第340話 魔力0の大賢者、キャノンに忠告される

「それで僕に一体何の用ですか?」

「ハハッ。そんな顔するなって何も取って食おうってわけじゃないんだからな」


 キャノンが貼り付いたような笑顔で答えた。わざわざ僕を呼ぶような真似をしておいて何もないってことはないだろうね。


「お前、全校集会に出てただろう? なら知ってるはずだ。親睦会のことをな」


 キャノンがじっと僕の顔を見つめながら確認するように言ってきた。確かに親睦会の話は知っている。アズールも張り切っていた。


「勿論知ってるよ。生徒会執行部が特別学区の生徒と魔法戦を。そして一年生は上級生との魔法戦があるってね」

「そのとおりだ。これも誰もがってわけじゃねぇ。成績なんかも考慮して選ばれた一年と三年、それぞれのクラスの代表五人同士で戦うって内容だ」


 それも大体知っていた。だけどわざわざそんなことを確認したいが為にこんな真似はしないだろう。


「それで、何がいいたいんですか?」

「ま、単刀直入に言うとだ、上級生から俺たちのDクラスが出る。だから一年からはお前らが出てこい」

 

 人差し指を突きつけそんなことを要求してきた。全く何かと思えば。


「そんなこと狙って出来るわけがないよ。僕たちが望んだって選ばれるとは限らないんだから」

「冷めてやがるなぁ。こっちはテメェら、いやテメェとやりたくて仕方ねぇってのに。しかも公の場で格の差って奴を見せつけられるんだからな」


 どうやらキャノンは随分と自分の力に自信があるようだね。


「とにかく出ろと言われたからって出れるものじゃないよ」

「出れるさ。俺はこれでもお前の実力を買ってるんだぜ。魔力0にも関わらず魔獣相手に随分と活躍したようだしな。俺はそういう調子に乗ってる奴を相手するのが大好きなんだよ」

「別に調子に乗ってるつもりはないよ」


 全くこのキャノンからは僕がどう見えているんだか。


「――一つだけ心配なのはお前のそういうところなんだよ。お前、まじで親睦会に出ようなんて思ってないだろう? そうやって適当やって逃げられるのが一番腹が立つ」

「僕は自分の出来ることを精一杯やるだけだよ」

「スカしてんじゃねぇぞ一年坊主が」


 キャノンの顔つきが変わった。僕に対して随分と威圧を掛けてきている。


「いいかガキ。俺はお前に出ろって言ってんだ。だったら意地でも出ろや。そうでなきゃ――例えばうちには血の気の多い連中がいるからな。大切なお仲間がどうなるか」

「仲間が――何だって?」

「…………」


 思わず僕も圧を込めてしまった。キャノンが口を噤む。


「くくっ、なるほどなるほど。お前も随分と自分の力に自信があるようだな。だがな、例えばお前は一人で一体どれだけ守れる? 一人か? 二人か? お前がいくら強がろうが所詮は一人だ。限度があるだろう?」

 

 つまり、僕の目の届かないところでどうなるかわからないと暗に脅迫してきているわけか。


「どうだ? なぁ答えてみろ」

「一人でも出来ることはあるよ」

「――ッ!?」


 キャノンが目を見開いた。僕が背後にも現れたから驚いたようだね。


「こっちにもいるよ」

「こっちもね」

「何!?」


 キャノンの両隣にも僕がいる。その事に戸惑っているようだ。


「くくっ、ははなるほど。幻影魔法か。だが所詮は幻影だろうが」

「…………」


 僕は特に何も答えなかった。するとキャノンが僕の一人に手を伸ばしたからそれを払い除けてやった。


「なるほど。いつの間にこっちに移動していたわけか。だがそれならこっちがにせも――」


 別な僕にも手を伸ばしてきたからそれも払い除ける。更にキャノンは残りの僕にも触れようとしたけど全部払い除けた。


「――全部が実体だと? ハッ、まさか魔力もないテメェがこんな魔法までつかえるとは驚きだぜ」


 キャノンがそう言って楽しそうに笑っていた。まぁ実際は超高速で動いて全て実体のように勘違いさせたってだけで魔法ではないけど。


「いいもんを見せてもらったよ。だけどなマゼル、俺には知り合いが多い。でだ、この実体はどこまで対応出来る? 例えばお前の故郷で何かあったとしても対応できんのかぁ?」

「――お前」

「おっとそんな顔するなって。例えだよあくまでな。お前は敵が多そうだからな。あまり調子に乗ってるとそういうこともあるぞと先輩として忠告してやっただけだぜ?」

「…………」

「それとも今すぐやるか? もっとも俺はただお前と話しているだけだが、そんな俺を魔法でぶっとばすかぁ?」

 

 ベロを出して挑発混じりに言ってきた。これに乗ったら――僕の負けだ。


「ま、よく考えることだな。俺はお前と魔法戦が出来ればそれでいいんだからな」

「――そう。さっきもいったけど僕は自分の出来ることを精一杯やるだけだよ。ただ、何度も言ってると思うけど――仲間や家族に手を出したら絶対に許さない」

「……だったら精々頑張るこったな。親睦会でテメェと戦えるのを今から愉しみにしてるぜ」


 そう言ってキャノンが手をヒラヒラさせて去っていった。僕の気持ちは変わらない。手抜きするつもりもないよ。


 ただ、キャノンがそもそも出れるんだろうか。絶対に出るとかいっていたけどそこまで断言出来るほど魔法の腕に覚えがあるのか。


 とにかく、話も終わったし僕は皆の下へ戻った――

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