第11話 魔獣現る

「えりか!!!」


 はっと目を覚ます。目の前に必死な顔をしたルピがいた。私はルピの腕を握っていて、ルピは私の肩を揺らしていた。


「ふぇっ?」


 まだ寝ぼけている私は、目を手でこすりながら返事をした。


「今すぐに戦いの準備をしろ! でかい魔獣が三匹現れたぞ!」

 

 と、ルピは叫んだ。


「ま、じゅう?」


「あぁ、急いで服を着替えろ! 部屋の外で待っているからな!」


 私はまだ頭がボーッとしていたが、ルピに急かされ、用意されていた軍服を着た。ルピと同じ型の女性用のものだった。着替え終わり、ドアノブに手をかける。ふと、あの本が入ったオレンジ色のショルダーバッグが目に入った。持って行こうか迷っていると、


「まだかーー?」


 と、ルピの声がした。とりあえず持っていくことにした。バッグを肩にかけ、部屋を飛び出した。ルピが持っていたパンを口いっぱいに頬張る。そして、彼と共に馬に乗り、城壁まで走っていった。景色が次々と後ろに流れていく。私は振り落とされないよう、ルピの身体へ回した手に力を入れた。


「ルピーー!」


 私は背中越しに叫んだ。


「なんだーー?」


 ルピは叫び返した。


「戦略部隊は王宮に待機なんだよねーー?」


「あぁーー!」


「じゃーーあーー、なんで私、馬に乗ってるのーー?」


「お前は、現場を見ずにみんなに指図するつもりかーー?」


「でも、聞いてないよーー!」


 自分の髪の毛が顔に張り付く。私は、素早く髪の毛を耳にかけた。


「そりゃ、残念だったなぁーー!」


 ふぇーーん、やだぁーー。くっそーー! 絶対、わざと言わなかったんだぁ!


 ブルルン!


 馬が鼻を鳴らし、止まった。どうやら着いたようだ。馬はルピに顔を擦り寄せている。餌をねだっているようだった。


「よしよし、アイビー。」


 ルピはカバンから人参を取り出し、アイビーに与えた。彼は頰を緩ませた。


 あんな顔もするんだ……。


 アイビーは美味しそうに人参をモリモリ食べている。ルピはその美しい茶色の毛並みを眺め、数回背中を撫でた。

 

 これから戦いってのに、穏やかな雰囲気が漂っていたので、私はボケーッと彼らを見つめていた。


「おい! 行くぞ!」


 突然ルピが呼んだ。いつのまにかアイビーは人参を食べ終え、手綱は近くの木の枝にくくりつけられていた。ルピは、黙って前をずんずんと歩いていく。


 まってーー!


 私は慌てて追いかけた。


 あぁ、ネイビー、わたしゃあんたになりたいよ……。



「皆揃ったか?」


 ルピが副隊長らしき人に尋ねた。


「はい! 準備は整いました!」


 彼はハキハキとルピに答え

 た。


「よし、皆聴こえるか? 」


 ルピは耳につけた小型通信機で隊員に連絡を取った。


「はい!」


「いつでも行けます!」


 次々と隊員から返事がくる。


「前方に大型魔獣発見! 全部で三匹!」


 私の通信機から、戦略部隊からであろう情報が流れた。


 ルピが大きく息を吸った。


「よし、行くぞーー!」


「オォーー!!」


 皆の雄叫び。空気が震えた。


「ドドドドドッ!!」


 地面が揺れる。地震みたいだ。地平線の向こうから白く、赤い目を持った獣が猛スピードでやってきた。怒りで、眉間にシワがよっている。


「前衛部隊、突っ込めーー!」


 戦いが始まった。放心している私をおいて……。

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