第9話 不思議な本との出会い

お昼を過ぎた頃、私とルピは王宮の図書室に向かって廊下を歩いていた。ルピは訓練用の茶色の服から、青色の軍服を着ていた。ボタンが全て金色で、キラキラと輝いていた。胸には国章。雫型のクリスタルの上で、白い鳥が羽を広げている。私の服は、黄色のワンピース。ミモザが用意してくれた。



「お前は体力がないみたいだからな、戦略部隊が向いてるだろう。」


 と、ルピは言う。


 戦略部隊かぁ、みんなについていけるか心配だなぁ。


「ここが図書室だ。」


 ルピが案内してくれた図書室は、私が今まで見たことのないぐらいとても広かった。


「すっご……。」


 本棚は天井まで続いていた。


「ここに地図がある。迷子にならないように。」


 私は、地図を見てみた。歴史、医療、魔術、語学など、いろんなセクションがあった。


 ん?


「ルピ、この秘密書ってなに?」


 私は、図書室の奥の方にあった部屋を指差していった。


「それは解読不可能な書籍や地図、また、開けることができない本がある部屋だ。」


「開けることができない本?」


「術が施されているのか、本を開くことができないんだ。」


「そうなんだ。」


 その部屋が妙に私は気になった。


 と、その時、


「これはこれは、ルピ様ではないですか!」


 メガネをかけた、ぽっちゃりとしたおじいさんがやってきた。


「今日はどうされたんですか?」


「この、えりかという転移者を戦略部隊に配属させようと思ってだな。」


「おーー、こちらが噂の。」


 と言って、おじいさんはメガネのつるを持ち上げ、私の顔を見た。


「もう噂になっているのか?」


「あぁ、噂好きな使用人が多いからな、ここは。昨日はその話で盛り上がってたわい。ワッハッハ。」


 おじいさんは腰に手をやって、大声で笑った。何人かが、こっちを振り向いた。


「タナスさん、声が大きいです。」


 ルピは小声で彼に伝えた。


「おっと、こりゃ失礼。」


 と、おじいさんは自分の口を右手で塞いだ。


「えりか、こちらはタナスさんだ。この図書室の室長であり、戦略部隊の長だ。」


「はじめまして、えりかちゃん、よろしくね。」


 タナスさんはにっこりと笑った。


「はい、タナスさん。よろしくお願います。」


 私はお辞儀をした。


「ふむふむ。いい子じゃないか。のぉ、ルピ。」


 彼はルピに賛同を求めた。


「え、まぁ。」


 ルピは曖昧な返事をした。


 まぁ、期待してなかったからいいけど。


「タナスさん。」


ルピが尋ねた。


「なんじゃ?」


「俺はこれから会議がありますので、彼女を見てやってもらっていいですか?」


「おぉ、構わんよ。行って来なさい。」


「ありがとうございます。では。」


 と言って、ルピは私の方を向き、こっそりと、


「迷惑をかけるんじゃないぞ。」


 と私に釘を刺した。


 はいはい、わかりましたって。


 私はうなずき返した。


 そして、ルピは図書室を静かに出て行った。


「えりかちゃん、行きたい場所はあるかな?」


 ルピが出て行ったのを確認して、タナスさんは口を開いた。


「えーーっと、秘密書ってとこに行きたいです。」


「おーー、そうかいそうかい。こちらへおいで。」


 タナスさんは私を手招きした。


「秘密の書へはな、行く人がそんなにいないんじゃ。わけのわからないものが多くてな。わしは、好きじゃがの。」


 迷路みたいな図書室内を歩き、アンティーク調の扉の前にたどり着いた。


「ここが【秘密書】だ。」


 中に入ると、様々な本が棚に並んでいた。部屋の真ん中には木造の丸くて大きな机があった。


「古い本が多いから、取り扱いには気をつけてな。わしは、隣の部屋にいるからのぉ。」


「わかりました。」


「うむ。」


 タナスさんはそう言って、部屋を出た。


 私は、部屋の中をぐるりと一周することにした。地図や、紙が茶色くなっている古文書らしきものなどがあった。


 ん?


 私は足を止めた。ある本棚の奥の方が、きらりと光った気がしたのだ。


 このへんかなぁ。


 私は、本をどかした。


 あ、あった。


 そこには、木でできた表紙がついた古そうな本があった。たくさんの宝石が散りばめてある。私は、その本に手を伸ばして取り出し、被っているほこりを払った。題名は、ない。開けようとするが、かたすぎて開かなかった。


 これ、ルピが言ってた、開かない本かな?


 私はタナスさんのところに行き、この本を借りてもいいか尋ねた。


「おぉ、その本か。よく見つけなさったな。需要がないみたいだし、お前にあげよう。」


「え、いいんですか?」


「あぁ、勿論だとも。それにその本は、君のところにある方が良さそうに見える。」


「ありがとうございます。」


 私はまた、深々とお辞儀をした。


「なんのなんの。こんないい子が私のところに来てくれるなんて、百人力じゃ! ワッハッハ!!」


「しーーーーっ。」


 周りの人たちが人差し指を口の前においた。


「おっと、すまんすまん。」


 タナスさんは、自身の後頭部を右手でぽりぽりかいた。


 私は、面白そうなおじいさんでよかったと、ほっとした。そして、手にした本を見て、なんとしても開いてみせる、となぜか思ったのだ。

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