3-7

 君の瞳からこぼれれ落ちるしずく

 伏せた睫毛が涙で濡れた

 悲しげな横顔 見ていられなくて

 そっと君の手を握る

 泣かないで 俺が側にいるから

 月明かり照らす

 繋がれた手と手

 絡み合う赤い糸の先

 君と繋がっていたらと祈る

 これが、愛なのだと知った


(full moon/UN-SWAYED)


        *


6月11日(Thu)午後8時半


 今にも雨が降りそうな曇り空の夜。隼人は仕事終わりに美月を誘ってレストランで食事をしていた。


『食べきれなかったら残していいぞ』

「うん……ごめんね」


 雑誌にも取り上げられて評判のビストロの料理の味は文句なかった。しかし美月の皿には料理が半分以上残っている。彼女は申し訳なさそうに料理が残った皿に手を合わせた。


元々華奢な身体はさらに痩せてしまった。会話をしていても美月に笑顔はなく、どこか上の空のように感じる。


 ビストロの小さな駐車場を出て、隼人の車が都会の夜道を駆けた。


『今夜、うち泊まるか?』

「……今日は帰る」

『そっか。そうだな。お父さん達も心配するし……』

「そうじゃないっ」


隼人の言葉を遮って美月が叫んだ。驚いた隼人は横目で助手席の美月を見る。うつむく美月の肩が小刻みに震えていた。


「隼人と一緒にいるのが苦しいの……」

『どういうことだ?』


 車が脇道に曲がり、路肩に停車した。突然言われた拒絶の一言は理解するのに時間を要した。


「私ね……隼人のことが大好きだよ。その気持ちは変わらない。これからも隼人とずっと一緒にいたいって思ってる」

『じゃあなんで……』

「でも! あのアゲハって人から手紙が来た日から私は佐藤さんのことばかり考えてるの。こんな気持ちのまま隼人と一緒にいられない」


美月の綺麗過ぎる瞳から流れる大粒の涙。それに呼応してか、天気予報通りに降り出した雨の音が車内に響いた。


「明後日から静岡の叔父の家に行くことにした。お父さん達がしばらく東京を離れた方がいいだろうって……」

『……そうだな。その方がいい』

「ひとりになって色んなことをゆっくり考えたいの。だから……待ってて」


 待っててと言われても何を待てばいい?

隼人には待つ選択しか残されていない。

待つか、離れるか、それしか道がないのなら、彼は待つだろう。幾らでも。


 絡み合う赤い糸の先で待っているのは誰なのでしょう?


 私の赤い糸の先はあなたでしょうか?

 あなたの赤い糸の先は私でしょうか?

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