1:さっそく死の予感Ⅱ
撒けただろうか。身を潜めながら辺りを見回す。しかしびっくりした。まさかあんな娘がいるなんて……。あれは本当に殺す気だった。木々を斬り倒しながら追っかけて来たのだ。はっきり言って恐い。子供が持ってチャンバラで遊ぶような玩具じゃない。木刀でもない。あれは紛れもなく真剣だった。
「さて、鬼の居ぬ間にさっさとこの森を抜けないと……?」
腰かけていた大木から立ち上がろうとすると、視界にスゥと何かが入り込んだ。何だこれ。スラッと長い黒と白。左へと目を追うと、先端のようでとがっている。
……。……いや待て。これって……。
嫌な気がしつつも今度は右へと目を追う。するとその先には……。
「げっ!?」
「お久しぶり」
紛うことなき鬼がいた。黒髪ポニーテールにセーラー服。顔は笑っているようにも見えるが、本心はそんなことないのはよく分かる。人に刀向けてんだもの。
「……あは、あはは」
目の前にあった刀はゆっくりと俺の首へと刃が向けられている。もはや笑うしかない。いや笑っている場合じゃないんだが。
「言い遺したいことはあるか?」
「ま、まだ生きたいです」
「却下だ」
「ま、まだ死にたくないです」
「却下だ」
もう駄目だ。斬られる。そう思った時だ。彼女の携帯電話が鳴り出した。
「……何だ?」
刀を引いて電話に出る。いくつかの問答があったようだが、ぼそっと零れていた。殺すぞと。
恐ぇよ。
そのあとも話は続けていた。そんなのいちいち待っているわけがない。早々と退散するに限る。
「どこへ行く?」
ひぃぃ。
見ていない隙を狙い、音にも細心の注意を払った。気配まで消したというのにだ。俺の得意スキルだぞ。たぶん。
「いや、こっちの話だ。わかったわかった。それじゃあ」
あっけなく電話が終了してしまった。ゆ、唯一無二の機会が……。
「さて、待たせたな。怪しい奴め。私を憚るばかりか、あまつさえ、あんな不埒な行為を働くとは……斬って捨ててやる」
「あ、怪しくなんかない。そりゃあ不可抗力でもさっきの件は謝るべきだとは思うけど、俺はただ青龍学園を探してるんだけだ!」
「……青龍学園?」
物騒な女は学校の名前に反応したみたいだ。それこそ、港にいた人たちのように。これはうまいことすれば、チャンスはあるかもしれない。俺は、微かな望みを見つけた。
「そ、そうそう。それそれ。青龍……」
「嘘じゃないだろうな?」
言葉が遮られる。目の前にあった刃が首筋に向けられた。ごくっと、喉を鳴らす。ってちょっと、首から少し血が出てんだけど。
「いやいや。嘘じゃないです。神に誓って」
「そうか。お前新入生だな」
信じてくれたのか刀を納めてくれた。ようやくホッと一息つく。
「え、あぁまぁ」
いやいや、俺はまだ入ると決めてない。青龍学園ってのはどうも引っかかることだらけだ。とはいえ、この場は素直にそういうことにしといた方が良さそうだ。
「案内してやろうか。迷っていたんだろ?」
青龍学園と聞くと、性格が反転したかのようだ。かなり有り難い。
「もしかして青龍学園の生徒?」
「ああ。来年は二年になる。まぁ、この学園の敷地は広いからな。迷いもするだろう」
え? 今おかしいこと言わなかったか?
「此処ってまさか……?」
「学園の敷地内だが?」
しょえ~~!
森じゃん。学校の敷地に森って……いやジャングルに近くないか?
ますますもっておかしいぞ、青龍学園。これはもうこのまま向かわない方が良い気がしてきたぞ。
「まぁもし嘘だったら今度こそ遠慮なく斬るからな。覚悟しとけ」
……。
笑いながら何を口走ってんだこの人は。もし入らなかったとしたら、どうなってしまうんだろう。すげぇ怖い。
さらに歩くこと三十分。死ぬ。マジで死ぬ。
自分の重い荷物二つと、何故か日本刀の奴のこれまた重いリュックまでもを持たされている。もちろん反論はしない。斬られたくないからな。こんなに重いリュックには何が入ってんだと疑問ではあるが問答無用だったので訊けずじまいである。
つーかこんなの背負ってよくあんな動きがとれたもんだ。
「遅いぞ。もっと速く歩けないのか」」
んなコト言っても重いんだからしょうがないじゃないか。あくまで口には出さず心の中に留めておく。
「ははっ、今急ぎます」
そしてさらに一時間ぐらい後。
「着いたぞ」
なんて遠いんだ。遭難してもおかしくないだろと思う。けど、学校の敷地内で遭難とか笑えねぇな。
森を完全に抜け、辺りが見渡せるようになる。俺は校舎に目を留めた。
デカッ!
それに新設なのか綺麗で立派だった。何かムカつくぞ。
「ここまでで十分だな。私はまだやることがあるから」
そう言って荷物を受け取ると、人間の動きじゃない俊敏な動きで何処かへと消えた。
おい、よく考えたら俺が持つ意味なかったんじゃないのか。
学園スパイラル 神谷佑都 @kijinekoko
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