第321話 魔力0の大賢者、遊園地で称賛を受ける

「それじゃあ檻の中に入ってもらえる?」

「ウホッ!」

 

 魔獣騒動も収まり、エンペラーコングもすっかり大人しくなった。そこで僕がお願いすると素直にエンペラーコングが檻の中に入ってくれたよ。


「アイラの魔法のおかげで助かったよ」

「これぐらいお安い御用」


 エンペラーコングが入るぐらいの大きな檻はアイラに錬金してもらった。その分の素材が必要だったけどそれは動物園で壊れていた檻などを利用して作ってもらいエンペラーコングに入ってもらったわけだ。


「それにしても何でこいつラーサを攫ったんだ?」

「ウホッ――」

 

 モブマンの質問が理解しているのかわからないけど、檻の中でエンペラーコングがモジモジしていた。なんとなく話していてわかったけど、どうやらラーサに一目惚れしてしまったらしいんだよね。


「――なるほどね」

「何がなるほどねなのですか?」


 アイラが一人頷くとラーサが小首をかしげていたよ。ま、まぁ本人が気づいていないなら敢えて言う必要はないよね。


「ふぅ。しかし俺らが苦労した魔獣もマゼルならあっさりか」

「もう何があっても驚かないけどね」

「私たちがいなくてもなんとかなったとか?」


 合流したクラスメートが苦笑しながらそう言っていた。でもそんなことは絶対ないよ。


「僕一人で出来ることなんて限界があるし、皆がいたからこそ被害を最小限に食い止められたと思ってるよ。この魔獣の為の檻もアイラのおかげで作れたし。これだけの魔獣を捕まえられたのも皆のおかげだよ」

「ありえるわね! 皆自信をもっていいと思いますわ。でもマゼルの力が凄いのもありえるわ!」

「ちゅ~♪」


 アリエルがフォローするように言ってくれた。最後は僕についても触れていて照れるけどね。

 

 ファンファンも嬉しそうにアリエルの肩の上で鳴いているよ。


「おいいたぞ!」

「こっちよ!」

「急げ急げ!」


 その時だった。周囲から大勢の声が聞こえてきて多くの人が僕たちの周りに集まってきたんだ。


「ちょ、一体なんですの?」

「まさか何か怒らせることをしたとか?」

「まさかそんな事ありえないのだよ」

「そ、そうです。けど、もしかしたら気づかないうちにッ!?」


 特別学区の生徒たちも急な出来事に戸惑っている。それにしても一体どうしたのかな?


「お前ら――」


 すると屈強な男性が一人前に出てきた。格好からみて動物園の飼育員だと思うけど、ハッ! まさか大人しくさせる為とはいえ魔獣に手を出したから怒ってるとか!?


「お前ら、本当にぃぃいいぃぃいいい! ありがとーーーーーーーーーーうなッ!」

「へ?」


 だけど僕の予想とは裏腹に帰ってきたのは感謝の言葉だった。そして飼育員の言葉を皮切りに周囲からも声が上がり拍手してくれる人たちもいた。


「本当に凄かったわよあなた達」

「子どもたちが助かったのも皆のおかげです」

「お前たち魔法学園の生徒だろう? やっぱ学園の生徒はすげぇよな!」

「あのね。そこのお兄ちゃんが私の怪我を治してくれたの」


 集まった人々から称賛の言葉を受けて皆どこか照れくさそうにしているよ。


「うちなんてたまたま一緒におっただけなんやけどなぁ」

「そんなことはありえない! マネリアのおかげで私も助かったのは十分ありえます!」

「なんかちょっと照れくさいな」

「ですがモブマン。こういうのも悪くないですね」


 うん。確かにそうだね。とにかく無事解決できてよかったよ。


「あの、貴方が大賢者マゼル様ですか?」

「へ?」


 その時子どもを連れた女性に声を掛けられた。えっと初対面だと思うけど何故か僕のことを知ってる?


「蜘蛛のお姉ちゃんがいってたの! 凄いのは大賢者様だって!」

「えぇぇええ!」


 女の子の話に驚いて僕がアネを見ると、ラーサの肩の上で得意気にしていた。うぅ、一体何を言って回ったのか……。


「どうやら無事解決したみたいだねぇ」

「あ、ししょ、いや、スーメリア先生」


 集まった人たちとの話もおちついてきたところで師匠が戻ってきた。


「解決したみたいではありません。先生こそ一体どちらに言っていたのですか? こっちは大変だったのですよ」


 師匠に向けて声を上げたのはイスナだった。その後ろでクイスが顔をひきつらせている。


「お嬢様。相手は先生なのですから」

「でも、同時に私たちと同じエルフなのですから。戦う力はあるはずですよね?」


 ジッと師匠を見るイスナ。まぁ確かに師匠の強さは僕が一番理解しているけどね。ただ、なんとなく師匠は他に目的があったんじゃないかって思ってるのだけど。


「ま、私には私でやることがあったってことさぁ。それに君たちの力を信じてたしね」


 ウィンクを決めてキラキラしたエフェクトを精霊にださせる師匠。う~ん本当にいつでもマイペースだね。


「で、そのやることってなんだったんだよ」

「あ、アズールももっと丁重な聞き方のほうがぁ」

 

 ぶっきらぼうに問いかけるアズールにアニマが慌てていた。師匠はそういうの気にしないし大丈夫だけどね。


「そうだったね。実はこの動物園の園長が捕まってね。ま、違法な魔獣を闇で取り引きしていたから当然だけどねぇ」

「え? えぇえええぇえええぇえ!」


 師匠の話に僕は驚いた。でも、そうなると師匠はここの園長の不正を暴くために動いていたってことなのかな――


 

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