第343話 魔力0の大賢者、師匠が知る先生の過去を聞く

「ま、代わりといっちゃなんだけどこの師匠が話を聞いてあげようじゃないか♪」

 

 師匠が僕の首に腕を回しながら答えた。イロリ先生について師匠は何か知っているのかもしれない。


 師匠は今は学園の教師の一人だからね。本校舎でも教鞭を取っているしその過程で話を聞くことも多いのかもしれないよ。


「師匠。それなら教室で」

「いや。とりあえずマゼルの耳にだけ入れておくよ」


 師匠の話を教室で聞こうかと思ったけど、師匠は僕だけが聞いた方がいいと判断したみたいだ。


 師匠がこう言うならきっと何か事情があるんだろうね。


「ごめん。皆少しだけ外すね」

「うん? まぁ自習だからいいんだろうけど、でもよ納得いかないぜ!」

 

 僕が教室の皆に声をかけるとアズールが返事してくれた。その後は皆と先生について話しているんだと思う。とにかく僕は一旦その場を離れて空いている教室で師匠と話すことにした。


「ふふん。やっと師弟水入らず二人きりになれたね」

「師匠。そういう冗談はいいので」

「うんもう。マゼルってばいけずぅ~」


 師匠が口を尖らせた。だけどすぐに表情をもどし真面目な顔で語った。


「私も全てを聞けたわけじゃないけどね。イロリ先生はどうやらかつては生徒想いのいい先生だったようなんだ」

「それは特に不思議にも思わないかな。先生はなんだかんだで僕たちを気にかけてくれてると思うし」


 皆は不満もあるようだけど本質的には良い先生なんだと思うよ。


「フフッ、さすがマゼルだね。ただ前はそれがもっとオープンだった。つまりわかりやすいぐらいに生徒想いだったようなんだ。勿論授業もきっちりこなしていたようだからね」


 授業か……確かに今のところイロリ先生は自習しかしていない。


「確かに話を聞くと雰囲気は今と異なっているように思えますね」

「そうだね。そして勿論それには理由がある」

「理由……ですか?」


 師匠の言葉に思わず僕の耳も反応した。


「そう。それはイロリ先生がZクラス担任になる前、最後に受け持ったクラスと関係あるようでね。マゼルも知っての通りZクラスというのは今年から新設されたクラス。だからその前はFクラスが最底辺のクラスと言われていたようなんだ」


 それで思い出した。入学式でもFクラスの生徒がZクラスの事を知って最低じゃないと安堵していた。それはつまり以前はFクラスが最底辺とされていたからこそ出た言葉だと思う。


「そしてイロリ先生がその時担任を務めたのがFクラスだったようなんだよね」


 イロリ先生が当時のFクラスを――


「まさかその事が原因で?」

「違う違う。何なら当時Fクラスの担任として名のりを上げたのがイロリ先生だったぐらいだからね」

「え? それはつまりイロリ先生が自らということ?」

「そう。どうやらFクラスの担任になることを嫌がる教師が多かったみたいでね。見かねたイロリ先生がFクラスの担任になることを要望してそれが通ったようだね」


 そうなんだ。でも、今の話だとFクラスの担任を引き受けた後Zクラスが新設されるまで担任を受け持たなかったということだよね。一体どうしてなんだろう。


「フフッ。マゼルは疑問に思ってるね。イロリ先生がFクラスを受け持ってからどうして変わってしまった――それには一人の生徒が関係しているようなんだ」


 一人の――生徒……それは一体?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る