ミライとの会話(2)

 あなたはカーテンの前に立っている。

 俺はあなたを見つめているけれど、あなたは俺を見ていない。あなたは目を開いているけれど、何を見ているのか分からない。視線の先を追ってみると部屋の角あたりに行き着くが、そこは真っ暗で何も無い。俺には何も無いように見える。あなたには何かが見えているのかもしれない。

 その時、キッチンからミライが戻ってきた。お盆に三つマグカップを載せて、そのうち一つを俺に渡した。湯気と紅茶の匂い。このスクリーンとカーテンしかない部屋に紅茶があるのは、なんだかおかしい気がした。でも、お盆もクッションもあったのだから、意外と生活用品は揃っているのかもしれない。余計なものが無いだけで。

 紅茶を一口飲んで顔を上げると、あなたはカーテンの前にはいなくて、さっきまで空のクッションがあった場所に座っている。無くなったと思っていたクッションはあなたの尻の下にちゃんと敷かれていて、紅茶の入ったマグカップも横に置かれている。

「いつのまに」

 と、俺が言うと

「最初から居たよ」

 と、ミライが答えた。

「最初から、三人だったよ」

 ミライもクッションに座り、紅茶に口をつける。

 最初からというのは、スクリーンに映像が流れはじめた時のことだろうか。それとも、俺たちがこの部屋に侵入した時のことだろうか。俺の部屋でミライと話していた時のことだろうか。それとも二〇〇〇年? もっと前から?

「最初からだよ」

 ミライは、指先を温めるみたいに紅茶のマグカップ両手で包んだ。そして言った。

「ずっと、××と、あの人と、私。三人で一緒にいる」

 俺と、あなたと、ミライ。ずっと一緒にいる。その言葉には過去も未来も両方がある。それは安心していいことなのだろうか。それとも逃れられないということなのだろうか。

 俺と、あなたと、ミライは、きれいに正三角形を引いたように座っていて、あなたがスクリーンに対して真正面にいる。あなたの右辺六〇度が俺で、左辺六〇度がミライだ。

 

「休憩、おわり」


 ミライが言うと、ジー……という音が部屋のどこかから降ってきて、暗転していたスクリーンにまた砂嵐が映る。砂嵐の奥にはまた数字が回り始める。


 ……1945……1980……1990……1999……2000……2003……2004……


 あなたは何も喋らない。指先ひとつ動かさない。

 でも俺は、あなたの視線が今ははっきりとスクリーンを捉えていることが分かる。

 あなたも、俺も、ミライも、同じものを見ている。見せられている。


 数字が止まり、再びスクリーンに映像が流れ始める。

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