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「……ちょっと、君」


 何十日かぶりに行った学校の帰り。校門を出た途端に、俺は後ろから声をかけられた。


「なんだぁ?」


 人の事を『キミ』なんて呼ぶような奴に知り合いなんていねぇぞ。


 仏頂ぶっちょうヅラで振り向いた俺は、案の定知らない男の顔を確認して、再び背を向けて歩き出した。


「ちょっと! 待てって」


 左腕を掴む男の手を、勢いよく振り払う。


「俺の左腕に触んじゃねぇ!」


 チッと舌打ちして、振り向き様に男の胸倉を掴んだ。


「なんだ? お前。馴れ馴れしく人の腕掴んでんじゃねぇぞ」


 言って、突き飛ばすように手を離す。キズの残ったこの腕を、孝亮以外に触れて欲しくはなかった。


 だが俺の手首を掴んだ男は、グイと腕を引っ張って器用に体勢を立て直す。


「俺の名は上宮かみつみやせい。君が入院してる間に、君のクラスに転入してきた。……だが、今は自己紹介をしてる場合じゃない」


 俺を食い入るように見つめた男は、手首を掴んだままで低く言った。


「死相が出てるぞ。鏑木かぶらぎ僚紘ともひろ


「シソウ……だと?」


 瞼を痙攣させる俺に、そいつはゆっくりと頷いた。


「そう。顔に死期が現れてる。このままだと、君。死ぬぞ」


 男の言葉に、孝亮の顔が頭を過よぎる。


 死相、上等! 一緒に死んでやろうじゃねぇか。


 クスリと笑いを洩らした俺は、警戒を込めて男を睨み返した。


「何者だ、お前? なんで知ってるんだ。そんな事」


 訝しがる俺に、男が目を剥いた。ギリギリと手首を掴む手に力を入れる。


「知ってる? なんで知ってるだと?」


「イテテ! 何すんだよ、離せッ」


 顔を強張こわばらせた男の目が、一瞬にして変貌した。今まで穏やかな光を放っていた瞳が、まばたきと共に闇に支配される。


「お前、自分から死ぬ気なのか?」


 やっと俺の手首から手を離した男は、その手で顔をおおった。


「なんて……事だ……」


 蒼白な顔で動揺する男を冷たく見返して、俺は軽く右手を上げた。


「じゃ、そゆコトで」


 小声で言って、足早に歩き出す。


 どう考えたって、尋常な奴じゃねぇ。あんなのに関わっちゃ、ロクな事がねぇぜ。


 振り向かず、只前だけを見て歩く。


 こーゆー時は、振り向いちゃいけねぇんだよな。ほらアレ、子犬とかと一緒だ。振り向いて、万一目なんか合わせてみろ。どこまででも、ついて来る。


 角を曲がり、しばらくしてから、やっと歩くスピードを落とす。


「なんなんだ、あいつは。頭イカれてんじゃねぇか?」


 吐き捨てるように言って、俺は足を止めた。


 ……妙な気配が、後ろから漂ってくる。


 無視しきれない程の強い意志。悪意ではないが、どうも怒りのようなモノが含まれている気がする。

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