+12kg ウマおとも プリティダービー!
「あっかん……これ、かぜだわ……」
「コウくん大丈夫? あ、ホントだ。おでこ熱い」
ふだん屋外で寝ることなんてめったにしないもんだから、キャンプから帰るとどっと疲れが出て、倒れるように寝てしまった。
で、朝起きるとこれである。
寝ている俺。
ふとんの横で正座する
「はい、体温計」
寝たまま美帆を見ると、胸のふくらみを下から見上げる形になってしまった。っていうかでけえ! 即座に視線を逸らすと、それはそれで、正座する美帆の膝と膝の間に視線がいって、爆死しそうになってしまった。
「38.6度……ってけっこう高いね」
「ん?」
そのとき、だっだっだ、と足音がして、ドアがバーンと開けられた。
「お兄ちゃんお待たせ! スポーツドリンクと、ザ〇スのプロテインドリンクだよ!」
「おう、悪いな」
「寝てるだけだと筋肉が落ちるから、せめてプロテインは飲んでね」
筋肉フェチの妹は、あいかわらずブレない。
ただ、ツッコめる体力もなく、もう一度、「悪いな」と返す。
「コウくんはきょう一日はゆっくりしてね。千咲ちゃんはきょうはウチに泊まりなよ。うつったらたいへんでしょ」
ニコニコと幼馴染JKが気を利かせてくれる。正直、すげえありがたかった。
シュバ、っと手刀を作って身構える千咲。
「太らせない?」
「だいじょうぶだよ~」
と美帆はほほ笑む。
小さい声で「たぶん」って言っていたことは聞かなかったことにしよう。
「本当は、朝から豚の生姜焼きとハンバーグとアジフライを作ろうと思っていたんだけど、食べられないよね」
悪魔的重量の朝ごはんメニューを口にして、ニコッと笑う美帆である。
でぶせんの幼馴染は、あいかわらずブレない。
「悪いな。朝から来てもらって」
「んーん。ごはんは炊いてあるから、あとで食べてね。冷蔵庫にめんたいこさんとか、佃煮とか、ごはんのおともがあるから、たくさん食べてね」
笑う美帆が聖母に見える。
かぜひいたとき、こんなに良くしてもらって、俺からはなにも返せないじゃないか。
そして、美帆たちが返る間際、美帆は寝る俺のおでこに手をのせ、こう言った。
「痩せたらだめだぞ♡」
でぶせんの幼馴染は、ほんとうにブレないようだ。
それから俺は、夕方まで寝ていた。熱を測ると、平熱まで熱は下がっていた。
「腹減ったな……」
一日何も食べていないことに気づき、意識してしまえば、腹が減ってくる。
キッチンに行く。美帆はいない。いつからか、エプロンを付けた美帆がいつも立っていた場所にはだれもいない。
しんとしたキッチンに、ホシザキの業務用冷蔵庫と業務用の2升炊き炊飯器が鎮座している。
いつか、美帆が顔なじみになったスーパーの店長から、不用になったものをもらったものだ。ひとり暮らしのアパートには異質すぎる。
冷蔵庫にはいくつかタッパーが入っていて、炊飯器には、ほっかほかのごはんがいっぱいに炊けていた。その量、2升(20合)。
「美帆のやつ……きょうこそ本気で俺を太らせにかかってきたな」
残ったごはんは、あとで冷凍しよう。
そんなことを考えて、冷蔵後にあるごはんのおともと、茶碗についだご飯をテーブルにもっていく。
結構な種類を美帆は作り置きしてくれていた。
「めんたいこ、うまっ。なにこれ、ごはんめっちゃ進むじゃん」
――ふふん。それはね、本場福岡から仕入れたホンモノのめんたいさんなんだよ!
そんな声が聞こえてきそうだった。
いつからか、美帆との食事が日常になっていた。そんな日常が当たり前だと思っていた。
「俺が社会人になって、美帆が大学行って、それからも続くのかなあ」
呟いて我に返る。
バカか俺は。
「そのためには、ちゃんとしないとな」
就職して、ちゃんとする。この関係も、ちゃんとする。
そのためには就職して、胸張って、俺でいいかって……。
「ってことは、痩せて、見栄え良くして、ちゃんとしたところ」
……就職しないと。
ふと気になって、スマホを見る。と、寝ているうちに書類選考のお祈りメールが1件増えていた。
「ちくしょう……」
紙切れ一枚で俺のなにがわかる。
残りのごはんをかっこんで涙をぬぐう。
「もう一杯だけおかわりしたら、きょうは終わりにしよう!」
炊飯器からごはんをよそって、今度は海苔の佃煮でひと口。
「ゴハンデスよー、はテッパンだよなー。おっ、弁当用のミートボールある。あと、ちょっとだけ残ったカレーも捨てがたい……」
テーブルには、めんたいこ、海苔の佃煮、ミートボール、カレー、焼き鮭、浅漬け、梅干し、玉子焼き、と美帆の手作り料理が並ぶ。
「どれもうまいな……まじ、ごはんが溶けていくんだけど」
茶碗のごはんが溶けるようになくなっていく。中途半端におかずだけ残しても美帆に悪いし、っていうか一番どれがごはんに合うのか?
