第318話 美少女と魔獣
僕は急いで遊園地方面に向かった。遊園地には大きな時計台が設置されている。どうやら魔獣はそっちに向かったようだ。
「お、おい今の何だ!」
「巨大なゴリラが駆け抜けていったぞ!」
「何か美少女を捕まえていなかった?」
「もしかして魔獣か?」
「嫌だこわ~い」
そんな声が周囲から聞こえてくるよ。やっぱりこっちに来ていたんだね。
「主様に限って大丈夫だとは思うけど、ラーサを捕まえたエンペラーコングは怪力だけは相当なものさ。気をつけてね」
「うん。ありがとうアネ」
そして僕は時計台のある場所までたどり着いた。
『ヴォォオオォォオォォオォォォォッォオオォオ!』
エンペラーコングが時計台の頂上で雄叫びを上げていた。ラーサを右手に掴みながら左手で胸をドンドン叩いている。
「ラーサ!」
「お兄様!」
僕が呼びかけるとラーサが反応した。巨大な拳に握られていはいるけど特に怪我はないようだ。ただエンペラーコングは興奮状態にある。
いつどうなるかわからない以上このまま放ってはおけない。
「この! 離しなさい!」
『ヴォォオオオォォオオオ!』
ラーサが藻掻くもエンペラーコングが雄叫びを上げ、更に興奮しているようだ。
「ラーサを離せ!」
僕は地上からエンペラーコングに向けて拳を振るった。エンペラーコングの右腕が弾かれ、その拍子でラーサが手放され宙を舞った。
「キャアァアアッ!」
悲鳴を上げてラーサが落下してくる。だけど僕は地面を蹴って跳躍し落ちて来たラーサを空中で抱き止めた。
「お兄様!」
ラーサが僕にしがみついてきた。なんだかちょっと照れくさい。とは言えこの後のこともある。
僕はそのまま空中を蹴りながら疾駆して広場に着地した。エンペラーコングが現れた影響で人々が避難しここには誰もいない。
『ヴォオォォォォォオオオ!』
僕が着地するのに合わせてエンペラーコングも時計台から飛び降りて追ってきた。ここまで計算通りだ。時計台の上で相手していたら建物にも少なからず影響が出てしまうからね。
ここならエンペラーコングが追ってきても十分相手できるスペースがある。
「あとは僕に任せて」
「お、お兄様――」
「そんな心配しなくても大丈夫さね。主様は無敵だよ!」
そう言ってアネがラーサの肩に飛び移った。僕が戦いやすいようにと考えてくれたようだね。
「お兄様お気をつけて!」
「うん。ありがとう」
ラーサに距離を取ってもらい僕はエンペラーコングと相対した。
『ヴォオォオォォオォォオォオォオオ!』
エンペラーコングが両手で胸を激しく叩き出した。その衝撃で空気がビリビリと震え地面も揺れているよ。
「主様気をつけて! あのエンペラーコングはあぁやって胸を叩いてテンションを上げパワーが増すんだ」
アネが教えてくれた。僕もエンペラーコングは相手したことがなかったからね。貴重な情報だよ。
胸を叩き終えたエンペラーコングからはシュ~シュ~と湯気が上がっていた。体温も上昇しているようだね。消費エネルギーが激しくなってそうだけどその分パワーも上がっているということか。
『ヴォオオォオオォォォオオ!』
エンペラーコングが僕に向けて猛ダッシュしてきて拳を振るってきた。だったら僕もそれに拳で応じてあげるよ!
そしてエンペラーコングの拳と僕の拳がぶつかりあった。途端にグチャッという音がし――
『ヴギャァアアアアアァアァアア!』
エンペラーコングが悲鳴を上げて地面に倒れゴロゴロと転げ回った。腕を押さえて涙も流している。えっと――
「こりゃ腕が粉砕されたね。そりゃそうさ。魔法で強化した主様の拳をもろに受けたんだからね」
「流石ですお兄様!」
アネが当然だと言い放ち、ラーサも目を輝かせていた。ただ、魔法は使ってないからね。純粋な
とにかくこれで決着がついた。ただ腕を押さえ涙を流しうめき声を上げるエンペラーコングがちょっと可哀想に見えてきたので腕は治して上げた。その結果――
「ゴリィイィィイ――」
何か地面に頭を擦り付けて謝罪の念を示してきたよ。
「流石だよ主様は。エンペラーコングを一撃で倒し平伏させちゃうんだからね。やっぱり最強さ」
「当然です! お兄様の魔法は史上最強なのですから!」
アネが褒め称え、ラーサは改めて目をキラキラさせて僕を見ている。うん、一つも魔法をつかってないけどね――
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