第三話『暗黒騎士ミロ』5

 俺は飛んでくる暗黒オーラをルーンブレイクで斬りまくる。と言っても全く余裕がない。一発一発がとてつもない威力のそれらを、一回斬るだけで激しく体力が持っていかれる。俺の後ろの地形が心配になるくらい凄まじい爆発音が後方で鳴り響いていた。


 くっ……このままではじり貧だ。俺は暗黒オーラをどうにか凌ぎながらも状況を打開する方法を考える。


 ――それにしても、魔法剣士から門番へ転職したアドバンテージの低下は想像以上に大きかった。八門遁甲開門スキルを三段階解放することでどうにか全盛期のステータスに戻っているものの、苦労して手に入れた強力なスキル群が全て無くなっているからだ。


 しかも八門遁甲開門スキルで無理矢理にステータスを上げているせいで、体への負担が大きい。早くも息が切れてきている……!

 八門遁甲の門をさらに開ければ圧倒できるかもしれないが……これ以上は体への負担が大きすぎる上に、制御できるかもわからない。制御できない力を振るえばミロに致命傷を与えてしまう可能性だってある。それだけは絶対に避けなければならない。

 ……だったらどうする? 今の俺が使えるものといったら門番のスキルくらいしかないが……。


 あ、そうだ! この間覚えたばかりのスキル――『バインド』を使ってみるか!

 そのように決めると、俺は暗黒オーラが飛んでくるタイミングを見計らって、ミロがいる方向へと大きく跳び上がった。このまま上空から一気に間合いを詰める!


 ミロはそんな俺に向かって、剣を上に構えると、


「甘いぞリューイ! それでは我の技(ダークスラッシュ)の的にしてくれと言っているようなものだ!」


 ミロは再び剣に暗黒オーラを集め、上空から迫る俺に向けて放とうとしたが、俺は逆にその隙を突く。


「甘いのはお前だミロ! 行け、バインド!」


 スキルを使った瞬間、俺の左手から魔力のロープが伸びていきミロの体をぐるりと回ると、そのままミロの体に巻き付いた。やった、成功だ!

 俺は着地すると、攻撃を仕掛けるために一気にミロへと迫るが、


「ふんっ!」


 バリンッ! ミロが体に力を入れただけで魔法のロープは粉々に砕け散ったではないか。俺は慌てて急停止する。

 ……あ、あれ? 想像以上に簡単にほどかれてしまったぞ……。


「何だこのふぬけたスキルは? 私を舐めているのか?」


 本気だよ! さすが門番のスキル! 雑魚過ぎ!

 ど、どうする……? 先程の暗黒オーラを撃たせないところまで間合いを詰められたのはよかったが、結局は元の木阿弥だった。

 そうなるともう隠しスキルに期待するしかないのだが……今俺が持っている門番の隠しスキルと言ったら『クリエイトゲートスキル』と『八門遁甲開門スキル』だけ。しかし現在既に八門遁甲開門スキルは使っている状態なので、実際残されているのはクリエイトゲートスキルしかない。


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*クリエイトゲート

【効果】

 壁や通路に門を創ることが出来る。

 他の隠し門番スキルの前提条件となる。

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 説明にある通り『クリエイトゲート』は門を作るスキルである。これでどうしろと……?


「食らえ!」

「ひえっ!?」


 考え事をしていたらミロいきなりが大剣を振ってきてマジでギリギリで躱した。殺す気か!?

 結局そこからまた剣の打ち合いが始まってしまう。

 キンッ、キンッ、ガキィッ、と剣戟の音が響き渡る度に辺りの地面が振動する。

 俺とミロの力が強すぎるせいか、剣を打ち合わせた時に発生する衝撃波で周りの小石などが弾け飛んでいた。

 しかし……くっ、このままでは体力がやばい! 同じ力でも、体に掛かっている負担は段違いだ。このまま行けば確実にこちらが先に参ってしまう。

 ……ん? そこで俺はピンときた。ここに門を作れればあいつのダークショットを防げるのではないか?

 クリエイトゲートスキルは『壁や通路に門を創ることが出来る』とある。例えばこの岩場と岩場の間を『通路』に見立てることは出来ないだろうか?

 どうせこのままでは負けてしまう。だったら物は試しだ!

 俺はミロの剣を弾くと、敢えてバックステップで距離を取る。

 するとミロが再びダークスラッシュの構えに入った。


「ふっ、どうやらまたこの技の餌食になりたいようだな」


 ミロが脅してくるが、俺は慌てずにスキルを使用する。


「クリエイトゲート!」


 門番になった時に獲得した天職スキル。本来なら「主よ 唯一の神よ 今ここに新たなる門を開きたまえ」という詠唱をしなければならないが、八門遁甲開門スキルによって魔力が高まっている今の俺には必要ないらしい。

 スキルの詠唱を終ると同時に、近場の大きな岩に手を付いた途端、その場がカッと光り、巨大な門が岩と岩の間に出現した。やった、上手くいった!

 門は俺とミロを遮るようにして出現したので、ミロの放ったダークスラッシュは俺の作った門に直撃する。激しい衝撃音を出して門は揺れ、ヒビは入ったものの、門は倒れることも壊れることもなかった。

 よし、いける!


「ふんぬーッ!! 何だこの門は!?」


 門の向こうから怒鳴り声が聞こえてくるが、このスキルがあれば取りあえずダークスラッシュは防げる。ここは一度八門遁甲開門スキルを切って体力の温存を――ズバンッ!!――門が真っ二つに割れた。……門、斬られちゃった……。

 ミロは崩れた門を乗り越えながら言ってくる。


「覚悟は出来ているだろうな、リューイ?」


 絶体絶命……。

 俺は今と同じようにクリエイトゲートスキルで門を作ってミロを妨害しながら逃げ続けるものの、ミロも門を破壊しながら追いかけてくる。

 たまにフェイントでミロは門を周り込んだりしてくるが、俺もそれを見切って、敢えて門を開いて門を潜り、逆の方に逃げたりしてどうにか凌ぐ。

 そう言えば昔もよくこんな風にミロと鬼ごっこしたものだが、昔の鬼ごっこも、剣も魔法もなんでもありのデンジャラスな鬼ごっこだったことを思い出してげんなりした……。

 一瞬このまま門を作り続け、ミロが門を壊すということを繰り返して疲れを誘えないかと思ったが、八門遁甲スキルを使って逃げている分、どう考えてもこちらが先に力尽きてしまう……。

 そこからも特に打開策は見つからず、さすがに体力が尽きかけてきた。

 もはやダークテリトリーでゴブリンを相手に生活するしかないのか……?

 まずい……体力がなくなって思考もネガティブになってきている。

 そうやって精も根も尽き果ててきた頃、頭の中で声が鳴り響く。



『条件を満たしました。新しい隠しスキルを入手しました』


 な、なに? 新しい隠しスキルだって?

 俺は必死でミロから距離を取り続けながらも、頭の中でスキルを確認する。

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