第7話 鬼畜野郎

「とりあえず、全部やってみるか。」


 とルピは言いながら、訓練場の中に入った。


 まずは、剣術。


「初心者にはこの剣がいいだろう。」


 渡されたのは、細くて銀色に光る剣だった。


「ここにある剣の中で一番軽いやつだ。両手で持ったほうが安定するだろう。」


「こう?」


 両手で剣を握り、構えてみる。


「そんな感じだな。振るときは、しっかり腰を入れるように。」


 ルピはそう言いながら、私の目の前に自分の背と同じくらいの藁人形を出した。多分魔法で。


「こいつは、訓練用の人形だ。今日は、適正調査だからどんな振り方でも構わん。一回当ててみろ。」


 あ、それだけでいいの? 何か簡単そう。よーし、パパっと終わらせちゃうもんねーー。


 ビュンッ!


 人形に向かって剣を振り下ろす。


 ザザザッ!


「え? うそ!?」


 私は目を見開いた。なんと人形が動いて、私の剣をかわしたのだ!!


「なんで動くのよ!!」


 私はルピに向かって叫んだ。


「動かないとは言っていない。」


 無表情で答えるルピ。


 こんのぉーー、腹黒鬼畜野郎ぉぉぉぉーー!!


「えいっ! えいっ! えいっ!!」


 なんどもなんども剣を振るが、人形はひらりひらりとかわしていく。


 あぁーー、なんか人形が私のこと馬鹿にしてるように見えてきた。


「こんのぉーー、あ、た、れぇーーーー!」


 私は、勢いよく剣を振り下ろした。


 スッポーーン。


「あっ!」


 剣が手から離れ、宙を舞う。


 グサッ!


「あっちゃぁ....。」


 剣はきれいに孤を描いて、ルピの真横の地面に垂直に刺さった。ルピは微動だにしなかった。そして、彼は剣を地面から抜き、肩をすくませながら言った。


「あー、うん、次行こう。」


「はい....。」


 私は素直に従った....。



 次は、弓術。


「この弓と矢を使え。やり方はわかるか?」


「まあ、なんとなく。」


「よし、あそこの的を狙ってみろ。」


 私は、黒光りした弓に矢をつがえ、思いっきり引いてから放った。


 ビュンッ。


「あっ。」


 的を大きく外してしまった。


「まあ、最初はそんなもんだ。まず、十本ぐらい放ってみろ。」


 よーし。今度こそ。


 ビュンッ! ビュンッ! ビュンッ!! 


 うーーん。当たんないよーー。


 もう一度矢をつがえ、もっと強く弓を引いた。


 いっけぇぇーーーー!


 バンッ!


 矢を放つ瞬間に手元が大きく揺れてしまった。


 カキンッ、カキンッ、ドスッ。


 矢が天井にあたり、跳ね返って、壁に刺さった。ルピの顔の真横だった!!


「ご、ごめんなさい!!」


 ルピはまた微動だにしなかった。そして、彼は矢を抜き取りながら低い声で言った。


「次。」



 最後は....えっ? マラソン?


「どれだけ体力があるのか見るテストだ。戦闘中は走り回るからな。」


「あのーー、どれだけ走る予定で?」


 私は、あまり走りたくないなと目で訴えながら尋ねた。


「そうだな、軽くこの訓練場の周りを20周してもらおうかな。」


 に、にじゅっしゅう!? この訓練場、トラック一周分くらいあるんだよ!? 全然軽くないってーー!!


 ぽっかーんと口を開けている私を見てルピは、


「何、変な顔してんだ? ほら、早く行け!!」


 と私の背中を片手で押した。もう、走るしかないみたい....。



「はぁはぁはぁはぁ....。」


「おーい、まだ5週目だぞー。くたばるにはまだ早すぎるからなー。」


 もう、無理だってーー! この鬼畜やろーー!!




「ぜぃぜぃぜぃぜぃ....。」


 あ、あと少しで10周....。


 ルピの前を通り、そのまま地面に倒れこんだ。


「じゅ、10周終わったーー....。」


 私が声を喉の奥のほうから精一杯絞り出して言うと、


「まだ、10周だ。そんなんでは、相手にすぐやられてしまうぞ!」


 そんなこと言ったって、もう無理ーーーー!!


 その時、ちょうどミモザが通りかかった。ほんと、ちょうど! 彼女は、倒れている私を見て目を丸くした。全てを察したようだった。そして、ルピにおずおずとこう提案した。


「ルピ様、そろそろお茶にしませんか?」


 ルピは、自分の懐中時計を見た。


「もう、こんな時間か。よし、ミモザ、用意しておいてくれ。」


「かしこまりました。」


 ミモザはそう言ってから、私にウインクをし、走っていった。


 ミモザ、ナイス! よく言ってくれた!! 


 私はゆっくり身体を起こし、ルピとともにミモザ、いや天使様のもとへ歩いて行ったのだった。

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