第314話 アネの奥の手

 ナーガは仲間の大蛇を呼び出して一斉に襲いかかってきた。しかもナーガは安全な場所から火球を吐いて攻撃してくる。

 

 全くセコい奴だねぇ。だけどこの状況じゃ間違いじゃない。大蛇は直接攻撃以外は何も出来ないからね。


 正直分体のままじゃキツイね。この状態の私は魔力もそこまで保有してない。結局は本体から分かれた存在だからね。


 でも、このまま諦めるつもりもないよ。だからね――


「――一分さ。ここからはジャスト一分で決めて上げるよ」

「は? あはははははははははははははッ! とんだお笑い草だねぇ。蜘蛛にもそんな冗談が言えるのかい? 全く手も足も糸も出ていないこの状況でどうやって一分なんかで私を倒すっていうのさ!」

 

 ナーガがあたしを見ながら嘲笑ってくる。随分と舐められたものさね。だけど、あたしの奥の手は一分あれば十分さ。


「さぁ! その生意気な口を閉じな!」


 ナーガが再び火球をあたしに向けて放ってきた。全く馬鹿の一つ覚えみたいに大蛇も一斉に攻めてきたね。さて頃合いかね。


 そして――火球は爆発した。目の前が炎に包まれる。


「あはは! 何が一分だい。結局私の炎でふっとばされてるじゃないのさ」

「全くシャーシャーシャーシャーうるさいねぇ」


 もう勝った気になってるナーガに向けてあたしは言い返した。この程度の炎、本体のあたしに通じるわけがないさね。


「――は? ど、どういうことだい! あんたはただの分体だった筈だろう! それなのにその姿――どうみても本体じゃないか!」


 ナーガが耳障りな声で喚いているね。まぁでも驚きたくもなるか。確かに今のあたしは本体そのまま。さっきまでの小さな体は一変し美しい大人の肢体を顕にしているよ。


 だけどま、本体同然というだけで完全な本体じゃない。元々分体とあたしは精神の根幹で繋がっていた。だから分体では対処できない時には一時的に完全に精神を移し本体として活動できる。


 もっともこれをやってしまうと実際のあたしの本体は休眠状態に入るからね。それに分体の魔力の消費も大きい。魂の維持には魔力が必要だ。


 だから長時間この状態でいるのは無理なのさ。こっちであたしが力を発揮できるのは――精々一分、だけどそれだけあれば十分さ。


「お、お前たちやっておしまい!」


 ナーガが仲間の大蛇に命令した。だけど大蛇は動かない、いや、動けない。


 この姿に戻った瞬間には糸を張ったからね。大蛇はピクリとも動けないだろうさ。


「こ、この! さっさとやるんだよお前たち!」

「やれやれ――」


 呆れつつあたしが糸を引くと大蛇が血しぶきを上げ倒れていった。あたしの糸は鋭利な刃物と一緒さ。捉えられた時点でもう終わってるのさ。

 

「さて、随分と好き勝手やってくれたようだけどねぇ。この姿になった以上、あたしは今までみたいに優しくないよ?」

「黙れ! 調子に乗るんじゃないよ! 蜘蛛女風情が!」

 

 ナーガが大口をあけてあたしに炎を吹き付けてきた。なるほどね。これは中々の炎だけど――


「な、わ、私の炎がどうして!」

「糸を結んで盾にしただけさ。今のあたしの力ならそうそう糸も燃えやしないからねぇ」

「なッ!?」


 ナーガが随分と驚いているね。その尾が少しずつ後ずさりしているのがわかるよ。


「終わりだね。あんたの負けさ」

「ふ、ふざけるな! 私があんたなんかに!」

「終わりさね」

「――ッ!?」


 肉薄しそうささやく。そもそもナーガとあたしじゃ速度が違う。今のあたしからしたらナーガの動きなんて欠伸が出るぐらい遅く感じる。


 ま、それも主様の側でその勇姿を見続けていたおかげさね。さて――


「終わりだよ」

「ウワアァアァアアァアアアア!」


 あたしの爪の一振りでナーガは吹き飛ばされ回転しながら地面に落下した。


「これでジャスト一分さ」

  

 ナーガが泡を吹いて倒れているのを認め、あたしは魂を戻し分体の姿に戻った。ふぅ、だいぶ魔力を消費したね。やっぱり本体として動くとしんどいよ。


 でも、ま、これでこっちは片付いたね。フフッ、主様は褒めてくれるかしらねぇ――

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