第320話 ほくそ笑む園長
side 園長
「園長! なんと全ての魔獣が確保されました!」
「何!? 本当か!」
「はい! どうやら魔法学園の生徒たちが頑張ってくれたようで建物などに被害もありけが人も出ましたが死者は――0です!」
職員が私にそんな報告をしてきた。はは、これはついてる。まさか学園の生徒とやらがそこまで出来るとはな。
いざとなったらその生徒どもに責任を取らせようと思ったが、予想外に良い働きをしてくれたようだ。
勿論全く被害がでなかったわけではないが、職員の話を聞く限りまだリカバリーが可能な範囲だ。そうだどうせなら学園の生徒を逆に利用してしまおう。
「よし! その生徒たちを全員集めろ。私自ら面会し今後について話し合う必要がある!」
「おっとそれはちょっと待って欲しいかな~」
「は?」
私が職員に命じるとほぼ同時に見知らぬ女の声が部屋に響き渡った。見るといつの間にか奇妙な出で立ちの女がソファに座り茶を啜っていた。
「な! 誰だ貴様は! 勝手に部屋に入るなど!」
「いやいや一応ノックはしたつもりだよ。話に夢中で耳には届いてなかったようだけどねぇ」
奇妙な出で立ちの女がそんなことを言った。ノックだと? クッ、それどころじゃないと確かに耳にはいってなかった。
しかしこの女、よく見るとあの耳、さてはエルフか? それに出で立ちこそ滑稽だが見た目で言えばかなりの上玉だ。
はは、これはラッキーだ。一体何しに来たかしらないが、これだけのエルフなら裏で高値で売れる。今回の魔獣騒動でそれなりに金も掛かるだろうが、これだけのエルフを売り飛ばせば赤字どころかむしろプラスに働くことだろう。
「これはこれは失礼した。しかしわざわざこんな場所まで来るとはもしかして私のファンかね?」
「はは。寝言は寝てから言ってほしいものだね」
乾いた笑顔でエルフがそんな事を言った。なんだこいつ。小生意気な女だ。エルフには無駄にプライドが高い連中も多いと聞いたがこいつもその口か。
「私はお前などしらないよ。ただ前の園長とは顔見知りでね」
「は? 前の園長、だと?」
「そうだ。この動物園も彼が経営していた頃は良い場所だったよ。彼の経営理念には共感出来る物もあったからね。だからこそ私もこの動物園を当時は支援したんだ」
支援だと? 前の園長と顔なじみで支援者、しかもエルフ? まさか!
「そういえば聞いたことが――まさか貴方が冒険作家としても名高いスーメリア?」
「へぇ。一応私のこと知ってはいるんだねぇ」
そうだ。かつての園長が誇らしげに言っていたのを聞いたことがある。この動物園でユニコーンなどを扱えるようになったのは一人のエルフの協力があったからだと。しかもそのエルフが今では名のしれた冒険作家であるスーメリアなんだと。
くそ! なんてことだ。ただのエルフなら適当に言いくるめて捕まえ奴隷として売り飛ばせばいいだけの話だったが、そこまで有名な相手ならそうもいかない。
いや、でも待てよ。当時それだけの支援をした女だ。しかも今でも冒険作家として活躍している。ということは金もたんまり持っていることだろう。これは上手くやれば更に金を引き出せるかも知れない。
「勿論ご存じですとも。この動物園が有名になれたのも貴方のお力添えがあったからこそ。そこで一つお願いあるのです」
「お願い?」
「はい。見ての通り我が園では一人の職員のミスが原因で魔獣が檻から逃げ出し、それなりの被害が出てしまいました。魔法学園の生徒が頑張ってくれたおかげで被害者こそ少なく済んだようですがその分だけでも結構な金額になってしまいます。そこで! どうか再びこの園を守るために援助していただけると」
「援助? あっはっは! これは面白い、いや笑えない冗談か――」
「え?」
スーメリアが私の言葉に冷笑を浮かべた。氷のように冷たい瞳が私に向けられる。くっ、エルフ風情が生意気な。
「私たちエルフはさ。人間のように金には執着しない。作家として活動してから確かに稼げるようにはなったけど使い道に困るぐらいさ」
「え? いやそれであれば是非とも――」
「だけどさぁ。そんなエルフでも金をドブに捨てるような真似はしたくないのさ。前の園長のようにしっかりとした考えを持った人間であればいくらでも援助しようと思えるけど――お前は別だ。そもそも今回逃げ出した魔獣を貴様は一体どこから手に入れた? 中には取引の禁じられた魔獣もいたはずだろう?」
突如、部屋の空気が重苦しくなり私の背中にもプレッシャーが伸し掛かった。こいつは、ヤバい! 私の本能がそれを告げている!
「ま、魔獣はうちの職員が勝手にやったことだ。私は何も知らなかった!」
「はい嘘。お前はエルフを舐めているのか? 私たちエルフは精霊と共に過ごす。そして精霊に嘘は通用しない」
鋭い視線を向けてくる。エルフに嘘は通じない、だと?
