第334話 スーメリアに責任は?

side リカルド

 

「やぁ。来ちゃった♪」

 

 書類仕事をしていると不躾にスーメリアが部屋に入ってきた。全く約束もなく来るなと散々言っているつもりなんだがな。


「……やれやれ。せめてノックぐらいはしてもらいたいものですな」

「ほ~い」


 室内に入ってからスーメリアがトントンとノックしてみせた。こいつは私が理事長であることなど全く意に介していないのだから困る。


「それで? 一体何の要件かな? こうみえて私も忙しいのでね。手短に頼むよ」

「いやいや、大したことないんだけど、私には何もなかったのかなって思ってねぇ」

「何も?」

「遊園地の件♪」

「あぁ、なるほど」


 それで得心が言った。スーメリアがあの魔獣騒動の際に現場にいたことは知っている。本人に聞いても隠す様子も見せずハッキリ答えていたからな。


「何でもZクラスにだけ反省文を命じたらしいね。私も書こうか? 一万枚でも十万枚でもいいよん」


 そう言いながら、スーメリアがどこからともなく取り出した紙をバラ撒いてみせた。全く部屋が散らかるから止めて貰いたいな。


「そんなもの必要ありませんよ」

「はは。随分と優しいねぇ。てっきり管理不行届ぐらい言われるかと思ったのに」


 エルフの癖にそういう言葉は知ってるんだな。もっともそういう話もあるにはあった。だが――


「勿論生徒を止めなかったことは反省して欲しいところですが、結果的に貴方のおかげで密輸の証拠が掴めたのですからね。功績のほうが大きい」

「それを言ったらZクラスも同じじゃないかな~?」

「未熟な生徒と千年を超える年月を生きている貴方とを同列には扱えませんよ」

「嫌だなぁ。私は気持ち的にはまだまだ十代のつもりなんだぜぃ」


 キランっと瞳を光らせながらスーメリアが答えた。本当にこのエルフは飄々としていて掴みどころがない。


「とにかく貴方のおかげであの動物園の闇を暴けた。元園長も逮捕されこれで一安心でしょう」

「そう、ただね。まだ気になる点があるんだよね」

「気になる点?」

「そ。あのリストに載っていた魔獣はどれも危険な魔獣として知られていたようだけど、その中ではランクの低いタイプばかりだったんだよねぇ。唯一エンペラーコングだけはパワーだけならBランクぐらいはありそうだけどね」


 こいつ急に真剣な目つきで――


「そんなのはたまたまでしょう。そもそもそんな危険な魔獣がホイホイ取引きされるわけもない。それにランクが低いとは言え捕まった魔獣が危険な代物であることには変わりないのですからな」

「う~ん、そうなんだけど実はちょっと前に小耳に挟んだ話でね。かなり厄介な魔獣や竜が行方知れずになっていると言うんだ。今回の件と何か関係があるのかなと思ってたりするんだけどね」

「……なるほど。それでですか。しかし驚きましたな。最近のエルフはそんな探偵みたいな真似もされるのですね」

「まぁね。趣味みたいなものだよ。最近推理物にも興味が出ているからね」

 

 推理物ね。そういえば作家だったなこの女は。


「それは結構。ですが今の貴方は学園の教師でもあるのですからそちらを優先させて欲しいものです」

「はは、それは勿論さぁ」

「それなら良かった。どちらにしても私には関係のない話ですよ」

「そう? 学園都市の長なのだから何かしら知ってればなと思ったんだけどねぇ」

「確かにこの学園都市を預かる身ではありますがね。だからこそこれ以上犯罪は増えてほしくないとは願ってますが、それとこれとは別の話でしょう」


 視線をスーメリアに向けながらそう説明した。この女が何故そんなことに興味を持ったのか気になるところではあるがな。


「そうか残念。もっと小説のネタになりそうな話が聞けると思ったのにねぇ」

「それはお役に立てず申し訳ない」

「う~ん残念。今書いているのはルドランも一緒に扱おうと思っていたんだけどね」


 ルドラン――


「伝説の破壊竜ルドランですか。しかし推理小説で扱うには随分とファンタジックすぎるのでは?」

「うん? 破壊竜?」

「おや? 題材にしようとしているのにご存知ないのですか? ルドランは恐ろしい破壊竜で、何でもかつてはゼロの大賢者も苦戦した相手とか。国の一つ二つ破壊したという話もあります。故に破壊竜として知られているのです。ま、大賢者が出ている以上は所詮おとぎ話の類と思いますが」

「へぇ――今はそういうことになってるんだねぇ。はは、おかしいねぇ」


 スーメリアがくすくすと笑っていた。何がそんなにおかしいのか私にはわからんがな。


「そろそろいいですかな? さっきも話しましたが仕事が溜まってるんですよ」

「あははごめんね。お詫びに歌でも一曲歌おうかな」

「結構です。それよりもバラまいた紙はしっかり片付けていって欲しいですな」

「ちぇ~」


 唇を尖らせながらスーメリアが紙を回収していた。


「でも、忙しいって一体何がそんなに忙しいんだい?」

「色々ありますがね、取り急ぎ週末の全校集会と親睦会についてですな」

「へぇそんなのあるんだねぇ」

「資料はとっくに渡しておいた筈ですよ。見てないのですかな?」

「あぁそうだったっけ? めんごめんご後で見ておくよ」

「そうしてください。そういえば貴方はZクラスにも目をかけていましたが、今回のことは多少は関係あるかも知れないですからね」

「へぇ……それは面白そうだねぇ。期待しちゃおっかな♪」


 そこまで話してスーメリアがやっと部屋から出ていった。しかし魔獣と竜か……面倒な真似をしなければいいのだがな――

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