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目が覚めると、既に階下は騒がしかった。洗濯物とか来客がどうのとの類では無さそうだった。もっと別種の、危うい煩わしさが漂っていた。
「病院なん、お母さん。今、町立から連絡があって入院するって。四〇度からあったん、胸痛いって言ってたから肺炎かもしれん」
台所へ降りた私に、祖母はそう言いながら、タオルをエコバックへ慌ただしく詰め込んでいた。祖父は箪笥の引き出しを幾つ開けて通帳を探っていた。朝ご飯の用意なんてある筈もなく、私は淡々と氷水を飲むしかなかった。
邪魔にならなければいいのだけれど。
また眠り足りないフリをして氷を噛み砕いていると、今度は免許証を探す祖父を連れて、祖母は台所の勝手口から飛び出して行った。そうしてエンジン音を最後にして、家の中は嘘のように静まり返る。
やむなく――として、私はパンやら菓子やらが買い置かれた片隅の籠からメロンパンを一つ取った。
何も今日この日にアクシデントを起こしてくれなくてもいいのに。万が一にも欠席なんてしたくもないし、する気にもならない。私の代わりなんて誰もいないのだから、休む訳にはいかなかった。たかだかフルート一本、屋外なら尚のこと、風に吹かれて音が飛んでいくかもしれないけれど、もし私が行けずに美果もいないなんてことになれば、フルートパートは薫ただひとりになってしまう。見せ場だってあるし、そもそも薫ひとりでは音量が心配だ。あのおとなしさではそれで足りると思えない。
それに――そうだ、今日は美果と行くというのに。美果だって無理をして合わせてくれているのだから、よもや私がすっぽかすなんて論外だ。――絶対に、そんなのあってはいけない。
やきもきしていても仕方がなかった。部活が始まるのは午後からで、幾ら私が湧きたっても――ここに及んでも本番の港祭りに向けて心は弾んでいて、本番開始は夕方の六時だ。
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