、そ、そうだよねっ。ごめんね、忘れて」

 「いえいえ、別に気にしないでください」

 「ありがと。じゃぁまたね」


 ……と思っていたのだが……。


 

 「え、えっと・・・なんで先輩がここに?」

 

 だが、返答したのは先輩ではなく、うちの母さんだった。

 

 「有希亜ちゃんのお母さんとは仕事の関係で仲いいのよ。だから今日は二人をお昼に誘ったの。朝、言わなかったっけ?」


 「いや、聞いてないよ」

 

 多分、寝起きで聞いてなかったかな。すると今度は先輩の母親であろう女性から声をかけられた。


 「はじめまして。えーっと、カイ君でいいのかしら。うちの有希亜がいつもお世話になってるわね」

 「い、いえ。こちらこそいつもお世話になってます!」

 「あらー、有希亜の言ってた通りのいい子ね。いつも有希亜からカイ君の話を聞いてたのよ」

 

 へぇ、そんな話題になるようなことはしてないつもりだけど。


 「お、お母さん!それは言っちゃだめ!」

 

 有希亜先輩が顔を赤くして言った。


 「フフッ、青春ねー、築城さん?」

 

 有希亜先輩のお母さんが言った。


 「ほんとねー。有希亜ちゃん、これからもうちのカイ君をよろしくね」

 「ふぇ!?は、はい。こちらこそよろしくお願いします!」

 

 なんかさらに顔赤くなってる……?


 「ご、ごめんね、カイ君。うちのお母さんが変なこと言って」

 「え、全然変じゃないですよ」

 「そ、そう。ならよかった」

 

 それから僕たちは結果的に、一緒にご飯を食べることになった。


 「それでは、続いて午後の部を始めます。まずは大玉転がしです。選手の皆さんは入場してください」


 午後の部が始まった。午後は、委員会はほとんど実況のない応援団、クラスの参加種目はラストのリレーだけだ。とりあえず、応援団はもう次なので放送のテントへ向かおう。


 「応援種目は基本音楽だけだから、だいぶ楽だよ」

 「ですね。僕が前半、先輩が後半でいいですか?」

 「うん、問題ないよ」

 「じゃぁ、もう少ししたら準備始めようか」

 「はい……」

 「あれ、カイ君?」

 

 すると後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 「おー、明日香。どうしたー?」

 「私は体育係の仕事。カイ君は放送だね」

 「うん、もう少しで始まるかな」

 「そうなんだ。大変じゃない?」

 「いや?音楽だけだし、余裕だよ」

 「そうなんだ~。私も先輩たちがいろいろ助けてくれて……」

 「カイ君、そろそろ準備しよっか」

 

 明日香の言葉を遮るように先輩が言った。


 「は、はい。じゃぁまたな、明日香」

 「うん、また後でね」

 

 そういうと、明日香は体育係のテントの方へ戻っていった。


 「先輩、CDってこれであってますか?」

 

 反応しない先輩。


 「先輩?」

 

 するとムスッとした顔で


 「さっきの子」

 「ん?」

 「さっきの子、明日香ちゃんだっけ?」

 「あ、あぁ。明日香がどうかしました?」

 「いつも仲いいよね、カイ君と」

 

 何の話だろう?


 「まぁ、クラスの友達ですからね・・・。っていうか、前にも明日香に会ったことあるんですか?」

 「……はぁ。私はよく覚えてるんだけどな……」

 

 声が急に小さくなりよく聞こえなかった。


 「え、なんて?」

 「なんでもなーい。それより、準備、始めよ?」

 「は、はい」

 

 結局、その日は先輩とは業務的な話しかせず、運動会は終わりを迎えた。

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