第12話 戦闘開始

ズドドドドド!!


 魔獣がこちらに向かって走ってくる。


「ファイヤーボール!!」


 魔術部隊が大きな火の玉を魔獣達の足元に放った。


 ドシャーーッ。


 三匹ともバランスを崩し、地面に倒れこんだ。


「いまだーー!!」


 前衛部隊が剣を振り上げ、突っ込んでいく。


「えりか、これ持っとけ!」


 戦闘に目を奪われていた私は、ルピが私に叫んだことに気づいていなかった。


「おい!」


「え?」


「念のため持っとけ。ないよりはましだ。」


 そう言って訓練の時に使っていた剣を渡された。


「慣れてるやつの方がいいと思ったからな。鞘もやるから腰に挿しとけ!」


 ポイっと、黒色の鞘が投げられる。私は何とかキャッチした。


「やり方わかるか?」


「なんとなく。」


「よし。急いでつけてくれ。いつ魔獣が襲ってくるかわからんからな。」


 お、襲って……。


 私は消防隊員のように、すばやく剣を鞘におさめ、腰にベルトで巻いた。ぐんっと剣の重さを感じる。


「危ないからな、俺の側を離れるなよ!」


 そう言って、魔獣の側の木影まで走っていった。私も続いて走る。剣がぷらぷらして走りにくい。普段なら難なく走れる距離を、フラフラになりながら走った。


「戦略部隊、状況はどうだ?」


 ルピは暴れている魔獣を凝視しながら連絡を取った。


「三匹共、火の力を所持。怪我人5名、視野が狭くなっているみたいなので、罠をかけやすいかと。」


「了解! プランAで行けるか?」


「行けます!」


 ルピはニィっと不敵な笑みを浮かべた。


「よし! 皆聞こえたか! 今からプランAを開始する!」


「はい!」


 プランAって何?


 話についていけてないとルピに目で訴えた。


「まぁ、見てなって。」


 ルピは唇の右端をつりあげた。これからの戦いを楽しみにしてるかのように。私は異様な彼の姿に恐怖を覚えた。


「前衛部隊ひけーー!」


 ルピが叫ぶ。


 すると、前衛部隊は四方へ散らばって木影に隠れた。


「後衛部隊、火矢を放てーー!」


 一斉に魔獣へ降り注ぐ。火の力を持つ彼らは、火矢に向かって炎を思いっきり吐いてきた。まるで自分の方が強い炎を出せるとでもいうように。火矢を放っている間、魔術部隊が魔法陣を魔獣の周りに書いていた。火矢に気を取られている魔獣はそのことに気づいていないようだった。


「魔法陣出来ました!」


「後衛部隊ひけーー!」


 魔法陣を書き終わったと同時にルピが指示を出す。


「魔術部隊、攻撃開始!」


 魔術部隊は皆それぞれ杖やペンダントを天高く掲げた。


「水の女神よ、精霊たちよ、我らに力を!!」


 魔法陣が水色に光る。魔獣たちが下を見た。


「魔獣達に裁きを下せ!! 」


 掛け声と共に魔法陣から水が飛び出す。魔獣達は突然暴れ出した。異変に気付いたようだ。だが、もう遅かった。大量の水は瞬く間に魔獣達を取り囲んだ。


「フィナーレ!!」


 バンッ!!


 魔獣達を取り囲んだ水球が弾ける。中にいた彼等は力を失ったせいか、立っているのがやっとのようだった。その姿を確認したルピはトドメの一言。


「前衛部隊、かかれーー!!」


 四方から魔剣を持った人々が魔獣に向かって突進していく。もう、めちゃくちゃで、何が起こっているのかわからない。ただ、魔獣達がろくに抵抗も出来ずにいることはわかった。


「ん?」


 ルピが首を傾げた。


「もう一匹は、どこだ……?」


 え? 私は目を凝らして魔獣の数を数える。


 一匹、二匹……あれ! 一匹いない!


「くそう、どこ行った!」


 ルピは木影から出た。


「戦略部隊、何か情報はないか!」


「ルピ様、大変です! 一匹だけ飛行能力を所持しています。」


「何!?」


「先程、微小ですが、その魔獣から風の力を感知したのです!」


「それで、やつは今どこにいる?」


「えっとですね……。」


 私は怖くなって、一歩後ろに下がった。


 チョンッ。


 何かが背中についた。恐る恐る後ろを振り返る。


「いました! ベル様 、あなたの後ろです!」


「えりか、聴いたか!? 気をつけ……。」


 ルピが急いでこちらを振り向く。


「グルルル。」


 血のような赤色の目に、純白の毛。


 ポタリッ。


 大きな口からよだれが垂れる。


「ま、ま、魔獣ーー!!!」


 私は悲鳴をあげた。


 魔獣が四つ脚でしっかり立ち、姿勢を低くしていた。私の背中に当たったのは、どうやらこいつの鼻先みたいだ。


「えりか! 剣を抜け! 襲われるぞ!!」


 ハッとして、柄に手をかける。しかし、恐ろしさで手がブルブル震え、なかなか剣を取り出せない。


「何をしている!」


「私には出来ない!」


「なぜだ!」


「怖いし、殺すなんて出来ないよ!!」


 バッ。


 突然目の前が暗くなった。見上げると魔獣がまさに私に襲いかかろうとしていた。私は足の力が抜けた。


 やばい、殺られる!


 反射的に手で目を覆う。


「こっのぉーー!!」


 ズシャッ!


「ギャウン!!」


 そっと、目を開く。そこには肩で息をし、血がついた剣を持ったルピと、腹を切られのたうちまわっている魔獣がいた。ルピは剣を鞘へ静かにおさめた。彼は私の方を見、近づいてきて私の両肩を両手で掴んだ。


「この、バカタレ! なぜ剣を抜かなかった!?」


「だって、殺しちゃうんでしょ? そんなの無理だよ!」


「殺さなければ、お前が殺されるんだぞ!!」


 ルピは今までにないくらい、大きく、そして、怒りに満ちた声で叫んだ。


「でも!」


「でもじゃない! いいか、俺はな、戦いでは誰一人として犠牲になることを許さない! 何としてでも生きるんだ!!」


 あの魔獣はいつのまにか、他の部隊に攻撃されていた。


 ボッ!


 そして、黒い灰となって消えた。


「だから平和ボケしているやつは嫌いなんだ。特に女はな……。」


 ルピはボソリと呟き、王宮に帰っていった。

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