第14話 意外な記録
歴史、歴史……。あ、あった。
歴史について書かれた本は図書室の入り口のすぐ横にあった。
国の成り立ち、貿易、魔法の歴史、魔獣……。うん? 魔獣?
白い書物の背に金色の文字で「魔獣」と書かれてあった。手を伸ばし、パラパラとページをめくった。
「え……。」
そこには、魔獣と人々が共に助け合って生きていたことが記されていた。魔獣が荷物を運び、人々は魔獣のための食事を作る。仲良く暮らしている挿絵まであった。当時王国には軍隊はなく、警察と似た組織のみしかなかったみたいだ。
今と全然違う……。
しかし、さらに読み進めていくと、こんな記述を見つけた。
『大型魔獣、突然理性を失い民家を襲う。』
この大型魔獣はある夫婦といる時、突然、グルルッと苦しそうにうめき声をあげ、その後、民家に突進していったそうだ。幸い、怪我人はなく、国も、単に魔獣は具合が悪かっただけだと思ったらしい。だが、これで終わりではなかった。次の日から、暴れ出す魔獣が次々と現れたのだ。国中が大混乱。家は壊され、田畑はめちゃくちゃにされ、ついに怪我人も出てしまった。当時国王だった、スノー王は、はすぐに大臣達を集め、軍隊を作るよう指示を出した。大臣達はすぐにおふれを出し、体力のある者、魔力のある者、知識のある者、そして強い心のある者を募った。報酬は当時存在した職業の中で、大臣の次に多かった。勇気ある者が多く、すぐに枠は埋まった。厳しい訓練を行い、魔獣に立ち向かえるようにした。国王は大臣達にもう一つ命令した。それは国の周りに大きくて強い城壁を建設することだった。急ピッチで作業が進められ、わずか3年で王国全体に壁を作った。この国はアメリカぐらいの大きさだ。どれほど、皆、魔獣を恐れ始めていたかが分かる。戦いはだんだん激しく、辛いものになってきた。今日二匹倒しても、3日後にはまたやってくる。倒しても倒しても次々とやってくる。まるで大量発生したゴキブリのようだ。ゴキブリならまだかわいいものだ。大きくても手のひらサイズだ。魔獣は違う。体長3メートルは当たり前。時には5メートル級のも現れた。重傷者も増えた。それでもなんとか戦い、治癒能力のおかげで死者は出なかった。当然、村や町で飼われていた魔獣の子供は全部、飼い主から離され、王宮に連れて行かれた。その後、この子達がどのような扱いを受けたかは書かれていなかった。きっと、酷い目に遭わされたんだろう。実験に使われたり、殺されたりしたもしれない。この話の後は、城壁完成までや魔獣についてのデータがたくさん載っていた。
いつ頃の話なんだろ。
本から顔を上げると、王室系図と書かれた茶色の本が目に入った。魔獣についての本を棚にしまい、その本を手に取る。
スノー、スノー……、え! 最近じゃん。
なんと、カルミア王子のひいおじいちゃんに当たる方だった。つまり100年前までは魔獣と普通に暮らしていたことになる。
どうして急に……。 そうだ!
持ってきた不思議な本をショルダーバッグから取り出し、どこかに出版年が書いてないか探した。
うーーん。ないなぁ。何か手がかりになるといいと思ったんだけど。
私は王室系図の本を棚に戻し、部屋に戻ろうとした。
うん?
図書室の出入り口の上を見る。
「べ、ベルさん! 何してるんですか!!」
なんと、ベルさんはコウモリみたいに天井に足をつけて逆さまの状態で本を読んでいたのだ。
「ん?」
ベルさんがこちらを見る。
「あ、えりかちゃーーん!」
逆さのままひらひらと右手を振る。
「なんで逆さまなんですか!?」
私はびっくりして口を開けていると、
「逆さまになると頭が良くなるって聴いたことがあるから。あと、みんなをびっくりさせるため。」
と、クスクス笑った。
変だわーー、ベルさんって。ルピが変ちくりんっていうのわかるかも。
「魔法で逆さまになれるんですか?」
「うん。まぁ、出来るようになるまで何回か下に落ちてたけどね。最近出来るようになったの!」
いや、そこで胸を張られても。なぜそこまでして……分からん。
「あれ、えりかちゃん、なんか元気ないねぇ。どうしたん?」
私は魔獣のことを話すのをためらった。ベルさんに余計な心配かけたくないから。そこで、
「魔物討伐って、魔獣以外に何が含まれているんですか?」
ちょっと疑問に思っていたことを聞いてみた。
「そうねぇ。蛇とか、ドラゴンとかお化けかな。」
ひっ!! そ、そんなのを倒していかなあかんの……。
顔がひきつる。
「まぁ、ルピがいるから大丈夫だよ。」
彼の名を聞き、視線を下に落とした。
「あ、ルピになんか言われた? あんの野郎、いじめるなって言ったのに。」
ベルさんは、ふん、と鼻息を荒くした。
「あ、いじめられてませんよ。ただ、私が戦いを甘く見てただけで。」
慌てて、ルピへの誤解を解く。
「そっか。」
ベルさんは膝を曲げ、
「よっと!」
天井を蹴り、空中で一回転して床に着地した。
「ねね、軍の人とみんなでお茶会しない?」
彼女は突然、目をキラキラさせて近寄ってきた。
「お茶会?」
「美味しいお菓子をいっぱい仕入れてきたの。ほら、仲間との親睦を深めることは大事って言うじゃん?」
仲間、か。そういえば、正式にみんなに挨拶してなかったっけ。
「お茶会やりましょう!」
私は笑顔で応えた。仲間と仲良くなるいい機会だ。
「よーし、そうと決まれば、全力ダッシュだ! アップルパイに、クッキーにサンドイッチ。あぁ、早く食べたい!」
と言い、メイド達のところへ走っていった。
「先に訓練場の中庭に行っててぇーー。」
「はーーい。」
ベルさん、自分がおやつ食べたいだけじゃ。
キュルキュル。
お腹が鳴る。
まぁ、自分もだけど。
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