3-6
わからない わからない
何が起きているのか、何が起きようとしているのか
何もわからない
ただひとつわかることはまだ、私の心には貴方がいた
忘れていたはずたったのに、忘れたと思っていたのに……
*
真夜中のひとりきりの部屋。ベッドを降りた美月は机の引き出しを開け、花柄の小箱を取り出した。
これは昔から大切にしている宝物が詰まっている宝箱。祖母に貰ったアンティークのブローチ、親友の比奈の手作りの御守り、母からプレゼントされたムーンストーンのネックレス。
大切に仕舞われた物の中にひとつだけ、他の物とは雰囲気の異なる物がある。
無機質なシルバーのアトマイザー。3年前にあの人から貰った物。あの人からの唯一の贈り物。
中にはあの人が使っていた香水が入っている。
香水を空中に向けてひと吹きすると3年前の記憶が甦る。
あの人と一緒に過ごしたあの夜は泣き出してしまいそうなくらいに月が綺麗な雨上がりの夏の夜だった。
暑い日差し、騒ぐ海鳥、轟く銃声……
『幸せになれよ』と美月に最期の言葉を遺して佐藤瞬は海に消えた。
海の景色も潮の香りも、風の音も、一緒に食べたクッキーの味も、夜の海に浮かぶ白い月も、ゆびきりした約束も、全部、幻。
唯一残っていたものは夢の香りだけ。
あれから3年。白昼夢の残り香だけが今もまだ美月の心に薫り続けていた。
夢でもいいから
もう一度あなたに会いたい
夢の中だけでも
あなたのぬくもりを感じたい
終わらない夢をあなたと永遠に見ていたい
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