第2話 理不尽な召喚

「……が……、……だろ?」


「いや………、でも……。」


  うーん。うるさいなぁ。


  私は、うっすらとまぶたを開けた。たくさんの人が騒いでいるのがわかる。


  なんだろ。てか、ここどこ? 天国?


  私は、身体をゆっくりと起こした。ベタベタするし、手足がジンジンする。自分の手足を見る。透けてはいなかった。


痛みがわかるってことは……あ、私生きてる! よかったぁーー。


  「あ、お目覚めになったぞ!!」


  男の声が響く。私は手で目をこすり、前を見た。


  えっ、えぇーーーーっ。ここどこーーーーーーーーっ!?


  目の前には赤くて長い絨毯。両脇には、沢山の男たち。皆、きらびやかな衣装を身につけている。私の右には、白髪で、長い髭をもつお爺さん。白色のローブらしきものを着ている。そして左には、金髪で青色の瞳をもつ若者。彼は、王子様のような服を身につけているのだ。


  ふと下を見る。


  ひぇっ!?


  なんと、私は魔法陣の上に座っていた!


  え、もしかして私、アニメとかでみる召喚みたいなことされちゃった?


  「そなたは、何の精霊であるか?」


  突然、金髪の若者に尋ねられた。


  「えっ……?」


  精霊? 何言ってんだこの人、と思ったら、


  「どんな魔法を使えるのだ?」


  若者は、またわけのわからないことを言ってきた。


  「魔法……。」


  「やってみせてくれ。」


  そうか、魔法が使える世界なのか。


  でも、どうやってやるの?


  困った私は、右手の人差し指を前に出し、


  「ちちんぷいぷいのぷいっ!」


  何も起こらない。


  「……。」


  広間が静まり返る。


  「あ、えっと……、ひらけーーごまっ!」

 

  何も起こらない。


  「ちちん……。」


  「もう、よい!!」


  男の低い声が響き渡る。びくっと身体を震わせ、声のした方を見る。そこには、40歳ぐらいで、短髪の、怖そうな目をしている男がいた。


  「王子、この小娘は精霊ではございません!」


  「大臣、何故そう思う?」


  あのおっさん大臣なんだ。


  「まず、精霊の証である美しい羽が見当たりませぬ。魔法も使えないようであります。そもそも、どこにびしょ濡れの精霊がいますかな?」


  「まぁ、そうだな。」


  王子と呼ばれた金髪の若者は、私の顔じっと見つめた。美しいブルーアイに見つめられ、恥ずかしくなった私は目を背けた。


  「ったく、なぜこんな、へ い ぼ ん、で。」

 

  グサッ。


  「む の う な小娘が召喚されねばならんのだ!」


  グサグサッ。

  大臣の言葉が胸に刺さる。


  あのね、平凡って、もうちょっといい言い方ないわけ? しかも、何? 無能って。ひどいじゃない。まだあんたと会って5分も経ってないくせにーー。

 

  なんて思ってると、


  「元の世界には帰してやれんのか?」


  王子が白髪のお爺さんに聞いた。


  そうよ、帰してよーー。


  しかし……。


  「王子様、申し訳ないのですが、返し方がわかりませぬ。なにしろ、いままでは、精霊が自分でおかえりになってましたから。」

 

  へっ!? うそ!? 帰れないの?


  「それは、困ったなぁ。本当にわからないのか?」


  「申し訳ございません。」


  「ふむ。」


  王子はくるりと振り向いて、私を見た。


  「そなたの名は?」


  「えりか、です……。」


  「えりか、か。すまないが、しばらくこの国に住んでもらうぞ。」


  「え、ここに?」


  「うむ。間違って召喚してしまったおわびに、衣食住は提供する。」


  あ、よかったーー。


  ホッとしていると。


  「た だ し!」


  ビクッ。


  私はまた身体を震わせた。


  「条件がある。」


  「条件、ですか?」


  「条件は、魔物を倒すことだ。」


  まもの……、えっ、魔物!?


  「頼むぞ!」


  王子が、ニッコリと笑う。


  サッー……。


  私は、血の気が引く感じがした……。


  えぇぇぇぇぇーーーーーーーー!!!!


どうやら私はとんでもない所に来てしまったようだ。

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