第346話 神の導き
「面会時間は十分だ。一秒でも過ぎたら電撃で苦しむことになるぞ」
看守に釘を差され俺は面会室に入った。鉄格子で遮断された部屋であり俺は部屋に用意された質素な椅子に座り相手を待った。
少ししていかにも教会の人間が着るようなローブを身にまとった男が入ってきて向かい側の椅子に座った。
「随分と表情が暗いですね」
第一声がそれだった。俺は男を睨めつけ答える。
「こんなところに捕らえられていたらこんな顔にもなるさ」
「なるほど……ところで食事はしっかりと摂っていますか? 栄養をしっかり摂らなければ社会復帰が難しくなりますよ」
「食べてるさ。毎日犬のように這いつくばってな」
昼のことを思い出しながら言った。こんなことは日常茶飯事だった。ここの囚人の多くは看守とグルだ。だから俺に対しても執拗に嫌がらせをしてくる。
「……少々ヤケになってるように思えませんね。いけませんよ自暴自棄になっては」
「そう言われてもな。救いなんてここには何一つない」
「そんなことはありません。神はいつでも貴方を見ています。貴方が日々精進を続けていればきっと神の奇跡が貴方を救いになるでしょう」
「そんなものいつ来るんだ。待っていても何も来やしない」
「待つだけでは駄目です。貴方自信が行動に移さなければいけません」
「俺が行動にか」
「そうです」
「それはいつだ?」
「今すぐにでも――きっと貴方にも出来ることがあるはずです」
その言葉を聞いた時、俺の腹の奥で燃え上がる物を感じた。
「例え世界が絶望に満たされていても、貴方が神に祈り、その身を捧げる覚悟があればきっと奇跡は起こります」
「…………そうか。何となく救われた気がした」
「それは良かった。さてそろそろお時間のようですね。本日も差し入れを持ってきましたので看守からしっかり受け取ってください。それでは貴方に神の思し召しを――」
そして男は面会室を出て俺もその場を後にした。
扉を出ると看守長がそこに立っていた。
「終わったな。しかし教会の連中もお前みたいなゴミに御苦労なことだ。何をしようと結果なんてかわらないのになぁ」
醜悪な笑みを浮かべて看守長が言った。
「社会復帰だとふざけたことを言っていたがお前にそんなものが来ることはない。お前はここで一人惨めに野垂れ死ぬか――俺の拷問に耐えきれず死ぬかどちらかしかねぇんだよ」
看守長が臭い息を吐きかけながらそんなことを宣った。
「差し入れを持ってきたと言っていた」
「あん? あぁこれか」
看守長が一冊の本を取り出して俺に見せつけてくる。
「全く毎回毎回御苦労なことだ。聖書ってやつか。こんなもの渡したところで意味がないだろうに」
「……頂けますか?」
「あん? 何だお前、そんなにこれが欲しいのか?」
「お願い、します」
「フンッ。そうかよ――そういえば便所に言ったら靴に小便が引っかかっちまってなぁ」
そう言って看守長が靴を指さした。
「舐めろ。しっかり舐めてこの靴を綺麗にしろ。そうしたらくれてやるよ」
看守長がそう命じてきた。臭気漂う靴を舐めろと――あぁ、なんだ今更そんなこと。
「おいおい本当に舐めやがったぜ。プライドがねぇのかテメェは!」
俺は舐めた。看守長の汚物に塗れた靴をベロベロと舐め回した。看守長が愉快そうに笑い出す。
「おら! 手伝ってやるよ!」
看守長はもう一方の足で俺の頭を踏みつけ臭い靴に顔を押し付けてくた。不快な笑い声が俺の耳に残る。
「舐めました、だからその本を」
「あん? これか?」
俺が言うと踏みつけていた足が離れた。俺が頭を上げると嫌らしい笑みを浮かべた看守長が本に手をかけ――ビリビリに破いた。
バラバラになったページが宙を待う――
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