第328話 魔力0の大賢者、の責任とは?

「待ってください。マゼルは寧ろ魔獣を捕縛するのに一番貢献したのですよ。それなのに責任って」


「そ、そうです。マゼルくんは何も悪くないと思います!」

「ピィ~!」

「ガウ!」


 リカルドの話に異議を唱えてくれたのはドクトルとアニマだった。それだけでなく皆も不満そうにしている。僕のことで――皆の気持ちが嬉しい。


 だから僕からもしっかり聞かないと。


「教えてください。僕の問題とは?」

「言われないとわからないとはな……まぁいい。これは動物園側から聞いた話だが、マゼルお前はどうやら動物園に来ていた人々に活躍したのは大賢者だと触れ回っていたようだな」

「へ?」


 思わず間の抜けた返事をしてしまった。そして脳裏に浮かんだのはアネの姿だった。そ、そういえばアネがそんなようなことを言っていたような――不味い。口元がひきつるのを感じるよ。


「えっと、それはその……」

「どうやら覚えはあったようだな」


 なんだか冷や汗が吹き出してきたよ。


「全く困ったものだ。ゼロの大賢者など所詮おとぎ話上の話でしかないというのに実在するかのように扱われては迷惑なのだからな」

「だからゼロの大賢者はおとぎ話なんかじゃねぇっていってんだろうが!」

「落ち着いてアズール!」


 リカルドの発言にアズールが食ってかかった。大賢者のことを言われると黙ってられないみたい。僕としては複雑な気持ちだけどね。


「大賢者に憧れているんだったか。まだそんな夢みたいなことを言っているのか?」

「何度でも言ってやる! 俺はあのゼロの大賢者を……」


 そこまで言ったアズールが何故か僕をちらっと見て一瞬黙ったんだけど――


「こ、こえるおとこだ」

「勢いがなくなったな」

「まぁすぐ近くに再来と言われてる存在がいればね」


 ガロンとメドーサからツッコミが入ってたけど、え? もしかして僕のせい!?


「とにかく大賢者を侮辱する発言は理事長と言えど許さねぇ」

「……勘違いするな。別におとぎ話で語られる人物像にケチを付けるほど私は暇ではない。それがさも今実在するかのように触れ回られることが迷惑なだけだ。ましてやその対象が我が学園の生徒とあればなおさらだ。わかるかマゼル?」

「……はい。その件については申し訳ありませんでした」

「ちょ! マゼル何謝ってるのよ!」

「でも実際そういう噂が立っちゃったのは事実みたいだからね」


 そこは僕がもっとアネにしっかり言っておくべきだったんだ。反省すべき点だと思う。


「本人が認めているのだからこれでわかっただろう? お前たちが呼ばれたのはそういうことだ。余計な真似をした挙げ句ゼロの大賢者などと誤解させ英雄のように振る舞うなど言語両断だ。本来なら連帯責任で全員退学でもいいぐらいだがな」

「え? 退学って冗談でしょう!」

「……退学――」


 退学の言葉で皆に動揺が走った。シアンも気にしているようだよ。


「――だがお前たちの働きで危険な魔獣が捕らえられたのも確かだ。遊園地側からも随分と感謝されたしな。この学園都市を預かる身として今後の安全管理について考え直す必要はあるが、被害が最小限に抑えられたことについては考慮すべきだろう。よって今回は厳重注意に留めておく」


 それがリカルドの判断だった。確かに退学よりはマシかもしれないけど……。


「今までの話から責任は僕一人にあると思います。皆は関係ない」

「話を聞いていなかったのか? これは連帯責任だ」

「でも――」

「いい加減にしろバカ」


 グイッと肩を掴まれた。振り返るとイロリ先生の顔がそこにあった。


「全く面倒なことばかり言いやがって。厳重注意でいいってんだからそれでいいだろう」

「それでも……」

「お前、まさか一丁前に責任感じてるのか? まぁ迂闊な事をしたのは確かだがな。だからってお前に何が出来る? 所詮お前は一学生に過ぎねぇんだよ」


 イロリ先生が突き放すように言ってきたよ。だけどイロリ先生はきっと僕たちのことを思って――


「お前らもよく聞いておけ。少なくとも今この場においては理事長のリカルドの決定が絶対だ。下手に逆らってもややこしいことになるだけなんだよ。わかったら少しは利口に立ち回れ。とりあえずハイハイ言ってしおらしくしてれば納得するんだからよ」

「イロリ。それを私の前で言うとはお前こそいい性格してるな」


 リカルドが引き攣った笑顔を見せた。ま、まぁ確かにハッキリ言い過ぎだよね。


「はぁ。もういいだろうこれで。こいつらには俺からもしっかり言っておく。あんただって暇じゃないんだろう?」

「……それを決めるのはお前じゃない、が。まぁいいだろう。だが反省文はしっかり全員に書かせろよ」

「へいへい」


 そして結局僕たちは厳重注意と言う形で落ち着きイロリ先生に促され外に理事長室を後にしたんだ――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る