第6話 強制連行

ちちちっ。


 朝。小鳥のさえずりが心地いい。


 私はミモザが用意してくれた朝食を食べ、部屋の外をぶらぶらと歩いていた。ルピの姿がどこにも見当たらない。


 近衛隊長だから、忙しいのかな?


 と、そのとき、


「ルピーー、お前、昨日なんで王子に呼び出されてたんだよ?」


 廊下から声がした。急いで物陰に隠れる。


「あぁ、手違いで召喚された女性を監視するように言われたんだ。」


「えぇーー? あれって手違いなんて起こるかぁ?」


「いや、起こらないはずだが。」


「だろーー?」


「でも、彼女は魔法が使えないみたいだし。」


「えっ、んじゃあ、どっかの世界の一般人連れてきちゃったってわけ? それってまずくないか?」


「まぁ、ばれてしまったらこの国の信用にかかわるからな。たぶん王子はそうならないためにも、俺に監視するよう命じられたのだと思う。」


 監視ってそういうことだったの!? 国の信用....、うわぁーー。私そうとは知らず、王子に失礼なこと

 考えちゃってた....。


「しかし大変だな、監視しないといけないなんて。訓練の指導もあるのにさ。」


 やっぱ、忙しいよねぇ。近衛隊長だもの。それなのに、昨日はいろいろ教えてくれたからありがたいよね....。


「あぁ。まったく、あそこまで変ちくりんだとな。」


 へ、変ちくりんですと!?


「へ、変ちくりんって、お前、そんなにおかしな女性なのか!?」


「あぁ。あっちへ行ったり、こっちへ行ったりして落ち着きがないし、ずーっとにこにこしてるからな。面白いことなど一言も言ってないのにな。」


「なるほど、確かに変ちくりんだな!」


 ちょっと、あんたまで!? ってか、それぐらい普通じゃない! どこが変ちくりんなのよ!!


「じゃあ、俺は彼女を見てくるので。」


「おう! がんばれよ!」


「あぁ。」


 ルピと話をしていた男性が去っていく音がした。ルピが一人になったのを確認して、私は物陰から飛び出した。


「ルーーピーー....。」


 私は、ひくーい、ひくーい声で名を呼びながら、彼に近づいた。


「そこにいたのか。」


「ルピ、今私のことなんて言った?」


 私は、にこにこしながら、ルピの目をまっすぐに見た。

 彼は目をぱちくりさせ、そのまま目だけ右にそらした。そして、ポツリ。


「変ちくりん....。」


 うん。腹立つ。


「なんで、変ちくりんだと?」


 私は、精一杯の笑顔をつくって尋ねた。


「それは、聞いてただろ?」


「まぁ、そうだけど。」


 気づいていたのか。


「えりか、盗み聞きはだめだぞ。」


 彼は、右手の人差し指を左右に振りながら言った。


「あぁ、うん、ごめん....。」


 って、なんで私が謝まらないといけないわけーー!? この人ぜっっったい腹黒だぁぁ!!


「そんなことより....。」


 そ、そんなことって言わないで....。


「王子から何か言われなかったか?」


「あ、えっと、魔物討伐に行けって....。」


「そうか。」


 ルピは、腕組みをした。


「でも無理だよねー。ルピの足手まといになっちゃうし....。」


「よし、お前を鍛えるぞ。」


 私が言い終わる前に彼は、大きくうなずいて言った。


「え?」


 硬直する私。


「足手まといになりたくないんだったら、訓練するしかないだろ?」


「いや、でも....。」


 なんて言って渋っていると、


「ほら行くぞ!」


 と強引に腕を引っ張られた。

 そして、私は泣く泣く訓練場に連行されてしまったのだった。

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