第一話『魔法剣士から門番へ』3

 はぁ、厄介なことになったな……。

 ナパール王は何だかんだ理由を付けていたが、結局は俺に嫌がらせしたいだけだ。自分の物にならなかったミロを、ミロと仲の良い俺と殺し合いをさせることに愉悦を感じているのだろう。

 ……そろそろ潮時かな。

 その意味するところは、もうこの国からさよならしようかなということだ。

 これまでは母国であるこのグルニア王国と、実家であるネルフィス家への体面からある程度理不尽な命令にも従ってきたが、親友であるミロと戦ってまで守りたいものなどそこにはない。

 加えて俺には『地位』や『名声』にも執着が無い。俺が欲しいものはもっと別にあるのだから。

 だったらこの国にいる理由などもうないだろう。

 しかし――と俺は思う。今の魔法剣士の職業のまま逃げ出しても大規模な追手がかかる可能性が高い。

 それに魔法剣士がやれる仕事となると結局は戦闘関係しかない。

 例えば冒険者として生きていくことなどがその筆頭として上げられるが、冒険者ギルドに登録する時は必ず本名と職業名が明かされてしまうシステムになっている。そうなると俺が『グルニアの魔法剣士リューイ・ネルフィス』であることが一発でばれてしまう。

 つまり、魔法剣士のままではゆっくり生きていくこともままならないということだ。





 ――だったら思い切って他の職業に転職してみようか?



 一度転職したら二度と同じ職業に戻れないので、英雄職の魔法剣士に二度となれなくなるのは少々もったいない気もするが、そもそも俺は別に強さなんて求めていない。ミロとの繋がりを感じるために強くなろうと頑張ってきたが、そのミロを討たねばならないのなら本末転倒もいいところだし。

 そんなわけでこの際、転職するというのはありだと思う。


 ――だけど、何の職業に転職する?


 正直言って俺は戦うことにはうんざりしている。だから出来れば戦闘職以外がいい。それでいて出来るだけ人との触れ合いがある職業がベストだった。

 でも、そんな都合の良い職業なんてあるだろうか?

 ………。なんて、実はもう答えは出ているのだが。




 そう、門番である。

 門番は普通職であり、戦闘職ではない。つまり戦いとはあまり縁のない職業と言える。

 さらには俺的『人との触れ合いナンバーワン職業』である。

 ミロと戦わなくて済む上に、人との温もりまで手に入るなんて、もはや門番にならない理由が見つからなかった。

 よし、なろう門番に!

 元々門番への憧れが強かった俺はあっさりそう決意すると、城下町に向かって進み始めた。




 **************************************




 この世界で転職するためには、いくつか条件をクリアすることが必要となってくる。

 まず転職先の職業に縁のある物を用意することだ。

 ちなみに俺が魔法剣士になった時は、一本の剣と魔法の腕輪を用意した。

 そして門番に転職する際に必要なものは『門』である。

 そんなわけで俺は適した門を捜すため城下町を練り歩いていた。転職の儀式が邪魔されないために、人通りが少なくて、門番が立っていない門が望ましい。

 きょろきょろと辺りを見回しながら歩いていると、東通りの貧民街に入ったところでちょうど良い門を発見する。昔の教会跡で、西通りに移築された時にそのまま残されて廃墟となっている建物――人通りも少ないし邪魔も入らなさそうだ。

 俺は教会跡に入ると、魔法剣士の象徴である『剣』と『魔法の腕輪』を外して瓦礫の上に置いた。そして門の側に立ち、集中する。

 ふぅ……相変わらずこの瞬間はドキドキするな。転職とは半分生まれ変わるようなものだから。




 ――しかし本来は転職の儀式というのは教会でやってもらわねばならない。何故なら転職の儀式には、神官が使う神聖魔法の力が必要になるからだ。だけど俺は自分で神聖魔法が使えるので、こうして独力で転職しようというわけである。俺が転職したことがバレるわけにもいかないからな。

「慈愛の神マーサよ 我が声に耳を傾けたまえ 我は汝の子なり」

 俺が神聖魔法を唱えると、足元に神々しい光と共に、大きな魔方陣が現れた。


 ――転職で最も重要な条件は、転職先の『才能』を持っていることだ。魔法剣士になる時は、剣と魔法の両方に達人級の才能が必要だったが、正直言って門番の才能とは何かよく分からない。こればかりはやってみるしかないだろうが、英雄職の魔法剣士に比べたら大分条件は緩いはずだ。

 俺は神聖魔法を唱え続ける。


「我は新たなる道を望まん 汝の大いなる慈悲を以て 今ここに我を門番へと誘いたまえ リライト!!」



 神聖魔法を唱え終ると、足元の魔法陣から一層強い魔力が溢れ出した。

 迸る光と共に、激しい風が吹き荒れ、天から柔らかな光が降り注ぐ。

 その光に体が晒されると、俺の中から力が大量に抜けていくのを感じた。

 同時に何かが入ってくる感覚がある。

 そんな状態がしばらく続いた後、やがて光は俺の中へと収束していき、




 ――その時だった。

 俺には生まれ付き右手の甲に十字の形をした痣があるのだが、それが急に激しく輝き始めた。

 そして――





「神の門を守りし者よ 目覚めよ」






 不意に頭の中に不思議な声が鳴り響く。

 ……なんだ? 魔法剣士になった時はこんな声は聞こえなかったが……。

 次の瞬間――急に激しい痛みが俺の頭を襲い出す。


「うわああああああああああああッ!?」


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