+11kg ハッピーロリバレインタイン!


 なぜ夏秋なつあき美帆みほはデブ専になったのか。


 てっきり美帆と離れていたときに美帆は目覚めたのだと思い込んでいた。しかし、そのきざしがなかったかといえば、思い当たる節もあるわけで。


 俺が高1、美帆が小6のころだった。

 その日は2月14日。ちまたはバレインタインに沸いていて、俺も下駄箱に期待したり、机の中を探したり、無駄に放課後残ったりした。結果、もちろんだれからも貰えてねえよって感じで、俺の心は凍ったね。


 もうね。男子から人気のあるマドンナ的な女の子が、サッカー部の1年生エースに、「はい。義理だけど」「って義理かよ」「……ちょっとだけ、特別な義理です///」とかどこかで見たことあるくだりをやってて、もう涙出たよね。血の涙が出たよね。


 帰り道、

「あ~、日本もドイツみたく、バレインタインに豚の人形を送り合う文化に変わんねえかな。だったらいっこも羨ましく……」

 いや俺、羨ましくねえし? どうせチョコって言ってもカカオすりつぶした固形物なわけで、だったらココア飲めばよくない? 俺帰ったらココア飲むし。ミロ背が伸びるココア1リットル飲んで身長伸ばすし。


 そんな意味のないこと考えていたときだった。


「コウく~ん!」


 だっだっだ、とうしろから走ってくるランドセルを背負った少女。美帆だ。


 小学生のころの美帆は、小学生離れした美形で髪はサラサラロング。まるで人形みたいな女の子だった。今(高校生)よりも背はちっさくて、華奢で、それでいて胸はぺったんこ。ある界隈からすると、"最上級のロリ"そう称されるに違いない……。


「おう美帆。きょうは遅いな」


 小学生と高校生。下校時間には1時間は差がある。

 お互い小学生のころは毎日いっしょに帰っていたけど、俺が中学に上がり、高校に上がっていくうちに、いっしょに帰らなくなったり、土日いっしょに遊ばなくなったりしていった。今じゃ帰り道に遭遇したらいっしょに帰るくらいだ。


「んとね。学校でチョコとか、クッキーとか、プレゼントしあっていたら遅くなっちゃった」

「けっ近頃じゃ小学生までバレンタインかよ。豚送れ。豚を」

「男子にはあげていないよ?」


 のぞきこんでくる美帆。


「好きな男子とかいないのかよ」

「そりゃ……いるけど」


 ぽこんと美帆が殴ってきて、なんだよって言うと無視された。

 もしかすると反抗期かもしれない。


「コウくん、そういえば、今日帰るときウチに寄ってよ」

 

 こうして俺は美帆の家に寄ることになった。


 美帆の家についてリビングに行くと、美帆の母(美奈みなさん)が迎えてくれた。

 美奈さんは美帆に似て、美人で、そしてボッキュッボンの人妻エロスって感じのお母さん。もともとクオーターらしく、4分の1は外国の血が混ざっているそうだ。なるほど、日本人離れしたこのエロスもそういうことか。

 幼稚園からの付き合いだけど、思春期になって「この人、エロがすごくねえか?」って思うようになった。


「おかえり~美帆。コウくん見つかった? コウくん探してくるって町内何周したの?」

「わわわわわわ、おかあさん! それを言っちゃ」


 みるみるうちに顔が赤くなる美帆。耳まで真っ赤だ。


「そうだったのか?」

 聞くと、こくっと小さくうなずく美帆。


 「だって今日……バレンタインだし…………」


 小声で何か言って、ずーっともじもじもじもじもじもじもじもじもじもじもじもじもじもじもじもじする美帆。そして、意を決してって感じで、俺にハート型の菓子ケースをくれた。


