第15話 お茶会と愉快な仲間たち

中庭には、ピクニックみたいに敷物が沢山敷いてあり、サンドイッチやお菓子が入ったバスケットが置かれていた。


 準備が早い……。


 ガヤガヤ。


 後ろを振り向くとぞろぞろと多くの人達がこちらにやってくるのが見えた。


 あっ。


 そこにはルピの姿もあった。少し元気が無さそうだった。


 訓練のしすぎかな?


 心配に思っていると、準備をしていたベルさんが声をかけてきた。


「えりかちゃんは、ルピと一緒に座るといいわ。知らない人ばかりよりはいいでしょ?」


 ルピとかぁ。気まずいなぁ。でも、このままモヤモヤするのは嫌だしなぁ。


「やっぱり、ルピとなんかあったでしょ。」


 すぐ返事をしなかったからか、ベルさんは私の目をじっと見てきた。


「あ、いえ、本当に何もないですよ。ルピのとこに行ってきますね。」


 と、足早に去ろうとすると、


「まって!」


 ベルさんが私を呼び止めた。


「これ。」


 彼女は、ピンクの紙袋を私に差し出した。中には、赤色のゼリーがのったタルトが一つ入っていた。


「それ、真ん中で割れるようになってるんだけど、片方をルピにあげるといいよ。もう片方はえりかちゃんが食べてね。」


「なんでタルトを二つに?」


「それは、ルピに聞いてみな。意味を知っているはずだから。」


 ベルさんはにやつくのを堪えているみたいだった。なんか嫌な予感がしたけど、ルピと話すきっかけができたので、気にしないことにした。


「わかりました、行ってきます。」


「はーーい。」


 私はルピの元へ小走りで向かった。



「ルピ!」


 彼を呼び止める。


「えりか、ここにいたのか。」


 ルピは目を大きく開いて振り向いた。


「あの、えっと。」


 しまった、言うこと決めてなかった。


 私が急にどもると、


「ちょうどよかった。」


 と、ルピに手を引かれた。


「えっ!?」


 私は、彼の後をついて行く。そのまま、中庭にある朝礼台みたいな台の上にルピと一緒に立った。ルピが少し前に出る。


「全員注目ーー。」


 ルピは口の近くに両手でメガホンをつくり、大声で叫んだ。中庭中に声が響く。どうやら、台に声を大きくする仕掛けがあるみたいだ。シーンとすぐに静まり返った。


「えーー、今日は新しい仲間を紹介する。彼女の名はえりかだ。」


 ちょいちょいとルピが手で私に前へ出るよう指示を出した。緊張気味なりながらルピの隣に並ぶ。


「彼女は戦略部隊に配属させるが、しばらくは私の側で戦いを学んでもらう。えりか、何か一言。」


 え、一言!? どうしよう……。


 私は大勢の人達を見渡し、ゆっくりと口を開いた。


「はじめまして。えりかと申します。まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いします。」


 なんとかはっきりと言い、頭を下げた。


「ということで、みんな、仲良くしたってくれ。」


 とルピが締めくくり、


「おーー!」


「ようこそーー!」


 という男女の歓声が上がった。軍隊の男女の比率は、ここから見ると約9対1。圧倒的に男性がの方が多かった。




 私はルピの他に、男性3名と共に食事をした。男性一人目は、サム。金色の髪と瞳を持っている。背はルピよりも少し低い。


「この子がこの間言ってた子かぁ。あ、俺のこと呼び捨てでいいからね! よろしく。」


 八重歯がのぞく。サムは笑顔が素敵な人だ。


 この声聞き覚えがある……。あ、そうだ。召喚された次の日の朝、ルピと廊下で話していた相手だ!


 私は変ちくりんと呼ばれてたのを思い出し、ちょっとムッとした顔でルピの方を見た。ルピは私の言いたいことに気づいたようだったが知らんぷりをしていた。


 おい、目をそらすな!


「ルピは少し難しい性格でな、相手をするのが大変だろうが、まぁ頑張ってくれ。」


 ルピに聞こえないよう小声で私に伝えた男性。彼の名はレン。深緑色の髪と水色の瞳を持っている。背はルピと同じぐらい。真面目な紳士だ。


「このアップルパイうまーーい。ねね、えりかちゃんも食べてみなよ!」


 彼の名はスグリ。桃色の髪と薄紫色の瞳を持っている。背は私より少し高いくらい。子供っぽくて天然な人だ。私は渡されたアップルパイを一口食べた。


「うーーん、美味しい!」


「だよねーー!」


 口いっぱいにリンゴの甘酸っぱさが広がる。甘さ控え目のカスタードクリームとの相性が抜群だ。


 ベルさん、いいお店で買ってきたんだなぁ。って、全員分買ったんだよね。すごいお金持ちなんだろうな……。あ、そういえばタルト!


