1:さっそく死の予感
島に着く。降りる時、船には俺の他に数十人と乗客がいたが、正直意外だった。こんなにもいたんだな。
あ、俺がほとんど部屋に篭っていたからか。あまり他の乗客に出くわさなかったのは。
もしかすると、俺を無理矢理連れ出した黒服みたいな奴がいるのではないかと、疑心暗鬼になってしまったのせいだ。まぁこうして見ると、杞憂だったようだが。
しかし港からみる限りでは田舎だった。島の規模はとにかく大きく感じる。緑がいっぱい。森が見える。活気も一応あるみたいだ。
このまま帰ってもいいが、帰りの船は三日後だという。おいおいマジか……。
「とりあえず暗くなる前に青龍学園に行ってみるか」
「……!?」
突如周りの空気が変わった。な、なんだ。明らかに俺が見られている。乗客や漁業に営む人達に。
「青龍学園だってよ」
「あの……」
「あいつすごいな」
「ご愁傷さま……」
……。何なんだ、いったい。何かあるのかその高校。ただでさえあまり行きたくないというのに、周りの反応で、さらに帰りたくなった。
とりあえず道を聞こうかと思うが、……聞ける雰囲気じゃないな。というかなんか避けられてる気もするくらいだ。
仕方ない。俺は地図でもないかなと周辺を見回した。探すこと数分、ようやく見つける。実際のところ地図ではない。馬鹿デカイ看板に『青龍学園↑』と書かれていた。
……ま、まぁ有り難い。
それに従って突き進む。途中似たような看板が道を示していた。
突き進むこと二時間。あの看板あってんのか。俺が歩いていたところは何故か森だった。というかジャングルに近い気がする。はっきり言って人が通る道ではなくなっている。
葉っぱやら蔓やら、何より木の幹が視界を邪魔してるし、張り巡らされた木の根によってすげぇ歩きにくい。もう緑は見飽きた。鉄が恋しい。
重い荷物を二つも持って道が悪いこと二時間。しんどい。辛い。しかも道標もいつの間にか無くなったぞ。
「だーっ! くそっ!」
我慢の限界でその場に座り込む。少し休憩だ。船に乗ってた時は、すぐに引き返して家に帰ろうと思っていたというのに。日帰りどころか、そもそも学園に着くことが難しい。お茶でも買っとくべきだったなと後悔し始めた時だ。
「……!?」
突如爆発音が起こった。俺は驚く。疲労も忘れ、音の方へと向かった。
「ったく、しつこいな」
「ならおとなしく従えっ!」
何やら人の声がする。それに、さっきと同じように爆発音と、キィンと鉄が弾いたような音もしていた。
生い茂った木々が邪魔でよく見えないが、がさがさと二つの影飛び交っていた。何だろう。人はいるんだろうが、二つの影は木から木へと飛び移ってるようで、人間の動きではなかった。猿でもいるのか。
よく見えない為、俺はもう少し距離を詰めた。
「おっ!」
頭上から人の声がしたので見上げると、そこには人が飛んでいた。遙か上に位置しており、そのまま俺の目の前に降り立つ。何だこいつは。サーカスの空中ブランコのスタッフか?
そいつは男だった。サーカスの人か何かと思ったのもつかの間、そいつの風貌は明らかに違っていた。
逆立った金髪。口に煙草をくわえていた。服装は軽装な私服で、格好だけならその辺のチンピラだった。
「お前、ちょうどいいとこにきたな」
「え……」
俺が当然現れた人物に驚いていると、こいつは一瞬消えたかのように軽い動きで、俺の背後に回った。遅れてその事実を俺自身が認知すると、俺は背後から押されたようで、受けた衝撃のままに前に倒れ込む。ちょうどそこに、がさっと草陰から影が飛び出してきた。
「なっ…!」
飛び出てきたのは同じく人間で、ぶつかりそうになることだけを把握した。向こうも同じく驚いたようだが、俺の目にはとんでもないものが映る。何と目の前のそいつは、日本刀を持っていた。なんせ今にも切ろうと構えていたんだから、そりゃあ分かる。
「ちょ、まっ……」
「ちっ……」
下手すれば死ぬ。そんな思いで、慌てふためいたのが功を成したのか。幸いにも斬られなかった。日本刀の奴は躊躇して斬らずに俺を避わそうとしたらしい。が、間に合わず俺たちはぶつかった。
「アハハハ! じゃあな!」
俺を楯にした男は逃げていったみたいだ。
「いて~」
俺はうつ伏せに倒れていた。
「貴様ぁ。おかげで奴を逃がしてしまった。どうしてくれる」
俺にぶつかったお方はだいぶご立腹のようだ。そして重大な事実に気付いた。何と声は俺の下から聞こえる。というかすぐそばに聞こえる。よくよく目を開けてみれば、俺は何と覆いかぶさるかのようにぶつかった奴の上になっていた。
「悪い。すぐ……」
乗ってしまったことに対する謝罪のつもりなのだが、さらに俺はびっくり。俺の右手は何やら柔らかいものに触れていた。
「なっ……!?」
「え……!?」
待て待て、冷静になれ。客観的に状況を判断するんだ。俺はぶつかった奴の上に乗っている。ここまでは大丈夫。押された俺に非はない。はずだ。不可抗力だからな。だが問題はこの手のやわっこい感触。を持つ相手が俺の下ということだ。
「お、女ぁ??」
「き、貴様ぁ!」
さらに問題は、相手の怒りがヒートアップのあまり顔を真っ赤にしていること。そして何より相手の手には不吉なことに何故か日本刀を所持していることだろう。何でか分からんが最悪だよ。
重い荷物もあってもたもたしてる間に、女は俺を弾き飛ばす。なんて力だ。若干吹っ飛ばされたように俺は転がってしまう。やばいと焦燥感が募り、必死に起き上った時には、抜き身の刀の切っ先が眼前に向けられていた。
「殺す!」
「ちょっと待ったぁ!」
「問答無用!」
駄目だ。話にならねぇ。既に刀を振りかぶっている女に、俺は決死の思いでタックルを仕掛ける。何とか女のバランスだけは崩すことが出来た。俺はその隙を狙って走り出す。こんなもん逃げるしかねぇ。
「斬る! 絶対に殺す!」
「くっそぉぉ!」
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