第七章
第七章
一方そのころ杉三は、、、。
留萌線を降りて、留萌駅近くの、ラーメン屋さんでラーメンを食べていた。
「なるほど。留萌は札幌ラーメンとはまた違うラーメン何だなあ。留萌のラーメンは、味噌ラーメンじゃなくて、しょうゆ味で卵が乗っているシンプルな味のラーメンなのね。」
どうやら留萌のラーメンはそうなっているらしい。ちなみに、ライバルである羽幌町は、塩ラーメンが人気だと橘さんが言った。
「橘さんいいんですか?わざわざラーメンまで奢ってくださって。」
たか子は、申し訳なかったが、橘さんはとてもうれしそうだ。
「いやあ、空っぽ電車で買い物をしているよりも、こいつが面白い話をたくさん聞かせてくれるので、そのお礼をしたくてさあ。」
とにこやかに笑って、お礼をする橘さん。
「こっちもありがたいよ。おかげさまで、数の子も、こんなに沢山買うことができたし。感謝するわ。手伝ってくれて。」
と、杉三が橘さんにいった。
「よかったわね。杉ちゃん。お土産も買えて。留萌は、何にも楽しいところがなくてごめんね。」
たか子は、ちょっとすまんという顔で杉三を見たが、杉ちゃんは、気にしないでいいよと言った。
「それよりもこのラーメンがあればずっといいやあ。もしよければ、これからは二人で買い物に出たらどうだ?そうすれば一人で買い物する寂しさもなくなるんじゃないの?」
又ラーメンを口にする杉三。
「そうだねえ。」
橘さんとたか子は考え込んだ。
「いろんな便利なものがここにはない代わりに、わずかばかりの便利さを求めて、結束してもいいと思うよ。」
杉三が、ラーメンをすすりながらそんなことをいう。たしかにこの地域は過疎地域だ。広大な山岳地帯に、ぽつんぽつんと人が住んでいるに過ぎない。かつては炭鉱の町としてにぎわっていたが、それがなくなってしまったので、みんなどんどん出て行ってしまった。残された私たちは、そうして生きるしかないのかなと、たか子は思った。それは都会育ちのたか子には、なんとも煩わしくて、嫌な行為だった。でも、近所づきあいをしておかないと、ますます暮らしていけないようになってしまう気がする。
「あ、もう一時だ。駅へ戻らなきゃ。これを逃すと次の電車は四時になっちゃうよ。」
橘さんがそういったため、三人はラーメン屋さんにお金を払った。いった通り、ラーメンは、橘さんが奢ってくれた。
三人はラーメン屋さんを出て、留萌駅に戻った。ホームで待つ必要はなく、電車が待っているのだった。また間延びした運転手が出てきて、車いす用の渡坂を出してくれて、杉三を乗せてくれた。三人が、整理券を取って、座席に座って数分後。がったんという音がして、疲れた電車がまた動き出した。
またのろのろのローカル線で、一時間程度の旅だった。電車の窓から海が見えて、澄んでいるほど綺麗だった。いわゆるコバルトブルーという色だろうか。海のうえには、海鳥が、沢山飛んでいる。時折、木のない山がみえた。それが炭坑で石炭をとった後にでてくる、不用品を集めた山、つまりぼた山だと、橘さんが説明した。何だかきれいな山とか海に交じって、その砂山があるというのが、一寸、変な風景だと杉三が笑った。
たしかにぼた山というのは、人間が作ったもので、自然が作ったものではない。そのぼた山というものが、なぜか、大きな山の様にみえて、自然が作った山が小さく見えてしまうのはなぜだろう?もし、ぼた山のほうが、自然の山より、大きくなってしまったら、たいへんなことになってしまいそうな気がした。それではいけないというか、自然のやっていることに背いて人間が山を作ってしまわないように、炭坑が落盤を起こしたりするのかもしれない。なんてたか子は考えていた。
そうして、橘さんの家の、最寄り駅である、朱文別駅の近くまで来た時である。
不意に、たか子のスマートフォンがなった。
「あら、どうしたのかしら。」
と、たか子はスマートフォンを出した。内容を確認すると、メールが入っていた。
「あ、慶介からだわ。あら、え、何、ちょっと待って!水穂さんが大変だから急いで帰ってきて下さい。お願いしますって!ちょっとまってよ!」
「なんだ、水穂さんまたなにかやったの?」
杉三がそう聞いたため、たか子は急いで水穂さんはどうしたのかと、すぐにメールを送り返した。すると、待っていましたとでも言いたげにすぐに返信があった。
「咳き込んで大変って、、、。今高橋さんの家にいるそうだけど。」
「なるほど、ぼた山の灰でも吸い込んだのか。よし、わしも一緒に行くよ。確か久保さんの家は増毛駅だったよね。」
と、橘さんが言った。
「そうですけど、橘さんは、次の駅で降りるんでしょう?」
「いいや、今はそんなこと気にしないさ。そんな、久保さんたちが大変な目にあっているのに、それを途中で放置するなんて、一寸人としてどうかと思うし。其れならちゃんと見届けてから帰りたいよ。」
