第327話 魔力0の大賢者、が悪いらしい

「これって――空間魔法?」


 リカルドの魔法を見てリミットが呟いた。ただ水を被せるだけなら水魔法の可能性が高いのだけどアズールの頭上の空間が開いたからね。


「ま、私の魔法はこの程度だ。大したことはないがね」

「大したことないって……空間魔法なんてそうそう使える人はいないだろうに」


 ドクトルも驚いていた。空間魔法はそれだけ難しい魔法ってことなんだよね。


「そうか? マゼルなら簡単に使えるんだろう?」

「え? いや、はは――」


 アズールが僕に聞いてきたけど返答に困るよ。僕がやってるのは物理的に空間を破壊して物を中に入れたりしているだけで高度な魔法とは別物だからね。


「最近は収納系の魔導具も小型化していて便利と聞く」


 ふとリカルドがそんなことを言った。えっとどうして突然そんな事?


「……マゼルがそれを使っているとでもいいたいのかな?」

「ま、マゼルくんはそんな姑息な真似しませんよ!」


 ガロンがムッとした顔でリカルドに聞いていた。アニマも僕を擁護する発言をしてくれている。


 そうかリカルドはそういう意味で言っていたのか。


「私はそういう魔導具があると言っただけだ。マゼルがそうだとは言わないさ」


 リカルドが答える。僕を名指しされたわけではないのは確かだからこっちも強くは言えないよ。何より魔法じゃないのは確かだからね……。


「おいあんた一応は俺らの担任なんだろう。何か言うこと無いのかよ!」


 アズールがイロリ先生に詰め寄った。見るとイロリ先生は欠伸をしながら耳の穴を穿っていたよ。


「いちいち俺を頼るな」

「全く。本当にやる気がないなお前は。だがアズールの言う通り担任はイロリお前だ。今回は運良く大事にならずに済んだがしっかり教育はしてもらわないとな」


 リカルドの厳しい視線がイロリ先生に向けられた。


「それはすみませんでしたね。お前らも覚えておけよ。理事長の言うように目の前で困ってる人がいようと、他に誰も助けられそうなのがいなくても、下手に手出しせず無視しておくのが正解ってことだ」

 

 イロリ先生の皮肉めいた答えにリカルドの眉がピクリと反応したよ。


「そんなことは言っていない。未熟な生徒が自分の力を過信して無理をすれば取り返しのつかないことにもなる。今回はたまたま上手くいっただけかも知れないが今後のことを考えて行動しろということだ」

「だ、そうだ。理事長のありがたいお言葉だしっかり心に刻んでこれからは上手く立ち回れよ」


 イロリ先生が僕たちに向けて言った。ただイロリ先生もリカルドの言葉を本気で受け止めていない気がするよ。


「ねぇ、思ったんだけどなんで呼ばれてるの私だけなのよ」


 ふとメドーサが不満そうに口にした。それは、言っている意味はわからなくもないんだけど……。


「メドーサ。そのことは敢えて触れなくても」


 ドクトルが困った顔でメドーサに伝えていた。だけどメドーサは納得いってないみたいだよ。


「えぇ? なんでよ。あの場には他のクラスの子もいたのに私たちだけって納得いかないじゃない」

「ま、言いたいことはわかるがな」


 ドクトルが答えた。どうやらメドーサの言いたいことを察したようだね。


「確かに遊園地には他のクラスの生徒や特別学区の生徒もいたことを把握している。お前らと一緒になって行動していたこともな。それでもお前たちが呼ばれたのは、ま、はっきりといえばとばっちりだな」

「は? とばっちり? 何だよそれ」


 アズールもイラッとした様子を見せているよ。また発火しないか心配ではあるけど……。


「私が今回一番問題視しているのはマゼル、お前だからだ。だから連帯責任としてZクラスのお前たちを呼んだ。そういうことだ」


 それがリカルドの答えだった。矛先が完全に僕に向いたようだね――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る