 一目でわかった。手作りのやつやん、って。


「ははん。おまえ、俺にこれを渡すために、町内探していたのか?」

 真っ赤になりすぎて、りんごみたいになってる美帆。

「もう、言わないで!」

 顔を覗き込むと逃げる美帆。

 俺は面白くなって、

「わざわざ学校で友チョコしていたって嘘ついてまでね~」

 追いかけまわしていると、「もう、もう、もう!」と美帆はぎゅ~と俺の体に抱きついてきた。


「いいから、早く食べてよ」

 はいはい、と言って包装紙をめくる。箱の中には丸っこいチョコレート、トリュフチョコレートが4粒ほど入っていた。

 粒は不揃いで、見るからに手作り。

 きっと一生懸命作ってくれたんだろうなあ。


「美帆、いつのまにお菓子作りを覚えたんだ?」

「がんばったんだよ。おいしいといいなあ……」

「いっても小学生の手作りなんてたかが知れてるだろ」

「もうっ」


 菓子、というものは作ることは難しい。

 分量とか、温度とか、そういうものをきっちりレシピ通りにしないと、"何かが違う"ものになってしまう。

 美帆が一生懸命作ってくれたお菓子。

 たとえ上手にできていなくても、うまいッ、って言ってやろうと、そんなことを考えていた。


 トリュフチョコをひと口頬張ると。


 ん――――――――ッ♡♡♡♡♡♡♡♡♡


 口の中の温度で溶けていくチョコレートはミルク味が強いけど、鼻にはしっかりとしたカカオの香りがぬけていくッ! 口あたりは滑らかで、ねっとりと舌の上に残って余韻を楽しませてくれるッ! 絶妙な甘さが脳まで上がってきて……ああ、トリップしてしまいそうだ。

 なんだこれ……。

 下手な市販品よりうまいんだが。


「おいしい?」

 ちいさなおめめで俺を見上げてくる美帆。

「うまいぞ美帆ッ! これ作ったのか?」


 えへへ~と笑う美帆である。くッ……かわいい。

 かわいいけど、JS女子小学生にかわいいとか思う俺大丈夫か?


 4粒あるトリュフをバクバクッと食べて、ソファーに深く腰掛ける。


「ああ~うまかった~。美帆って、料理の才能があるかもな」


 美帆の手作りチョコに大満足していると、

「それがね……」

 もじもじと何か申し訳なさそうにする美帆。


「コウくんに食べてもらったのは、その……うまくできたやつで……」

 笑わないでね、と前置きして美帆は台所からドン、とチョコがたくさん入ったボウルを持ってきたわけ。


「じつはね~。その4粒を作るために美帆がこんなに失敗しちゃったの~」

 と美奈さんが頬に手を当てながら微笑むわけ。

「これはちょっと……多いっすね」


 おいおい、どんだけ試行錯誤したんだよ。

 うれしい反面、やっちまったな……美帆……とそんなことを思っていたときだった。


 だから、と美帆が微笑む。


「このチョコぜんぶ使って、チョコレートフォンデュをしようと思うのッ!」

「チョ、チョコレートフォンデュ!?」

「見ててよ~」


 美帆はチョコレートフォンデュの専用の機械にチョコレートを入れる。受け皿でチョコを溶かして、上に吸い上げてチョコレートの滝を作る機械だ。

 美帆が試行錯誤したチョコレートたちが輝くチョコの滝になる。


 そして目の前に並ぶは、イチゴ、バナナ、キウイなどフルーツに、マシュマロ、パン、ナッツなど次々にチョコにディップさせる具材が並んだ。


 もう目の前はパーティー状態。

 うおー、どうしたどうした、夕食前に何か始まっちゃったぜー! って俺氏軽く混乱。


「はい、これをこうつけて、あーん♡」

 美帆はフォークでイチゴを刺して、チョコの滝にくぐらせて、俺にあーん。


「ってちょっと待てよ美帆やい。夕食前にこんなの食べたらダメだろ」


 さすがにこれは食べられんと抗うと、美奈さんがマシュマロをフォークに刺して、チョコディップして俺にあーん。


「コウくんの家には私から連絡しておいたよ。夕食はウチで食べるって♡」


 もうね、人妻の美奈さん……エロいわけ。

 俺は無意識に口を広げて、美奈さんのあーんを受け入れていた。


 んふう――――――――――ッ♡♡♡♡


 あたたかいチョコレートがマシュマロを温めて、やわらか触感がさらにふわふわになっている。それに、甘い×甘いはこんなに悪魔的魅力に変わるとはッ!

