第312話 蜘蛛VS蛇

side ???


 あぁ――どうしてこんなことになったのか。夫が久しぶりの休みで家族サービスだと子どもたちも連れて魔導遊園地に遊びに来てくれた。


 最近は夫も仕事が忙しかったから久しぶりの家族団らんが嬉しかった。子どもたちも喜んでくれた。


 そして子どもたちと動物園にも来て――そこで突然緊急警報が聞こえてきて魔獣が暴れ出した。


「うぐぅ――」


 私の視界には肩をやられ蹲る夫の姿。私たちを庇おうとして――


「ウフフッ。やっぱりいいわね人間は。とっても美味しそう」

 

 そして私たちを見下ろしながら巨大な蛇が舌なめずりをした。蛇と言っても上半身は人に近い。鱗が生えていたり顔はほぼ蛇の物で、それだけにどこか禍々しさを感じてしまう。


 子どもたちは私にしがみつきながらブルブルと震えていた。男の子と女の子二人の三人の子どもは私にとって命よりも大切な存在。


「久しぶりのごちそうにありつけるわ。さぁどれから行こうかしら」

「そ、それなら私を食べてください!」


 私は一歩前に出て蛇の魔獣に訴えかけました。夫はおそらくこの蛇の毒にやられたのでしょう。とても話せる状態ではない。今、子どもたちを守れるのは私だけ。


 私の命一つで子どもたちを守れるなら安いもの。だから貴方――後はお願いします。


「あんたをだって?」

「そ、そうです。これでも肉付きには自信があります。きっと、た、食べごたえがありますよ」

「そんなママ嫌だぁ!」

「蛇に食べられちゃ嫌だぁ」

「ぼ、僕が食べられるそうだよ僕は男の子なんだ!」

 

 子どもたちが私に抱きつきながら涙してます。長男に至っては自分が身代わりになるとまで言っています。だから私は子どもたちをギュッと抱きしめてあげました。


「大丈夫。私は食べられてもあなた達の心のなかにいるから」

「「「ママ~!」」」


 わんわん泣く子どもたちの頭を撫で、私は蛇の魔獣に向き直りました。


「さぁ! お食べなさい!」

「へぇ。人間ってのは変わってるねぇ。自分の命より他者の命が大事だなんて。だけどいいねぇ気に入ったよ」

「そ、それなら」

「あぁ。私は優しいからね。そこの小さいの諸共丸呑みにしてあげるよ。仲良く食べられな」

「そ、そんな――」

「ママぁ~!」


 子どもたちの悲痛な叫びが響きます。こうなったら私が少しでも長くこの蛇の注意を引き、子どもたちから意識を逸らさせないと。だけどこの魔獣に見下され足が竦んで全く動けません。

 

 まさに蛇に睨まれた蛙の如くです。このままじゃ、このままじゃ――


「それじゃあ――頂きま~す!」


 蛇の魔獣が大口を広げて迫ってきました。も、もう駄目――ごめんね弱いママで……。


「はいタンマっと」

「ムグォッ!?」


 その時でした、何か小さな影が飛んできて蛇の魔獣の頭の上に乗り糸で口をぐるぐる巻きにしました。


 あれは小さな? 蜘蛛? いえ、下半身が蜘蛛で上半身が女性のようです。もしかして魔獣? でもどうして私たちを――





◇◆◇

side アネ


 御主人様の助けになるよう動物園を見回っていたら蛇女が人間の親子を狙っているところを見つけた。


 見るにまとめて丸呑みしてやろうってところか。全く相変わらず蛇女は品がなくて意地汚いね。


 とにかく放ってはおけない。私は糸を操って振り子のようにしながら飛んでいき蛇女の頭に乗った。そして口を糸で塞いでやったよ。


「大丈夫かい?」

「え? あ、はい――」


 私が人間の親子の前に着地して聞くと戸惑い気味に答えた。こっちは子どもたちの母親ってところかね。


「その、助けてくれるのですか?」

「そうさ。あたしはゼロの大賢者とも誉れ高いマゼル様の従魔だからね。良く覚えておくんだよ」


 うふふ。ここぞとばかりに主様のアピールを忘れない。この私こそがマゼル様の一番の女だからね。ふふふ。


「ところでそっちの雄、どうやらあいつの毒にやられたようだね」

「そ、そうなんです! 私の夫で一体どうしたらいいか……」

「ふん。ま、安心しな。その程度なら死にはしない。とにかく今は安全な場に退避していることだね」


 母親と子どもたちがオロオロしていたけどね。ナーガは毒で殺すような真似はしない。生きたまま食うのが好きなタイプだからね。


 とはいえ弱ってるからね。どこかで安静にしておいた方がいいだろうさ。


「でも逃げると言っても……」

「プハッ! なんだいあんたは! 私の食事を邪魔してくれやがって!」


 親子と話していると、蜘蛛の糸を引き剥がし蛇女が文句を言ってきた。全く喋り方にも知性が感じられないね。


「ナーガ如きがうっさいねぇ。その食事を止めるためにわざわざあたしが来たんだよ。このアラクネのアネの目が黒い内は人間にちょっかいは出させないよ」


 蛇女ナーガを見上げてあたしは答えた。するとのこいつあたしを見ながら鼻で笑ってきたよ。


「ハッ、アラクネだって? お前みたいな小さなアラクネがいてたまるかい」

「うるさいわね。こっちにも事情があるのよ」

「事情――なるほどね。その魔力の流れ、あんたさては本体と別だね。分体といったところかい」


 へぇ。中々やるじゃないか。あたしをみただけで分体だと見破るなんてさ。


「だとしたら私も舐められたものだよ。たかがアラクネのしかも分体如きがこのナーガ様に喧嘩を売るなんてね」

「むしろナーガ如きが良くもまぁそこまで偉そうな口を聞けたもんだ。あんたごとき今のあたしで十分なんだよ」

「はん。生意気な蜘蛛だね! あんたなんて丸呑みにしてやろうか!」

「やれるものならやってみな」


 言ってあたしは糸を近くの木に絡め飛び立った。案の定挑発に乗ったナーガはターゲットをあたしに移して追ってきたよ。


 だからあの母親の方を見て目で合図した。あたしの意図を理解したのか雄の肩を持って移動を始めたよ。


「蜘蛛のお姉さんありがとう!」

「おねえたんがんばえ~」

「蜘蛛のお姉ちゃんかっけぇえええ!」

「お礼は後にして。ね」


 子どもたちがあたしにお礼を言ってきたよ。その上かっこいいってかい。全くこれまでなら人間の子どもにこんなことを言われるなんて考えられなかったね。


 ま、悪い気分じゃないね。さて、親子も離れれいったしそろそろ蛇狩りといきますか――

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