第10話 懐かしき夢
タナスさんは、この国の防衛体制について簡単に説明してくれた。まず、この国には五つの部隊がある。前衛部隊、後衛部隊、魔術部隊、救急部隊、そして私たち戦略部隊だ。前衛部隊は、主に魔剣つまり、魔力を込めた剣で先陣を切る係だ。力の強さが求められる。後衛部隊は、主に弓矢で相手の不意をつき、前衛部隊に攻撃するチャンスを与える係だ。正確性が求められる。魔術部隊は、その名の通り、魔法で攻撃する。強い魔力を所持していることが求められる。救急部隊は、主に怪我をした者たちを安全な場所に運び、治療を施す係だ。治癒能力という魔法スキルを持っているものがなれる。戦略部隊は、王宮に待機し戦略を練る係だ。司令官の補佐も務める。頭のキレが求められる。
あたま....そこまで回るかなぁ。でも、王宮に待機するみたいだからよかったーー。危なそうなところ行かなくて済むーー。
タナスさんは、今度またみんなに紹介する、と言ったので、今日はひとまず部屋に戻ることにした。
廊下を歩いてると、向こうからベルさんがやってきた。一つに束ねた金色の髪を横に流し、花柄のシュシュをつけていた。水色のワンピースの裾が風に揺れる。
「あら、えりかちゃんじゃない! どこに行ってたの?」
「図書室です。私、戦略部隊に配属されたので、タナスさんに会ってきたところです。」
「まぁ、タナスさん元気にしてらした?」
「はい。笑い声が大きすぎて、周りの人に注意されるぐらい元気な方でした。」
「そう。いつも通りでよかったわ。」
ベルさんはにこにこして言った。
彼女は、私が持っていた本の方を見た。
「さっそく借りたの?」
「あ、これはタナスさんからもらったんです。誰も借りないからって。」
「あ、そうなの。なんていう本なの?」
「題名はないんです。開けることができない本らしいくて。」
「開けることができない本? そんな本あったんだぁ。ちょっと開けてみていい?」
「いいですよ。」
私は、興味津々なベルさんに本を手渡した。
「んーー、あれ? ふーーんっ、かったい!」
ベルさんは力を込めて開けようとしたが、全く開かなかった。
「これは、術が何重にもかけられているわね。」
ベルさんは、本をまじまじと見つめて言った。
「わかるんですか?」
「私はね、魔力鑑定スキルってのを持ってるの。検査対象がどんな魔力を持っているのか判別できる力ね。」
「そんなスキルもあるんですね!」
「そうそう。でも、これはどんな術がかけられているのかわからないわね。大抵は解く方法までわかるんだけど。」
「そうですか……。」
中にどんな大事なことが書かれてあるんだろ?
ますます、本に興味が湧いてきた。
「あ、えりかちゃん、本を入れる袋ないでしょ? これあげるわ。」
と彼女は、持っていたオレンジ色のショルダーバッグを私に渡した。
「特に使ってないから、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
私は本をバッグの中に入れ、斜めがけをした。
「うん、似合ってる。」
ベルさんは満足そうに言った。
「それじゃあ、私はちょっと仕事があるんで、行ってきます。」
「いってらっしゃーーい。」
私達は互いに手を振り、別れたのだった。
その日の夜、私は変な、でも懐かしい夢を見た。3歳ぐらいの私が、ひいおばあちゃんの歌を聴いている夢だ。
愛しきあなたの元へ
届くこと願い 私は歌う……。
ひいおばあちゃんの膝の上で聴いていた幼い私は、心地よさにうっつらうっつらとし始めていた。歌声が、だんだん聴こえなくなってくる。
あれ、この歌の続きってなんだっけ。
ぼんやりとそう思う。美しい歌声が響き、いつのまにか私達はお花畑の中にいた。ひいおばあちゃんは半目になっている私を地面におろし、一言、
「神のご加護があらんことを。」
そして私から離れ、桜吹雪の中に消えていった。
「まって!」
私は、叫んだ。彼女が消えていった方向に右手を出す。小さくて、柔らかそうな幼い手が目に入った。
「……か。」
後ろから誰かの声がした。振り向いてみる。背の高い誰かが走ってきた。
「えりか。」
優しい男の人の声だった。私を呼んでいる。声のする方へ、私は走り出した。
「えりか!」
声がだんだん大きくなってくる。私は夢中になって走った。すると、目の前が霧に包まれたように真っ白になった。影で、こちらに手が差し伸べられたのがわかる。私はその手を掴もうとまた、右手を出した。今度は、さっきよりも大きくて華奢な大人の手が目に入った。
掴んだ!
と思ったと同時に、私の意識は遠のいていった。聴き覚えのある声を耳にしながら。
「えりか!!」
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