 もう脳が溶けそうだよ……。


「おかあさんだけずるい! 美帆のもたべて――ッ!」

 美帆が頬を膨らませて、俺の口にフルーツのチョコディップをわんこそばみたいにつっこんでくるわけ。フルーツの酸味が食欲を爆増させて、次々に食っていけるわけ。


 イチゴ、キウイ、バナナ、パイナップルにチェリー、マシュマロ挟んで、次イチゴ♡

 って感じでもう止まらない止まらない。


「チョコばっかでなんかしょっぱいものも食べたいなー」

 ぼそっと俺が言うと、


「ちょっと待ってて!」

 美帆が何か閃いた様子でキッチンに駆けて行った。

 

 そしてかえって来たと思ったら、両手に抱えるものは……皿に盛られたポテトフライッ!


「これ絶対おいしいかもしれないから! コウくん食べて! 食べて!」


 ジャンクフードとチョコレートの邂逅。これつまり禁忌なわけ。

 恐る恐るチョコレートをつけて口にすると……。


 うばっしゃぁあああああああああッ!!!

 うばっしゃぁあああああああああッ!!!

 何これうめぇええええええええ♡♡♡♡♡


 ほくほくポテトにチョコが絡みついてるぅううう!


 塩脂味のポテトにチョコの風味、それに甘味がある意味"チョコレート"の完成形を生み出したんじゃねえかってそんな錯覚に陥るわけ。


 ポテトをチョコの滝にくぐらせて、俺にあーんしてくる美帆。


 チョコ×フライドポテトなんて想像つくか?


 こんな柔軟な発想は小学生しかできないかもしれない!


 ビバ! 柔軟な発想!

 ビバ! 小学生!


 まったく、小学生は最高だぜ!!


 ……この日、俺はめちゃめちゃにチョコレートを食った。

 正確にはチョコレートと、フルーツと、そしてフライドポテトとかその他もろもろ、めちゃめちゃ食わされた。


 今思うと、あのときから美帆は俺に食わす一方で、食う俺を見てうっとりとした表情をしていたような気がする…………。





 ディップするチョコレートもほとんどなくなって、うふぅ~と椅子にもたれる。

「今年、俺にチョコくれたのは小学生だけか……」

 ぼそっと漏らすと、

「大丈夫。私も4年後は高校生だよ?」

 と美帆が小学生らしからぬ妖艶な笑みをして、俺の顔を覗き込んでいた。



 その後、満腹すぎて動けないでいると、

「美帆のバレンタインのあとは私だね~」

 と、俺の前にバンッ、と料理を持ってきた。


「……なんですか……これ」

 どうみてもとんかつ定食なわけで。


「私のおじいちゃんの国だと、バレンタインは豚グッツを送りあう風習があって、今日の夕飯はとんかつ定食なんだよ★」


 ……まじかよ。

 これ以上食えねえって。


 そんなことを考えて、若干ヒいていたときだった。


「まだ食べられるよね?」

 美奈さんは俺の顔を覗き込むようにみて、そのときバッチリと、美奈さんの谷間が……こう……すごかったわけッ!


「とんかつ定食なんて、〆っすよね」


 なぜかこのとき、俺はすげえいい声を出した気がする。




 =本日の摂取カロリー=


 トリュフチョコレート 332kcal


 チョコレートフォンデュ 1,802kcal


 〆のとんかつ定食 914kcal


 合計 3,048kcal(≒ ロリ美帆パワーでカロリー実質ゼロ)

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