第313話 蛇の奥の手
「シャァアアァアアアア!」
ナーガが勢いよくあたしに向けて飛びかかってきたね。人に近い両手の爪には猛毒がある。まぁ毒ならアラクネのあたしにもあるんだけど、今のあたしは分体だからね。
流石にこの状態でナーガの毒を受けるのはまずいね。だからあたしは糸を近くの木に絡ませて急上昇したよ。
「シャァアアア!」
ナーガも逃すまいと爪を突き立てようとするけど流石にそれは当たらないよ。
「舐めるんじゃないわよ!」
ナーガがあたしに向けて毒霧を吹き出してきた。だけどね、直接攻撃に比べれば毒霧は効果が薄いのさ。
「はん、そんな物あたいにはきかないんだよ」
こんな姑息な攻撃じゃこのあたしを落とすなんて不可能だね!
「チッ。ちょこまかと鬱陶しいね。だったら――」
ナーガが体を大きく回転させてその長い尾を振り回してきた。全くナーガというのは脳筋だねぇ。
「そんな大振りじゃあ当たりゃしないよ!」
あたしは周囲に生えた木々や建物の壁を足場にしながら華麗にナーガの攻撃を躱していく。そして毒霧を吐いてきたり、長い尻尾での薙ぎ払いや殴打なんかをしてきやがったけど――ま、こんな攻撃は当たらないね。
「どうしたどうした? そんな攻撃じゃ掠りもしないよ」
「フンッ。そんなこといってあんたは逃げ回ってばかりじゃないかい。蜘蛛ってのはやっぱり臆病者だね」
「そうみえたかい? だったら少しは自分の状況を確認して見るんだね」
「なんだって?」
あたしに言われナーガが動きを止めた。ただでさえ細い目を更に細めて見ることで気がついたようだよ。
「お前、こんな物を張り巡らせていたのかい」
「はは、蜘蛛にとって糸は武器だからね。蜘蛛の巣、蜘蛛の糸とはよく言ったもんだろう」
「チッ。油断したよ」
ナーガが忌々しげに周囲を見渡したね。そこに張り巡らせているのは全てあたしの糸だよ。
動きながら張った糸は鋭利な刃物と一緒さ。
「これで決まりだね」
「ほう? 随分と自信があるみたいだね。だけどねぇ」
するとナーガが大きく息を吸い込み――火を吐きやがった。あたしの糸が一瞬にして燃え尽きていく。
だけど、ナーガが炎だって? 聞いたことがないよ。
「ハッハッハ! 驚いたかい? 私はナーガの中でも特別なのさ。毒だけじゃないんだよ!」
「はん、ナーガ如きが粋がるね」
炎で糸は燃やされたけどね、こっちにはまだ手は残ってるのさ。
「フンッ。調子に乗ってるのはあんたの方だろう? 私はナーガだよ」
そんなことはわかってるさ。何を今更――
『キシャァアァアアァアアァ!』
その時だったよ。地面から突如何匹もの大蛇が現れてあたしにむけてその牙を向けてきた。
「チッ! 仲間がいたのかい!」
「当然さ。ナーガの私は蛇を従える。さぁどうする?」
「ダークジャベリン!」
あたしは魔法で漆黒の槍を生み出し大蛇に向けて放った。それで何匹かは倒れたけどね、数が多いよ。
「アッハッハ。所詮は小さくなった分体じゃその程度だろうさ。追い詰めていたのは私の方だったね。ほ~ら!」
ナーガの口から幾つもの火球が吐き出された。大蛇と火球を同時に処理するのは少々骨が折れるね。ふぅ、こうなったら流石に仕方ないかもねぇ――
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