第5話 キミ達は?かぁ君のなに?
「えっと、こいつは俺の昔のバイト先の」
「ねぇかぁ君この子達誰?かぁ君の恋人?愛人?友達?不純異性こーゆー?」
「同僚で…………」
「見たところ高校生?中学生?それとも大人っぽい小学生?どれでも危険な香りがするにゃー。あ、けど高校生ならギリセーフ?」
「……………」
「意外だにゃー、女の子にキョーミ全然なさげだったかぁ君が女の子二人を手玉に取って……あ、もしかしてロリっ子が好きだっ」
「やかましいので黙ってくださいますか」
「ハイ」
「二人に自己紹介」
「どーもー猫宮リーファです!かぁ君とは昔バイト先が一緒で、今でも仲良し!よろしくねぇー!」
驚くほどの切り替えの速さで女――リーファは笑顔を振りまき、城ヶ崎達に手を振った。
ドラキュラじみた両側の八重歯がちらりと覗く。
紹介された城ヶ崎達はというと、明らかにリーファの存在感に圧倒されていた。唖然である。
ゴスロリチックな黒基調のファッションに黒髪。そしてそれを映えさせる真っ白な肌。細い手足と小さい顔、均整の取れた目鼻立ち。マスコットみたいな特徴的な高い声。
そして明らかに常人とはズレた空気感が言動から滲み出ている。そして極めつけの名前が〝リーファ〟。
異質。その言葉がこいつ以上に似合う人間を俺は知らない。あとうるさい。
「りー、ふぁさん?」
「ん!かわいーでしょ?リーファって呼んでね♡」
城ヶ崎達の戸惑いの目がこちらに向けられた。
しょうがないか。色々ツッコミどころ満載だし。まずリーファという名前。外国人の血入ってますって顔でもないのに〝リーファ〟なんて、日本で聞き馴染みが無さすぎて初見では本当の名前か疑ってしまう。
「台湾ハーフなんだよ。綺麗の〝麗〟に中華料理の〝華〟で
なので俺が付け加えると、
「ん!なんでいらない補足つけるの!」
不満げに俺の肩を掴んで揺らす。
いらない補足というのは苗字の事だろう。
「じゃあ偽名言うなよ。なんだ猫宮って」
「可愛くないんだもん。鬼の塚なんて可愛さのカケラも無いふざけた苗字嫌いなの。猫宮は猫さんだから可愛いにゃー♡」
なんて物言いだ。全国の鬼塚さんに謝れ。
「そ、そうなんだ」
いきなり偽名を言われた城ヶ崎、引き気味である。凛は諦めたのか何なのか「ほへ〜」なんて間抜けた相槌を打ちながらデザートのモンブランを食べていた。
「それにしてもほんとーに久し振りだにゃあ。んーん、この顔この顔」
「顔を不躾に突くな引っ張るな爪長い痛い」
「このぶっちょ面!これぞかぁ君だよぉ、なっはっは!」
「聞いてないし……」
そして言ってる事も意味不明だし。
これぞ鬼塚リーファ。俺の友人であり独特な自分の世界を持っている奇人。おとぎ話の世界から抜け出してきたんじゃないかと疑ってしまうほどの浮世離れっぷりを見せる宇宙人だ。
性別の関係無くバカップルみたいなムーブをかましてくるのも意図無しの
リーファ曰く、〝過去の経験からくっつく人は選んでる〟らしいが、俺がOKな意味は正直分からん。
「あの」
と、前方から声。
鋭いナイフでも突きつけているかのような冷たい声色。
言ったのは城ヶ崎だった。
声色と同じく顔も険しくなっている。黒いオーラも背後に立ち上っているような気がする。どうした?
「秋春君が嫌がってるから止めてよ」
リーファに向けてのものだろう。初対面でいきなりのタメ口。言動で幼く見えるけどこいつ一応俺と同い年だぞと思ったが、そういえば城ヶ崎って年上だろうが口調も気にしないし物怖じしない性格だったわ。
対してリーファはきょとんと城ヶ崎の方を見て、
「……そういえばキミ達は?かぁ君のなに?」
突如ヒロインを恫喝する悪役令嬢みたいなみたいな事をのたまった。
浮かべてるのは頬笑み。セリフも相まって圧のある笑顔のように映る。というか、多分映っている。
まずいかもと思った時にはすでに遅かった。元来気の強い城ヶ崎の敵対センサーに触れたようで、
「何って、なんなのいきなり」
強い口調で返答。背後の黒いオーラが渦巻いたような気がした。
しかしリーファは俺の隣で小首を傾げ、なおも笑顔。
「どうしたの?言えないような関係なのかにゃぁ?」
「なっ」
「あ、ちなみにあたしはかぁ君の……ふふっ、なんだと思う?」
「…………………………」
不敵な笑みでわざとらしく鼻を鳴らすリーファに、城ヶ崎は完全に戦闘態勢となった。さっきまでふにゃふにゃだった口元はキュッと引き締まり、殺意一歩手前みたいな眼光でリーファを睨みつけている。
そうそうこの子元はこういうやつだったんだよなぁとしみじみ思っている場合じゃなさそう。
「ねぇかぁ君、あの子睨んできて怖いにゃぁ……」
お前の挑発的と思える発言のせいで敵対モードになってんだよ。
しかも今の甘えたように俺に身体を寄せてくるリーファを見てさらに眉間に皺が寄っている。まあこの態度は煽られてると取っても不思議じゃない。
凛は警戒して見つめてるって感じだけど、城ヶ崎の方は完全に喧嘩を売られていると思っているみたいだ。しかも俺を中心とした男女トラブルみたいになっている。
