第345話 ファイン・シャーズ
side ???
『――判決を言い渡す。被告人ファイン・シャーズを懲役百年の刑に処す。これよりその身は魔導刑務所に収監され……』
現実味のない言葉の羅列が俺の耳に届いていた。だがその頃には既に俺の心は壊れていたのかもしれない。
死ぬまで俺のことを愛してくれた母と父、そして俺を慕い心の拠り所になってくれた最愛の妹――だがあれだけ優しかった愛おしかった家族はもういない。
全て焼けてしまった。俺の目の前で全てが焼け、崩れ、そして灰となった。残されたのは俺をあざ笑うあいつの声だけだった。
そして気がつけば俺は魔導師団に取り押さえられ取り調べを受けていた。見に覚えのない証拠だけが目の前に並べられた。奴らは言った俺が家族を殺したと――ソレを聞いた瞬間俺は反論ではなく反撃した。
感情が爆発した。よりにもよって俺が家族を殺したなどとても受けいられる話ではなかった。だがその事が結果的に俺の状況を悪化させた。俺程度が暴れたところで無駄で返り討ちにあい捕らえられた。だけどもうどうでも良かった。
全てが無駄だった。全てが無意味だった。全てが遅かった。俺は心を捨てた。
そして天涯孤独となった俺は今、魔導刑務所に捕らえられている――
「おいおい、豚が地べたに這いつくばっているぜ」
「そりゃ豚に失礼ってもんだぜ。こいつは蟲だろ? 地べたに這いつくばる害虫だ!」
食堂で俺は他の囚人に足を引っ掛けられ地面を転がる事となった。持っていたトレイも乗っていた昼飯も全てが床にぶちまけられている。
「お前ら何をしている!」
やってきたのはこの刑務所の看守長だった。ズカズカとやってきて床に膝をついた状態の俺を見下ろす。
「また貴様か! 四十四番!」
四十四番は俺がここで付けられた番号だ。刑務所では名前で呼ばれることはない。常に番号で呼ばれる。
「床を汚しおって! さぁさっさとお前の口で処理しろ! 残飯を処理して床を舐めろ!」
叫び俺の体を鞭で打った。俺は痛がるフリをする。最初は死ぬほど痛かった鞭打ちも今ではすっかり慣れてしまった。だが痛いフリでもしてなければ終わらない。
俺は屈辱に耐えた。地べたにぶち撒けられた飯も言われるがまま犬のように食べた。そのまま俺は懲罰房に連れて行かれ看守長のストレスのはけ口にされた。
鞭打ちだけでは済まず熱した鉄棒で殴られ時には魔法の実験台にまでされた。この刑務所に入ってから毎日のように責め苦を味わされた。
「どうだ家族殺しのクソ野郎! お前が燃やした連中はきっともっと熱かっただろうなぁ。苦しかっただろうなぁ。本当に最低なゴミ野郎だ貴様は!」
看守長の言葉を聞いても最早虚無でしかなかった。最初は反論こそしたがもうそんな事はどうでもいい。今の俺はただ耐えるだけだ。
俺は知っている。こんなことを言っているがこいつらは間違いなく真実を知っている。にもかかわらず平気な顔で俺を罵り甚振り悦に浸っているのだと。
あぁ、本当に、本当にここは最低な場所だ。いやここだけじゃない――この世界は最低だ。だからこそ、だからこそ待ち遠しい――
「看守長。四十四番に面会です」
「あん? そんなの追い払っとけ」
「教会からですからそういうわけには……」
面会の知らせに不機嫌となった看守長だったが教会と聞いて顔を曇らせた。
「チッ、それなら仕方ねぇか。だが覚えておけ四十四番! 戻ったらまた躾けてやるからな!」
そして俺は一時的に懲罰房から解放された。もっとも首輪と手枷足枷はそのままだ。首輪も枷も特殊な術式が施されていて看守に逆らうと電撃が流れる。
もっとも逆らわなくても躾という名目で看守も看守長も自由に電撃を浴びせる事ができる。これまで何度電撃を喰らったかもう覚えていない。
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