第307話 リミットの魔法
「畜生――肩が」
俺の左肩から先が凍りついたが、なんとか詠唱して炎を纏った右拳で反撃した。
しかしウルフリーズは俺の拳を受けこそしたが、殴り飛ばされながらも空中で回転して着地してみせた。動きの一つ一つに余裕が感じられる。
これが魔獣の力って奴か。しかし俺の左腕――
――左腕の凍結を確認。保険適用範囲内です。契約により保険治療が適用されます。
その時、突如そんな声が響き渡ったかと思えば、凍りついていた俺の左腕が元に戻った。
「こいつは――そうか保険魔法の効果か――」
俺たちは以前三年生のムスケル先輩と知り合った。保健体育委員長をしているという先輩で、俺たちは保険魔法への加入を勧められ入ったが思いがけないところで役に立ったぜ。
「これで左腕は使える。だけどそれだけだ。何か対策を考えないと――」
俺はリミットに目を向けた。この魔獣の名前を知っていたリミットなら対策もなにか知ってるかもしれない。
「リミット。なにかいい手はないのかよ。こいつ結構手強い」
「私も考えてるよ。あのね、このウルフリーズを倒すにはこの魔獣の氷の力を上回る火炎で倒すしかないの」
マジかよ。だけど俺の火魔法はこの魔獣には通じてない。
「そんな魔法あるのか? マゼルでもいりゃ別かもだけどよ」
正直マゼルさえいればこいつも簡単に倒せると思う。マゼルの炎なら魔獣の氷ぐらい簡単に溶かしてしまうだろうからな。
「――多分、あの魔獣を倒せる魔法なら私も使える……」
リミットが答えた。リミットがあれを倒せる魔法を?
いや、言われてみれば前にメドーサの魔法で石化したときにリミットが魔法で魔物を一掃していたときがあったな。
直接は見ていないがそれだけの魔法が使えるなら可能性は高いかもしれない。
「それならさっさとやっちまおうぜ」
「……でもね、私の魔法には一つ欠点があるんだよ」
俺が魔法の行使を促すと不安そうにリミットが答えた。そういえばそんな魔法が使えるってのに声に覇気が感じられなかったな。
「私ね。魔力の制御が苦手なんだ。だから魔法を打つときにはいつも全力でやっちゃうの。魔力が尽きるぐらいにね――だから一発魔法を使ったら私はしばらく動けないんだ」
眉を落としてリミットが答えた。そうか、そういうことだったのか。以前の話でリミットは魔法を一回使っただけで気絶したと聞いた。
その理由がこれだったのか。
「その魔法一発で倒せないのか?」
「あの魔獣を倒せる魔法だとブレイズキャノンになるけど、素早い相手には当てにくいんだ。足が止まれば……」
確かにあの魔獣の動きは速い。地面を凍らせて滑って移動してくるからなおさらだ。
だけど、動きか――
「それなら俺があいつの動きを止める。そしたらそのブレイズなんとかって魔法でやっつけろ!」
「ブレイズキャノンだよ! それよりどうやって?」
「見てろよ!」
疑問顔のリミットにそう答え俺はウルフリーズにむけて駆け出した。
魔獣は俺が向かってくるのを見て飛びかかってくる。こいつは動きが確かに速いが好戦的だ。
だから俺が
「オラァ!」
「ブルォッ!?」
俺は迫ってきたウルフリーズに飛びつき体にしがみついた。魔獣もこれで少しは動揺したようだがすぐに暴れだす。冷気を発しているのもわかった。
「舐めんだよ。さっきから好き勝手しやがってこっちはもう怒り心頭なんだよぉおおおぉおおおお!」
俺はウルフリーズ相手に感情を爆発させた。そうすることで俺の体が燃え上がる。感情が高ぶると自分の意志に関係なく俺は発火する。
「どうだ! 俺から吹き出る炎は熱いだろうが!」
「ブルォォオォォオォォオオオオ!」
ウルフリーズが更に激しき暴れ出した。だが俺は離れない。この炎は俺にとっても熱い。体中が焼けるようだ。だけどそのおかげで冷気で凍ることもない。
ただあまり長くは持たない。自分の炎で焼かれちまうからな。
「リミット今だ! こいつに魔法をぉおぐうぅううあちぃいいい!」
「でもそれだとアズールが!」
「俺は上手く避けて見せる! はやくしろぉおぉおおおあちいぃんだよぉおおおお!」
俺が叫ぶとリミットが詠唱を始めた。覚悟は決めたようだな。後は俺がタイミングを見逃さないだけだ。
「直撃し弾けよ爆炎――ブレイズキャノン!」
リミットの魔法が発動した。巨大な火球が俺と魔獣めがけて直進してくる。だがそこまで速くはない。なるほどこれは動き回る相手にはあてずらそうだ。
だが今はウルフリーズも俺の炎でそっちに目がいってねぇ!
「そんなに熱けりゃ離れてやるよ!」
俺は咄嗟にヤツから飛び退き地面を転がった。その直後だリミットの魔法が直撃し魔獣の雄叫びが周囲に響きわたった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます