第309話 メイリアも遊びに来ていた?

sideメイリア

「お前、俺たちとは一緒に行かないって言ってたじゃんか。それなのに何してんだよ」

「――別に、大した理由ではありませんよ。マイマスターからここのソフトクリームの味を確かめて欲しいとそう命じられましたので来ていたまでですとお答えします」

「いや、ソフトクリームって……」

「あはは、思ったよりも可愛らしい理由だったね」


 私の説明にアズールが怪訝そうな顔を見せドクトルは苦笑してました。私は別に嘘を言ってるわけではありません。最低限の答えに留めただけですが。


 そう――本当はここに来る予定なんて私にはなかったのです。休みと言っても私はゴーレム。特にすることもなく何か仕事があるかもしれないとマスターの元へ向かったのですが――





◇◆◇

「マイマスター。何かお仕事はありますか? とお伝えします」

「うん? なんだメイリアじゃないか。どうしたんだい今日は折角の休日だというのに」


 私はマスターの元に向かいました。すると、いつもと変わらない姿のマスターが出迎えてくれました。マスターは笑顔で私に接してくれます。


「いいえ、私はメイドのゴーレムです。メイドとして職務を果たすのは当然のことですとお答えします」

「あー……、うん。そうだねぇ……、まぁ僕には特にお願いすることはないよ。それよりもそろそろクラスにも馴染んできたことだろう? クラスメートと遊びにでかけたりしてもいいんじゃないかな?」


 マスターが奇妙な提案をしてきました。クラスに馴染む――ゴーレムの私にはそのような感情は存在しません。


 それに彼らと一緒に遊びに行くことに意味はないでしょう。私は人間とは違うのです。


「マイマスター。私はマスターに仕えしゴーレムです。遊びになど行く暇があるならマスターの役に立つことがしたいのですとお答えします」

「ふ~ん――」


 私が答えるとマスターはどこか興味深そうに私を見ました。


「――何か?」

「いや。これが反抗期ってものなのかなって思ってね」


 マスターの答えがいまいち理解出来ませんでした。反抗期という言葉の意味はわかります。ですがそれは思春期の人間に起こる現象でありゴーレムの私には――


「はは、その疑問に満ちた顔もいいね。君自身は気がついていないようだけど、もしメイリアがただ私の命令に忠実なだけのゴーレムなら僕が遊びにいくことを勧めたらその通りに動く筈なのさ。だけどそこに抵抗を覚える。これはすなわち君に人のような感情が備わっているという証なのさ」


 私に――人のような感情?


「私はただのゴーレムです。そのようなものは存在しません――とお答えします」

「別に恥ずかしがることじゃないさ。そもそも僕が自立思考出来る形でメイリアを生み出したのも人のような感情が備わってほしいという願いもあってだ。そういう意味では今の君は僕の理想通りなのさ」


 マスターがおっしゃいます。ですが私にそのような感情があると言われてもいまいちピンと来ません。


「メイリア。君は僕が生み出したゴーレムの中では唯一の――そう奇跡の成功例なのさ。きっと同じように生み出そうとしても二度と君のようなゴーレムは出来ないだろう」

「――そんなことはないとお答えします。マスターは天才です。魔導学の権威でもあられるマスターなら幾らでも」

「いや、出来ないさ。それにたとえ出来たとしてもそれはメイリアではない」

「――?」


 私は意味がわからず思わず無言になってしまいました。


「そういう意味で言えばメイリアは僕の子どものようなものでね。その気持ちで接している。だから学園生活を楽しんでほしいと願うのもこれも親心というものになるのかな?」

「――それに何か意味があるのでしょうかとお答えします」

「それはメイリア次第だ。だけど僕は間違いなく君の成長に繋がると思っている」

「――そうでしょうか、とお答えします」

「そうとも」

マスターが満足そうに頷きました。私にはどうしてもそれがわかりませんでした――






◇◆◇


 そして来てみればこの有様です。全く楽しむどころじゃありませんね。


「ブルゥウウウゥウウウァアアァアアアァアア!」

「お、おい奴らのボスが来たぞ!」

「気をつけてメイリア!」


 煩わしい声を上げてホワイトファングとウルフリーズが一斉に飛びかかってきました。こんなもの無視することだって出来たのですけどね。


 ですが――私に思考が宿ったときマイマスターは言われました。


『君にはとりあえず僕の手伝いをしてもらおうかな。後はそうだねその力は僕だけじゃなく困ってる人の為に使えるよう成長して欲しいところだね――』


 その最初に言われた命令はよく覚えてます。ですからこの魔獣は私が倒します――


「ハァアアァアアァアアア!」

「な!」

「蹴りだけでまとめて――」


 向かってきたホワイトファングもウルフリーズも私の蹴りの一撃であっさり倒せてしまいました。


 ――あのマゼルと比べたら随分と手応えがありませんね、とお答えします。

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