橘さんは、次の駅に到着しても、降りようとはしなかった。
「もし、なにかあったら、そのほかの手段で帰ればそれでいいさ。どうせ誰かが監視しているわけでもあるまいし、電車もタクシーも、運賃さえ払えばちゃんと乗せてくれるんだから。」
「爺さんありがとうな。実は僕も心細い。いてくれた方がありがたい。」
杉ちゃんもそういった。電車は、発車時刻になって、朱文別駅をどっこいしょと走り出す。たか子は通り過ぎてしまうと、申し訳ないのと、心配なのとで、一杯になった。
数十分後、増毛駅に着いた。三人は手っ取り早く運転手さんに運賃を払って、ホームから駅の外へ突進していく。駅前の、一階が店舗になっている建物が、あの高橋さんの家であったが、たか子はインターフォンを押すのも忘れて、
「慶介、慶介は大丈夫!」
と、叫んでしまったのであった。
しかし、慶介君の声ではなく、聞こえてくるのは咳き込んでいる音であった。店舗部分には人はいなかった。その奥にあるちいさな部屋に布団が敷かれていて、水穂が横になっているのであるが、静かに横になってはおらず、高橋さんに背中をたたいてもらったりしながら咳き込んでいる。
「薬、切れちゃったかな。」
と高橋さんは言った。
「目が覚めたと思ったら、もう咳き込みだして、、、。」
「あ、すまん!多分ホテルに帰ったら、薬持ってきてあると思うんだが、、、。」
杉三が、言うと高橋さんはちょっと安心した顔をした。
「じゃあ、ホテルに行けば、この人は何とか大丈夫なんですか。」
「はい。一応、薬は必ず持ち歩いていますので。とりあえずこいつを、ホテルまで、連れて行きたいんですが、電車は当分ありませんよね。救急搬送は絶対にしないでくれ。それは歴史的な事情があるのです。」
高橋さんの質問に杉三はすぐに答えた。たか子は、救急搬送できないのはおかしいと思ったが、お年寄りたちは分かったらしい。すぐになるほどと納得した。慶介君は呆然とした顔をして居た。
「でも、電車はさっきの電車が行ってしまったので、あと、二時間から三時間は待たなくちゃ。」
と、橘さんが言った。
「そうよ、其れに、タクシーを呼ぶにも、留萌の町からだし、台数も少ないから、来ないかもしれないわ。」
たしかに山岳地帯の山道を走るには、時間がかかりすぎるし、迎車料金もものすごくかかってしまいいそうだった。
たか子はクルマを持っていたが、動けない患者を運ぶには適したクルマではなかった。なのでたか子自身が、運転してホテルに連れて行くことは出来ない。誰かのを借りようかと思ったが、橘さんも高橋さんも、二人とも年寄りだから、運転免許はとっくに自主返納していた。それでは手も足も出ないじゃないの!とたか子が言おうとしたその瞬間。
慶介君が、なにか一枚の紙を持ってきた。そこに書いてあるのは電話番号と住所で、住所は羽幌町となっている。企業名は、民間患者輸送サービスと書いてあった。何処にあったのとたか子が聞くと、慶介君は、水穂さんの持っている巾着の入り口を指さした。
「じゃあ、それを利用しましょう。やっぱり羽幌ですね、こういう企業もすぐに立つように工夫をしているんですなあ。こっちも見習わなくちゃねエ。」
と、橘さんが冗談っぽく言って、慶介君から、紙とスマートフォンを受けとって、すぐに電話をかけ始めた。さすが男の人だ。こういう時には機転が速い。たか子はあの電車の中での寂しそうな、頼りなさそうな顔をした橘さんとは偉い違いだと大いに驚いた。橘さんは、いくつか言葉を交わすと、電話を切った。
「羽幌の町からなので一時間ほどかかりますが、来てくれるそうです。」
そうか、羽幌からだとそのくらいかかるよな、と高橋さんが言っている。でも、実は、一時間待つなんて、田舎では短い方なのだ。だってあの、留萌線を待つ時何て、一時の電車をもし逃したら、次は四時の電車が来るのを待たなければならないのだ。
「で、泊るところは何処ですか?」
「はい、留萌の、ホテルカムイワというところ。」
杉ちゃんがホテルの名を覚えてくれていたところが救いだった。たか子はそこはよかったと思う。
「よし、それでは、ここでまちましょう。きっと一時間してくれたら来てくれますよ。それにしても、羽幌町は、すごいものがあって、わしらは完全に負けましたな。」
高橋さんはほっと溜息をついた。
「これでは、ライバルではなく、見習わなければなりませんなあ。」
橘さんもそういっている。
やがて、一台のワゴン車が高橋さんの家の前に止まった。羽幌から、患者輸送車がやって来たのである。
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