「それに魔獣だけじゃない。この動物園に前は沢山いたユニコーンの数も目に見えて減っていた。では減ったユニコーンはどこにいった?」
「し、知らん!」
「それも嘘だ。いい加減無駄な悪あがきは止めなよ。こっちも大体の調べはついているんだ。お前、貴重な霊獣も裏でオークションに掛けていたな?」
「グッ!」
馬鹿な! この女エルフ一体どこまで掴んでいるのだ!
「どうやら新しい園長は私が知っている園長と違って理念も信念も持ち合わせていないようだね。自己の利益しか求めずそればかりか金儲けの為ならば平気で罪も犯す。そんな相手に容赦はいらないね」
「……何だ。私を脅すつもりか?」
「脅す? ははお前みたいな人間相手にそんなマネ必要ないさ。ただ契約は守ってもらうよ。実は前の園長には私が支援する代わりに一つの約束事をしていてね。私の口添えでこの動物園にも霊獣を預かってもらったのもその約束事があったからだ。だがお前の行為はこの約束に反する。よって預けていた霊獣の返還、及び違約金の支払いを要求するよ」
「は?」
何だこいつは何を言っている? 約束事だと? そんなもの知るか! 前の園長はそんな事何も言ってなかったぞ。
糞! こんなことならあいつをやる前にもっと色々この園のことを聞いておくべきだったか。
「……私はそんな話は聞いていない。大体書面に残っているのか?」
「いや。エルフの約束は信頼で成り立っているからね。わざわざ書面なんかで取り交わしたりしないよ」
書面に残っていないだと? なんだそうか。だったら何の問題もない。効力だって無い。私は一切そんなこと知らされていないのだからな。
「話にならないな。書面に残っていないならそんなものは無効だ!」
「へぇ――つまり私との約束を反故にするということだね?」
「知ったことか。大体約束事の証拠もない。さては貴様、私を脅して金でもせびるつもりだったか? とんでもない女だ。逆に訴えてやる!」
「金をせびる? 話を聞いてなかったのかい。私たちはお金に執着がない。だからそんなことの為にわざわざやってこないさ。だけどね約束を破り好き勝手やらかす人間にも甘くはない。一応確認だけど本当に約束を守るきはないんだな?」
「クドい!」
「そうか。精々後悔しないようにね。確かに書面などで約束はしていない。だけど精霊も見ている中での約束だった。それを破るということはどういうことか――」
「く、くだらん! そんな脅しなど――ヒッ! な、なんだ、私の体が燃えて、ひぃいぃぃいっぃい!」
「え? 園長どうされたのですか!」
ずっとそばで静観していた職員が驚愕していた。な、なにがどうされただ! 私が燃えているのがわからないのか! ヒィ! 熱い熱い熱い熱い!
「ギャァアアアァアアァアア! き、貴様何をぼ~ッと、熱い熱い! 早く何とかしろぉおぉおぉお!」
「そ、そう言われても一体園長がなぜそこまで熱がっているのかわかりません」
何を言っている? 私の全身が火に包まれているというのにわからないだと? ア、アチィイイイィィィィイィイイ!」
「無駄さ。それは普通の人間には見えない裁きの炎。前の園長との約束事は他の園長であったとしても効果は続く。もとからそういう契約だ。しかも精霊を交えてのね。ゆえの罰さ」
「ひぃいぃい! こんな、こんな! わかった! 返す! 金も支払う! だから許してくれぇええぇえ!」
「あぁそれならもういいさ。私はもうお前を信用していないしね♪ それに――この通り裏の取引記録は既に手に入れている」
そう言ってエルフが紙束を取り出した。こ、こいついつの間に!
「とは言えだ。多少は温情を与えなくもない。そこで質問だ。この魔獣を扱った取り引き、裏で糸を引いていたのは誰だい?」
「し、知らん! さっきから言ってるだろう! 話はうちの職員が持ってき、ひぃいぃいい。あいつがあいつが持ってきたぁああぁあ! だがそいつとは連絡がついてないひぎぃぃぃいいぃい!」
「……それってもしかしてこの男かい?」
「そ、そいつだ! その絵の男だぁああぁああ!」
「なるほど。了解。それで始末されたってところか。全くご丁寧に精霊も近づけないような処理をしていてしたたかな奴もいたものだね――ま、いいや。とりあえずこれは貰っていくよ」
「ま、まて! この炎は、あ、あちぃっぃいい!」
「はは。大丈夫それはあくまでお前を苦しめるための物だ。死にはしないよ。あぁそれと学園都市の魔導師団にはしっかり報告しておいたから直にお前を捕らえにやってくると思うよ。じゃあね愚か者さん♪」
そう言って掌をヒラヒラさせながら女エルフが去っていった。そ、そんな、この熱と痛みが続くだと、しかも、捕まる? この私が? ひ、ひぃぃぃいぃいい! く、くそ! くそがぁあああぁあああぁあッ!
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