第2話 先輩2 給食
キーンコーンカーンコーン……
「やった、お昼だぜ」
「今日の給食何かなー」
四時間目の授業が終わり、生徒は給食の支度を始める。机を四人グループで班ごとにくっつけ、給食当番はエプロンを着て給食室へ給食を取りに行く。地域によっては中学校でも弁当の学校もあるが、僕の中学では体育祭や遠足のような特別な日以外は基本給食だ。牛乳パックにおかず、パンかご飯か麺、そしてデザートの四品が基本的だ。
今日はカレーか。僕もお替りしたかったな・・・
給食の時間で最も白熱するのがこの「おかず争奪戦」と「デザートじゃんけん大会」である。カレーや揚げパン、プリンのようなデザートの日は必ずこの争奪戦が主に男子たちによって繰り広げられる。
しかし、今日は水曜日。この曜日のお昼は放送委員の仕事があるので、四時間目が終わったらすぐ放送室へ向かわなければならない。当然、自分の給食を取っている時間はないので、友達に頼んで後で放送室まで持ってきてもらう。いつものパターンだ。
「カイ君、今日カレーだったのに残念だね。」
クラスメイトの優斗がニヤニヤしながら言ってきた。
「残念っていう割にすごくうれしそうな顔してんじゃん」
「まあな。だってライバルが一人減るから、カレーお替りの確率が上がるじゃん」
「……カレーの時だけ教室戻ってこようかな」
「カイ君、カレーのためだけに教室戻ってくる気?」
と、そこに同じくクラスメイトの明日香があきれ顔で話に入ってきた。
「カレーのお替り取りに戻る時間があるなら、これからは自分で給食放送室持って行ったら?」
「じょ、冗談だよ、明日香。ちゃんと仕事するので、今日も給食放送室にお願いしますっ!」
そう。僕が放送担当の日は、給食はいつからか明日香が持ってきてくれている。いきさつは覚えてないが。
「そう、ならよろしい」
「相変わらず、明日香は面倒見がよろしいようで。カイ君の……(笑)」
と優斗がまたもやニヤニヤしながらそう言った。
「ち、違うわよ!単に同じグループだから、持って行ってるだけだし」
明日香は顔を真っ赤にしながら反論した。
「グループのだれが放送室にカイ君の給食運ぶかってなったときに進んで立候補したって聞きましたが?」
優斗は追い打ちをかける。
「あ、あれはほかの人がやりたくなさそうだったから仕方なくよ!」
あー、これは泥沼化しそう……。
「じゃ、じゃぁ俺、放送室行かなきゃ。あ、明日香、給食よろしくね」
「だいたいあんたいっつも……」
「えー、なんのことかさっぱりわかりませーん」
全然聞こえてないし。ま、いっか。放送室へ急ごう。
ガチャ。
「遅れてすみませ……」
「シーっ」
あっ、校内放送のタイミングに放送室入っちゃった。
慌てて口を閉じる。
『皆さんこんにちは。初めに今日の給食の献立紹介です。今日の給食は、ご飯、カレー、ニンジンとピーマンの炒め物、杏仁豆腐です。カレーは地元の野菜を取り入れており、……』
副委員長相変わらず滑舌いいなぁ。
『……皆さん、味わって食べましょう。』
副委員長がマイクの音量をゼロに下げた。
「海斗君、今日はちょっと遅かったね。なんかあった?」
「す、すみません。ちょっと雑談しちゃって」
「おー、言い訳せず、素直に白状したのはえらい。あとは入ってくる時だけ、気を付けてね。」
副委員長は優しくにっこりと注意した。
「もー、蓮花は厳しいんだから。海斗君、私もよく遅刻するから気にしなくても大丈夫だよ!」
「は、はい」
「大丈夫なわけないでしょ、有希亜。あんたは常習犯なんだから。今年はまだ珍しく遅刻してないけど」
「当然でしょ?海斗君がいるのに遅刻なんてできないって」
え、僕そんなに信用されてないのかな……
すると僕の顔を見た副委員長は
「あー、多分勘違いしてると思うけど、有希亜は君を信頼してないとかじゃないから安心して」
「え、じゃぁどういう……」
ガチャ
「失礼します。あ、カイ君、給食持ってきたよ」
そこへ明日香が僕の給食を持って入ってきた。
「あ、ありがとう。お、カレーたくさん入ってる!」
「フフッ。給食当番の子にカイ君のカレー増やしてもらうように頼んだの。争奪戦に出られないからって言って」
「まじで?!ありがとう、明日香!」
「うん、じゃぁまたね」
「うん、サンキューな」
ガチャ
争奪戦に出ずにカレーをたくさんよそってもらえて気分が上がっていた俺だが、後ろから何か視線を感じて先輩たちの方を振り向いた。
「な、なんですか……?」
おそるおそる聞くと、副委員長はニヤニヤしっぱなしで、有希亜先輩はちょっと……怒ってる……?
「へぇ、いつも給食持ってきてくれるあの子、明日香ちゃんっていうんだ。海斗君と仲良さそうだね」
「そ、そうですね。まぁ同じ班ってだけですが」
「ふーん。にしては親しげに話してたよね。『カイ君』って言ってたし」
「んー、普通にいいやつですよ、優しいし。でもカイ君ってあだ名はクラスの皆に呼ばれてますよ」
「じゃぁ、私もカイ君って呼ぼうかな」
「え」
「だめ……?」
「ぜ、全然だめじゃないです」
「ほんと!?やった!」
「あのー、お取込み中悪いんだけど、アナウンスしていいかしら?」
副委員長がまだニヤニヤしたままそういった。
「あ、あー、ごめんね、蓮花。じゃぁ隣の部屋で先ご飯食べてよっか、カイ君」
「あ、は、はい」
クラスメイトから呼ばれるのはなにも違和感を覚えないのに。有希亜先輩に言われると、なんか胸の奥が熱くなる。この感覚はなんだろう……。
その時、中一の恋愛未経験な僕は、まだその感情を名前で表現することはできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます