第330話 キャノンとイロリ
sideイロリ
本当に調子が狂うぜ。Zクラスの連中もそうだがマゼルが特にそうだ。あれだけ皮肉を込めて言ってやったのに全く意に介していない。それどころかまだ俺に期待している節がある。
――マゼルを見ていると何故かあいつを思い出す。そして同時に想起する。結局何も出来なかったクソ野郎な俺を――
「よぉ先生。久しぶりだな」
物思いに耽っているところに異音が聞こえた。聞きたくもない声だった。大柄なそいつはニタニタとした顔で取り巻きと一緒に俺の正面に立っていた。
俺が一番見たくない顔だ。無視を決め込んで横を通り過ぎようと思ったが奴がグイッと俺の肩を掴んだ。
「離せよ」
肩を掴んでいた手を振りほどこうと思ったが、この馬鹿力が――
「そう邪険にすんなって。知らない仲じゃないだろう? 昔随分と世話になったしなぁ」
その言葉で自然と拳に力が入った。
「俺はお前を世話した覚えなんてねぇぞ」
「おもしれぇ冗談だなぁ先生。ま、正確にはお前の教え子に世話になったか」
今の俺はどんな顔をしているだろうか。無視しようと思ったが振り返りキャノンの顔を見る。自然と目が行った。眉間に力が籠もる。
「怖い怖い。悪魔のような形相だな」
俺の肩から手を放しおどけたように言ってきた。その態度にもイラッとさせられる。
「今のあんたはまるで教師に見えないぜ?」
「そうかよ。だったらこれ以上俺に構うな」
「まぁまぁ。で、だ。あんた今はZクラスの担任やってるんだって? 全くあんたも物好きだな。聞いたぜ随分な問題児揃いだそうじゃねぇか」
「……お前には関係ないだろうが」
担任になったことこいつにも知られていたとはな。学園にいれば別におかしな話でもないが。
「あんた前はFクラスの担任だったよなぁ。本当にそういう底辺クラスを受け持つのが好きだなあんたは」
「何だ? そんなくだらない嫌味を言う為だけに俺を引き止めたのか?」
「別にぃ。ただなんとなく思ってな。前みたいに今度はZクラスの生徒を潰すのかと思ってな。あのゴミみたいによぉ」
――ガシャァアアン!
自然と俺の拳が壁に叩きつけられていた。
「お、おいどうなってんだよ。砕けた壁がガラスになってるぞ?」
「こいつ、今何かしたのか?」
「ははは。やるねぇ。確かあんたは無詠唱で魔法が使えるんだったか。大したもんだ」
「――チッ。始末書物だな。テメェのせいだ。お前なんかに構っていても碌なことがねぇ」
そう言って俺は踵を返した。下手な挑発に乗っちまった。流石にこれ以上は不味い。俺自身何をしでかすかわからないが、そうなったらこいつの思うつぼだ。
「あんたのクラスにマゼルってガキがいるだろう」
背中にキャノンの声が突き刺さった。一瞬俺の足が止まった。
「小生意気な後輩だからな。先輩として礼儀を教えてやんねぇといけないと思ってるわけよ。だからよぉ。今度の親睦会は俺たちDクラスが出るぜ」
「――お前らみたいなの生徒会が認めないと思うが、どうでもいい俺には関係のない話だ」
「ははは、そうだろうな。あんたも結局保身が大事ってわけだ」
「好きに言ってろ」
そして今度こそ俺は奴らから離れた――だが、キャノンのせいでまた思い出してしまう。当時Fクラスだったあいつの顔を――
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