そんなことを考え出すと、ごはんが進む進む。
いつも脂っけの多い爆発料理を口にしている分、
「ごはんとヘルシーなごはんのおともだけなら、実質カロリーゼロだよな」
うまッ! 美帆、玉子焼きの天才じゃん。
うまッ! カレーがまろやかになってて、すげえ!
うまッ! なにこの浅漬けがシャッキシャキじゃん。それにこれ、野菜の端切れで作ってて、こういうとこ美帆主婦力高いよな~。
どれもこれもうまいッ!
うまッ!
うまッ!
うまッ!
うまッ!
うまッ!
うまッ!
このウマおともの中からどれが一番かなんてわからないぃい!!!!!!!!!!!!
(ナレーション)
およそ10万の
さあ、8種のウマおとも。いよいよゲートに収まっていきます。
ごはんがなくなる――そのときには、結論が出ます。
この中で、どのウマおともが一番に輝くのかッ!
大声援の中、ゲートが開きましたッッッッッ!
★ごはんのおかずを擬人化した女の子だと思ってお楽しみください★
★いちについてぇ~★
★よ~い♡★
★どん! ウ~ウマだっち!★
飛び出したのは1番メンタイテイオーだ! メンタイテイオー強い! 魚卵の香りと塩気がまた箸を進ませる!
おーっとここで来た4番ゴハンデスヨーです! ゴハンデスヨー、ライスにオンされ、冷たいと暖かいを同時に口に広げていくッ!
すごいですね、両ウマおとも、ライスが止まりませんね。
ちょっと8番シャケシオが遅れましたかー。
やはり予想通りメンタイテイオーとゴハンデスヨーの一騎打ちかッ!?
5番イツカノカレーが出遅れていますねー。
お――ッと! 2番アサヅケヤサイノが後ろから迫ってきます!
先頭集団に食い込んだーッ!
まもなく、ごはんは10合を経過ですが少し早いペースでしょうか。メンタイテイオーが先頭にのどを通過。ペースは1杯61秒。これは驚異的なスピードだ……。
ここで後方集団が上がってきたー。
6番オベントウミートボールが食べるものを童心に帰らせるーッ!
7番ウメボシスッパマンもいいですよ~。
ひと粒でライス1杯食べさせていますからね。地のライス力が違います。
ライスの大歓声の中まもなく4コーナー手前。残りライスも5合を切っています!
おあぁあああああああっとッ!
ここでペースが落ち始めるッ!
ウマおともたちでも15合という驚異的なライスですからね。ここからは心の力が必要になります。
ここできたッ!
ここできましたッ!
さんばんッ!
3番ミホノタマゴヤキッ!
先頭集団から8
幼馴染の想いがこもっていますからね。
絶妙な甘じょっぱさがまさしく青春そのものです。
だれもが想像したことがある好きな女の子からの玉子焼きアーン♡
それをセルフで行っています!
それをセルフで行っています!
それをセルフで行っています!
気持ち悪いので3回言いましたッ!
――コウくん、はい、あーん♡
★きみのおともが★
★ずきゅん どきゅん はしりだし~★
★ばきゅん ぶきゅん かけていくよ★
ウマッしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
ミホノタマゴヤキ、メンタイテイオーに追いついた!
そして追い抜く! 追い抜く! 抜く抜く抜く抜く抜く抜く! 1米身、2米身、3米身と差を広げていくぅうううう!
ライスが溶ける!
シャワー上になったライスがのどに流れ込んでいくッ!
これぞライスシャワー!!
ミホノタマゴヤキッミホノタマゴヤキッミホノタマゴヤキッ!
優勝は! 3番!
3番、ミホノタマゴヤキですッ
ここに伝説が生まれましたッ!
満腹中枢を乗り越えて、みごと夢の2升ライスを制しました!
気が付けば、2升あった炊飯器の中身も平らげ、テーブルに広げていたごはんのおともたちもなくなっていた。
腹がやばい。
ぱつんぱつんになっている。
「うっぷ……やべえ。また寝込むかも……」
=本日の摂取カロリー=
以下、ご飯のおとも
玉子焼き
辛子めんたいこ
海苔の佃煮
鮭の塩焼き
残り物カレー(少量)
野菜の浅漬け
ミートボール
梅干し
計 848kcal
ごはん2升(20合) 3,360kcal
合計 4,208kcal(≒ ウマ娘ファンの皆様ごめんなさい)
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