第18話 新たな仲間

「それで、次の行先とかはもう決めてるのか?」

 歩く速度を保ちながら、ステラはダイスケへとたずねた。

「いや、特には決めてないが、このまま東の方へ向かおうと思ってる」

「東なら、この先大きな町もないし、いいかもしれないな。まぁ、英雄様なら御存じのことだったかもしれないがな」

 意地の悪い笑いを浮かべながら、ステラはダイスケの顔を見上げる。

 わざとなのだろうが、どこで誰が見ているかもわからない現状、英雄と呼ぶのは勘弁してもらいたい。

「その呼び方はやめてくれ。見回りの兵士にでも聞かれたら王都にとんぼ返りだ」

「違いないな。それでは私もダイスケと呼ぶことにしよう。いいな、ダイスケ?」

 ステラはそう言い放つと、ダイスケの返答を待つことなく、距離を詰める。

 手と手が触れ合いそうな間合い。

 相手が子供のような体形のステラでなければ、緊張で汗だくになっていたことだろう。

「んっ? 今何か失礼なことを考えてないか?」

 心を見透かしたかのようなステラの言葉に、ダイスケの心臓は小さく跳ねる。

 しかし、ここで取り乱すわけにもいかない。

 冷静を装いつつ、ダイスケはステラとの距離を取るべく、口を開いた。

「いや、別に……それより、近いって」

「ふふふ。美女と並んで歩けるのだから、素直に喜ぶがいい」

 ダイスケの反応を楽しんでか、執拗に迫ってくるステラ。

 女性からこうしたスキンシップを受けることは、嬉しくないことはないが、色々と問題を呼び込むことも多いので、できることなら遠慮したかった。

 だが、そう思った時には既に手遅れだったらしく、私怨を伴った声が背後から肩を叩いてきた。

「ちょっと、二人とも、距離が近すぎるんじゃないの?」

 ダイスケが慌てて振り返ると、そこには頬を膨らませて不機嫌感満載なベルが、鬼でも射るかのような鋭い目つきでにらんでいた。

 思い返してみると、ベルはずっと現在のステラの位置を歩いていたわけだし、自分の居場所を取られたような気持ちなのかもしれない。

 ここでステラが気を利かせて場所を変わってくれたなら丸く収まるのだろうが、この二人に限ってそれはありえなかった。

「ふっふっふ。ダイスケの隣には子供よりも美女が映えるものなのだよ」

 勝ち誇ったかのような笑みと共に発せられるステラの勝利宣言。

 ただ、ベルと大差ない背丈に、金髪のツインテールでそれを言うのだから、本当に勝っているのかは疑問だ。

 もちろん、ベルだって黙ってはいない。

「……アタシと大して変わらないくせに」

 がら空きのボディにストレートパンチを打ち込むような、ベルの重いの口撃。

 それを受けてステラの顔から一気に余裕の色が消え失せ、感情的に声を荒げる。

「なっ、中味は立派な大人だぞ! 料理だってちゃんと……」

「料理ならアタシだってできるもん」

「あんなもの、料理の内に入らん」

「そっちだって、作った料理を食べさせてないじゃない!」

「ふん、とにかく、この位置は私が立つべきだ」

 そう言ってステラはそのままダイスケの腕にしがみつく。

「そんなの、あなたが決めることじゃないでしょ!」

 ベルも負けじと、ダイスケへと駆け寄り、ステラとは反対側の腕へと抱き着いた。

「幼いのだから、私たちの後ろを歩け!」

「うるさいわね、その白い服こそ、だぼだぼで子供っぽいじゃない!」

「なっ、おっ、お前こそ、その首の布! カッコいいとか思ってるのか!」

「これはダイスケがプレゼントしてくれたんだよーだ!」

「うぐっ……この、卑怯者!」

「もう、いい加減にしてくれ……」

 左右から飛び交う言葉の応酬に、ダイスケは疲弊した声を上げる。

 しかしながら、それで二人の言い争いは収まるわけがない。

 結局、ダイスケを挟む少女たちの争いは、次の集落に到着するまで続くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る