第一話『魔法剣士から門番へ』1
俺とミロは幼馴染みだった。
「リューイ! お互い、世界最強の剣士になろう!」
「ああ、そうだねー……」
「その時はどっちが上か勝負だからな!」
「うん、分かったー……」
「約束だからな! もし約束を破ったら、どこまでも追いかけるからな!?」
しかしそれから間もなく、ミロが人間と悪魔のハーフだったことが明らかになり、ミロはグルニア王国から追放された。
さらにそこから時が過ぎ、俺たちが十八歳になった頃……。
俺とミロはそれぞれ英雄職の《魔法剣士》と《暗黒騎士》になっていた――
俺の名前はリューイ=ネルフィス。
いきなりだが、俺は門番に憧れている。激しく憧れている。
ミロがグルニア王国を追放されてから五年。幼少の頃から友達が極端に少なかった俺は現在ぼっちである。
つまり俺は人の温もりに飢えており、出来れば話し相手くらいは欲しいのだが、今の俺の職業――魔法剣士ではそれが難しい。
そんな折、訪れる町々で旅人たちと楽しげに会話を繰り広げている門番の姿を見ては羨ましく思っていた。
しかも門番は大概二人一組。パートナーと呼べる存在が常に傍らにいる。
たくさんの人と触れ合える上に、パートナーという素晴らしい存在まで得られるなんて、門番とはなんと素晴らしい職業だろうか。
そう、そんなわけで孤独な俺は門番に憧れていた。
なりたいなぁ、門番に……。
――グルアアアアアアアアアアアアアアッ!!
火口にいる火竜が吠えたことにより現実に引き戻される。
……うるさいし……暑いし……もう最悪。はぁ、門番になりたい……。今もドラゴン退治などという面倒事を押し付けられている魔法剣士の俺とはえらい違いだよ……。
火竜は俺の姿を見るなりに炎を吐いてきた。
まともに食らったら骨まで消し炭になりそうな灼熱の業火――
挨拶する暇もくれないなんてせっかち過ぎだろ……俺はため息を吐きながら左手を前に出す。
俺の前に光の壁が出現し、火竜の炎を弾いた。
この世界に精神体として存在する六柱神の一人、マーサ神の力を借りた白魔法だ。
自慢の炎がまったく効かず、見るからに狼狽える火竜。それでも最強種であるドラゴンとしての矜持が許さなかったのか、赤い巨体を揺らしてこちらへと特攻してくる。
出来れば話し合いで解決したかったけど……無理かな……。そもそも言葉も通じなさそうだし……。
仕方なく俺は腰の鞘から剣を引き抜く。
――相手は火竜なので、セオリー通りいくなら弱点は氷だろう。
俺は無詠唱で魔法を使用する。
氷の黒魔法フリーズアローを応用した、魔法剣士のオリジナルスキル、魔法剣フリーズソード。
魔法を使った瞬間、俺の剣に霜が降りていき、絶対零度の剣となる。
今、俺の剣は空気を凍てつかせるようにして青く輝いていた。
俺はその青い剣を構えると、火竜に向かって駆け出す。向こうもこちらに突撃してきているので、その距離は一気に縮まった。
火竜の間合いに入った時、大きな爪を振り上げてくるが……問題ない。
俺はさらに加速すると爪が振り下ろされる前に火竜の懐に入り、飛び上がりざまに氷の剣で斬り付けた。ズバンッと確かな手ごたえがひびき、切り裂かれた火竜の胸が一瞬にして凍りつく。その氷は火竜の体内に入り――
ズズゥゥゥン……。
着地した俺の後ろで火竜が倒れた。
ほどなくして山頂に向かって歩いてくる一団があった。
その先頭にいた中年の男――レーニン将軍は俺の側まで来ると、
「リューイ殿、ご苦労だった」
ザ・言葉だけの労い。そう思うなら少しでも手伝ってくれれば良かったのに……。
千人の兵と共に後方で待機していたレーニン将軍は、火竜退治を俺一人に押しつけて、一切手伝ってくれなかった。
言ってしまえばレーニン将軍はお目付け役である。軍の体裁やら国の面目やらで、俺の監視ついでに派遣されただけに過ぎない。
「しかしさすがはグルニアの英雄と呼ばれるリューイ殿だな。本来だったら手練れのS級冒険者パーティ、もしくは一万の兵を用意して然るべき相手を、たった一人で倒してしまうとは……」
そう言ってレーニン将軍はお世辞と共に笑って見せてきたが、その瞳の奥に俺に対する恐れがあることを見逃していなかった。
「さあ、ドラゴンのアイテム剥ぎ取りは専門家に任せておいて、次の戦場へと急ごう」
次の戦場……ね。まったく気の休まる暇もない……。
戦い終わったばかりの俺を慮ることもなく、レーニン将軍は俺を連れて歩き出す。
門番になりたい――その思いは日に日に強まっていた。
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