第16話 ルピの変化

タルト事件の後から、ルピは私に対して少し優しくなった気がする。自己防衛の為に剣術の訓練をする時は、出来るようになるまで飽きずにずっと付き合ってくれる。体力作りの為に訓練場の周りを走る時は、一周するたびに体調を気遣う言葉をかけてくれるようになった。急にどうしたのか聞いてみると、


「別に、深い意味はない。」


 とはぐらかされた。そうそう、この間は驚いた。マラソンを終えた後、物凄く暑かったので私は、


「氷が欲しいーー。」


 と言ったのだ。そしたら、ルピは魔法で氷を出してくれた。問題はその大きさ。なんと高さ三メートルはあるだろう、どデカイ氷だったのだ。勿体なかったので、ルピに氷を細かく削ってもらい、かき氷にして仲間たちに振る舞った。かき氷は大好評で、訓練の後に食べることが習慣化したほどだ。ルピは少しズレているが、私の事を考えてくれているみたいでちょっと嬉しかった。

 お茶会の時に一緒だった、あの3人とはルピと共に町で遊ぶ仲になった。もちろん、許可を取って。町は。多くの人で賑わっていた。出店がいっぱい並んでいて、いい匂いがあちらこちらから漂ってくる。


 スグリが今人気の、ミートパイを買ってくれた。この世界では金貨、銀貨、銅貨で支払う。


「うーーん、これはやみつきになるね!」


「うんうん! 何個でもいけるよねーー。」


 じーー。


 美味しそうに食べる私をルピはじっと見てくる。


 なに? 食べづらいんだけど……。


 気にせずにもう一口食べようとすると、


 ずいっ。


 ルピから何かを差し出された。


 うん?


 それは、美味しそうないちごラテだった。


「これも美味いぞ。」


 ルピは私の方を見ないで言う。


 ラテを受け取り、飲んでみた。


「これも美味しい!」


 そう言うと、ルピが少し口角を上に上げたような気がした。


「ルーーピーー。お前、張り合ってんのか?」


 とサムが茶化してきた。


「飲み物がいるかなと思っただけだ!」


 ルピが言い返す。


「素直じゃないんだから。」


 レンがわざとらしくため息を吐く。


「だから、なんでもねぇって!」


 また、ルピが荒れる。


「ふふふ。」


 普段と違う彼の姿を見て、私は思わず吹き出した。


「なんだよ?」


 ルピが振り向く。


「いや、なんでもないよ。」


 私は笑いをこらえた。町に出かけると、いつもこんな感じだ。



 その日の夜、ベルさんから夕食の誘いが来た。ルピを呼んでくるよう頼まれたので、彼の部屋に行ってみた。


 キョロキョロ。


 部屋の中を見てみるがルピの姿がない。


「ルピーー。どこーー?」


 叫んでみるが、返事がない。


 どこ行ったんだろ?


 適当に歩いてみる。


 あ。


 いつのまにか、あの庭園に着いていた。


 月明かりで照らされた花たちは、より一層美しく輝いていた。


 いた!


 銀髪がチラリと見えた。忍び足で静かに近づく。


 何してるんだろ?


 ルピは赤いバラ、通称愛の結晶を手に取り、ずっと見つめていた。見つめる目はどこか悲しげだった。


「ルピ!」


 彼はびくっと身体を震わせ、私の方を見た。


「なんで、お前がここに?」


 戸惑いを見せるルピ。


「ベルさんが夕食に招待してくれたの。」


「あぁ、そうなのか。」


 ホッとした顔をし、ルピはゆっくりと立ち上がった。


「行こうか。」


 私は、庭園を出て行くルピの後をついていった。ふと空を見上げる。今日は満月だ。

 彼が悲しそうに見えたのは、月光のせいだろうか……。

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