 私はゴソゴソと紙袋からタルトを出して、半分に割った。


「ルピ、はい!」


 半分を横に座ってたルピに差し出す。


「えっ!?」


「あ、タルト好きじゃない?」


「いや、好きだけど。」


「じゃぁ、はい。」


「う、うん。」


 ルピは少しためらってから受け取った。


 なんか意味があるみたいだけど、多分「仲直り」とかでしょ。


 パクッと一口食べた。


 あ、これイチゴゼリーだ。甘くて美味しい!


 ルピからの視線を感じて、振り向いた。彼は、なんと耳を赤くしていた!


 え!? どうしたの!?


「あーー! 誓いのタルト食べてるーー!!」


 突然、サムが叫んだ。レンとスグリがこっちを見る。


「誓いのタルトって?」


「誓いのタルトは、誓いを交わしたい相手と半分こにして食べるタルトです。」


 レンは、少し目をキョロキョロさせて説明してくれた。


 うん? どうしたんだろ?


「タルトの上にあるゼリーの色によって、誓いの意味が違うんだよねー。」


 スグリがにやにやして近づいてきた。


「黄色は友情で、オレンジが主従関係。そして、赤はーー愛!」


 え、愛ーーーー!?


「赤色のタルトはずっと貴方の側にいますって言う意味が込められてるんだよねーー。」


 だから、ルピ赤くなってたんだーー。ベルさん、なんて事してくれたのーー!


「えりか、これ誰にもらった?」


 ルピがチラッと私の方を見る。


「ベル、さんです。」


 私は恥ずかしさで声が震えた。


「やっぱり。あいつの仕業か……。」


 ルピは額を右手で抑えた。


「ルーピー! いらんのやったら俺が食うぞ!?」


 なかなか食べないルピを見てサムがタルトに手を伸ばす。


「あ、俺も食べたいーー!」


 スグリも手を伸ばしてきた。


「あーー、もう、鬱陶しい! 俺が貰ったんだ!」


 ルピはそう言って二人の手を払いのけ、口の中にタルトを放り込んだ。


 しばしの沈黙。


 私は、ぽかーんと見つめていた。他の3人も私とおんなじ顔をしていた。


 ルピはみんなの目線に気づき、次第に赤くなった。ルピは、だんだん自分がやった事の意味を把握してきたようだ。


「お前って、ちゃっかりしてるよな。」


 レンがにやけそうなのを我慢して言った。


「べ、別に、そういう意味で食べたんじゃないからな! 貰い物はちゃんと食べないと失礼だと思ってだな!」


 動揺したルピ、初めて見たかも。


「ふーーん。でも顔赤いよ?」


 スグリがいたずらっぽく言った。


「なっ!」


「えりかちゃん、こんなやつやけどお願いね。」


 サムはにっこりと笑った。


「お前は、変なこと言ってんじゃねぇ!」


 わぁ、すごい荒れよう。やっぱり友達といると素が出るのかなぁ。


「みなさーん、ゲームしませんかぁーー?」


 ベルさんの声が響いてきた。


「お、ゲームか、いいねぇ。」


 サムは立ち上がった。


「俺たち3人で行ってくるか!」


「そうだな。」


「行こう行こーーう!」


 レンとスグリも立ち上がった。


「じゃあ、2人仲良くね!」


 スグリがウインクをし、3人ともベルさんのところに行ってしまった。


「すまん。」


 2人きりになったからか、ルピが気まずそうに言った。


「あ、うん、大丈夫。」


 沈黙。


「えりか、その、朝の時ごめんな、急に大声出して。」


 ルピが少しこっちを見て口を開いた。私は頭を横に振った。


「そっか。」


 また沈黙。


「ルピ、助けてくれてありがとね。」


 私はルピの方を見た。目が合う。そして、少し照れたように、


「どういたしまして。」


 と小声でルピは応えた。


 サーーッ。


 涼しい風が吹く。


 ベルさんのタルトでなんやかんやあったけど、これからもうまくやってけそうだわ。


 照れ隠しか、あれからずっとそっぽを向いているルピを見ながら私はそう思った。

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