城ヶ崎からしたら、その気も無いのに巻き込まれてムカつくだろうな。まあ全部誤解なんだけど。
「はぁ……………」
「どったのかぁ君?メンタル落下?」
「リーファを人に紹介するのってこんなに大変なんだなって」
「ん?よく分からないけど、ありがと?」
分かってくれ。
「城ヶ崎」
「な、なに?」
意図せずため息混じりになりながら城ヶ崎を呼ぶと、眉間に寄っていた皺が綺麗に取り払われ、笑顔に。切り替えはや。ていうかこの面倒な状況の元凶である俺にはキレて無いのね。
「このリーファとかいう宇宙人の言動は深く考えないでいいよ」
「……え?」
「リーファが笑ってたら敵意は無いから。多分色々勘違いしてると思う」
「どういうこと?」
首を傾げる城ヶ崎。俺は論より証拠と何にも分かっていないであろうリーファに声をかけた。
「リーファ、さっき「かぁ君のなに?」って聞いたのはどういう意図?」
「え?なになに何の質問?どゆことー?」
「はいさっさと答える」
「ハイ!そのまんまどういうご関係ですかって尋ねました!」
「「言えないような関係なの?」って聞いたのは?」
「上手く言い表せないのかなって思って聞きました!」
「はいありがとう」
「わーい良く出来ましたー♪ぱちぱち」
凜から「なにそのノリ」と小声で冷ややかな指摘を受ける。すみません内輪ノリです。
「こういう事。別に変な意図とかないから。リーファの言葉は額面通り受け取ればいいから。言い方がおかしいだけで悪意は一切ないよ。ずけずけと物言うのはデフォだからご愛嬌と言うことでよろしくね」
「そ、そうなんだ……?」
勢いで無理矢理押し込んだ感はあるが、少しは納得してくれたらしい。リーファを見る目から厳しさが減った。
リーファはというと、やっと悪意をぶつけていると誤解されてた事に気づいたらしく「またなんかやっちゃたかにゃー」と苦笑。
「ごめんね、あたし誤解されやすいみたいでにゃー……あっ、ところで結局キミ達とかぁ君は何なの?お友達?ていうかお名前ちょーだい♪」
忘れてた。まだリーファには紹介できてなかったな。
俺は城ヶ崎と凜を軽く紹介。名前、高校三年生である事、妹の友達である事などさらっと伝える。
それに合わせて二人は頭を下げた。
リーファは能天気そうな笑顔のまま「どーもー」と手を振った後反芻するように、
「ふーん、そういえばかぁ君妹ちゃん居るって言ってたね。見た事無いから本当に居るのか疑ってたにゃー」
「なんで嘘言う必要あるんだよ」
「見栄?」
誰に対するなんの見栄だ。
「けどそっかぁー、妹ちゃんの友達……あれ、じゃあ妹ちゃんは?居ないの?」
「なんで?」
「え、だって、仲良いの?」
何が言いたいか分からず一瞬時が止まる。が、すぐに理解。
どうやら妹を挟んでないのに妹の友達と居るのが不自然だと言いたいらしい。「妹の友達と妹無しで会うぐらい仲が良いの?」という事か。リーファにしてはまともな意見である。
確かになぁ。自分でも不思議な状況だと思う。
最初は咲季の悩みを解決するために会っただけだった。しかし色々あって少し話せる程度にはなった。だからと言って遊びに行ったりはしてないし、共通の話題があるわけでもない。関係性を問われたら謎と言う他無いだろう。
そんな事を考えていると、
「仲良いからっ」
抗議するような強い口調で城ヶ崎が立ち上がった。
「仲、良い……よね……?」
と思ったら縋るような弱々しい視線を俺にくれた。
え?仲良いの俺ら?
妙な縁で繋がった特殊な仲ではあるけど、仲良いかと言われたら微妙じゃないか?
……なんて言おうものなら今すぐ泣き出しそうなくらい不安そうにしてたので強めに頷いた。
少なくとも城ヶ崎は仲がいいと思っているのだから、それをわざわざ否定する事もない。俺も仲が悪いとは思っていないし、女子という枠組みの中なら確実に話せる方ではあるからな。
城ヶ崎は俺が頷いたのを捉えた瞬間プレゼントを貰った子供みたいに頬を赤らめてはにかんだ。さながら空間に花でも舞っているみたいだ。
そんなに喜ばれるとこっちが照れ臭くなるんだけど。ちょっと顔熱い。
なんて考えてるとリーファがわざとらしく手で口を覆って、
「あっ、やっぱり不純異性こーゆー!?」
「メイク削ぎ落とすぞ」
「なはは、ごめーん。冗談だにゃー。ちなみに今日はカラコン入れてみたんだけど似合う?赤色可愛いでしょ?」
「あ?」
「ね、どぉかにゃー?」
こいつほんとに話題が無軌道に飛び回るな……。慣れたつもりだったけど、久し振りに話すと戸惑う。
「ねぇ可愛い?可愛い?」
「ドラキュラみたい。ちょっと怖い」
「出たー!かぁ君の塩感想!」
なははは!とまた腕に抱きついてくるリーファ。何がそんなに嬉しいのか分からん。
さすがに何回も抱きつかれるのは恥ずかさの限界なので引き剥がそうとしていると、意外にもすぐに俺の腕から感触が消えた。
城ヶ崎がこちら(通路側)にやって来ていて、リーファを引き剥がしていたのだ。頬をパンパンに膨らませて。
「リーファさんは……秋春君の事、どう思ってるの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます