プロローグ2

 一戸建ての家にようやく帰って来た。疲労困憊だった。長い電車旅だったし、まぁ四駅ほどなんだが。何よりわざわざ出向いて不合格だってのが、やっぱりショックだ。

 何もする気にならず、リビングのソファでぐったりと寝そべる。その後喉を潤したくて、何か飲み物がないかと冷蔵庫を開いた。


「え~と……」


 迷ってみたものの、やはり好きなオレンジジュースに手を伸ばす。とくとくと透明なコップに継ぎ、口へ運ぼうとした時、妨害とも言える音が鳴り響く。インターホンだ。誰かが来たのだろう。飲むの後にしてドアに手をかけた。


「ハイ。誰で……!?」


 俺は度肝を抜かれた。上から下まで真っ黒なスーツに身を包んだ男が数人、家へと押し寄せる。


「な、なんだ! お前ら!?」


 白昼堂々不法侵入だ。それも家の住人の目の前で。混乱しつつも、止めに入った。


「おい」


 先頭の黒服が一声かける。後ろにいた男たちはウムとうなづき、縄と布切れを手にした。


「なっ!? 何すん……モガモガ」


 後ろで手を縛られ、口は布切れで声が出せない。そして俺は、黒服たちの乗ってきたと思われる黒い車に放り込まれた。何なんだこれ。犯罪じゃないか。


 邪魔者がいなくなった黒服たちはズンズンと人の家に入っていった。黒服たちはどうやら全部で四人いるようだ。一人は運転席にドカッと座り俺を監視している。家に入っていったのは三人だ。

 それからどれくらい経ったのか。侵入した黒服は俺の大きなバックやら旅行用のケースを手に出てきた。


(くそっ! 何なんだコイツら! 金目のモノ全部持ち出したのか)


 恐らく手にしているバックやケースに入れたのだろう。黒服たちは車に乗り込んだ。ここで意外だった。仕事が終われば俺は解放されると思っていた。だがどういうわけか、俺を乗せたまま車を発進させたのだ。おいおい、強盗の上に誘拐かよ。此処は平和な日本のはずだろ。これからどうなるんだ。


 運転席に一人。助手席に一人。後ろには俺を挟む形で両端に二人座っている。


「そろそろ外すか」


 布切れだけ外された。依然後ろ手に縛られているために、ろくな抵抗は出来ない。


「何が目的だ!」

「手荒な真似をして失礼。貴方を青龍学園に連れて行くことが目的だ」


 助手席の一人が淡々と説明する。

 青龍学園?

 一瞬疑問に感じたが、すぐに思い出す。先ほど電話で言われた高校じゃないか。


「それは何かの間違いだ。俺はそんな高校受験していな……」

「いやそれは確かだ。それよりも問題なのは、今日を逃すと来週までに間に合わないということです」

「間に合わない?」

「船が出ないんですよ」


 船……? おいおい、船で何処へ行くんだ?

 

「その青龍学園ってのはどこにあるんだ?」

「此処から南東に位置する青龍島ですよ」

 

 混乱してきた。訳が分からん。俺はいったい、いつ受験したんだ?

 しかも船に乗って島に行くとか何だそれ。


「まぁわからないことは向こうで聞いてください。もう港です」


 荒っぽい運転だったが、ブレーキはさらに酷い。縛られている俺は、急停止にも備えることが出来ずに顔を打ってしまう。明らかに口に出して痛がってるというのに、そんな俺の様子は完全に無視された。車を停めたかと思うと、黒服の四人は凄まじいスピードで俺と荷物を船の個室へと放り込んだ。


「いてっ……!」


 やはり手荒い。おい、まだ縛ったままだぞ。


「必要な荷物は全て入れてあります。家の鍵も。それでは」


 それだけ言うと、早々と去った。嵐のように現れて嵐のように去ったとはこの事だ。


「せめて解(ほど)いて行ってくれ!」


 俺の嘆きはむなしいだけだった。


「何なんだよ」


 転がされた俺はとりあえず態勢を直す。せめて楽な姿勢になりたい。芋虫のようにごそごそと動くと、パラッと縄が解けた。


「おおっ!」



 一応部屋に放り込まれる前に縄は切っていったらしい。いつの間に。とにかく自由は手に出来たと思う。納得出来ないことは山ほどあるが、急いで部屋を出たところ、タイミングは悪く、船はもう出発していたのだ。自由に感じたのは一瞬、俺は船の中に拘束されたような状態だった。


「俺は降りる。降ろしてくれ」

「お客さん、何言ってるんですか。もう出発したんです。危険ですよ」

「え~い離せ、離してくれっ」




それが昨日。朝起きて現在に至る。


「おっ」


 島が見えてきた。まさか一日も到着までかかると思ってなかった俺は、早く陸に上がりたくてしょうがなかった。

 しかし、本当の災難はここから始まることになる。はっきり言おう。今の俺には予想し得なかったんじゃない。俺の予想の遙か斜め上までぶっ飛んでいた。

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